じかく(いぼじ)
痔核(いぼ痔)
肛門や直腸の内部の血管が一部うっ血し、こぶのように腫れた状態をさす。
8人の医師がチェック 136回の改訂 最終更新: 2021.06.04

痔核(いぼ痔)で知っておくとよいこと

痔核は「いぼ痔」とも呼ばれる、身近な病気の1つです。このページでは、痔核ができやすい人の特徴や予防について説明します。また、妊娠中でも受けられる治療についても説明します。

1. 痔核(いぼ痔)ができやすい人について

肛門に負担がかかる排便習慣がある人、座り仕事や重いものを扱う仕事の人、妊婦や産後の人に痔核ができやすいことがわかっています。以下でそれぞれについて詳しく説明します。

肛門に負担がかかる排便習慣がある人

普段の排便習慣と、痔のできやすさには関係があると考えられています。

【痔ができやすい排便習慣】

  • 便秘がちである
  • 下痢がちである
  • 排便する時に強くいきむ癖がある
  • トイレに長時間座っている

便秘がちな人は、便が直腸の中で長時間留まって肛門に負担がかかるうえ、排便する時に強くいきまなければならないことが多く、さらに肛門に負担がかかります。加えて、硬い便が通過することで肛門が傷つきやすく痔核ができやすくなります。肛門の傷は下痢状の便が頻繁に通過することでもつきやすいため、下痢がちなことも痔核の要因となります。

また、強くいきむ癖やトイレに長く座る癖も肛門の負担となるので要注意です。痔核があると排便後も便がまだ残っているような感覚(残便感)を覚えやすいのですが、必要以上にいきむのを抑え、3分を目安に切り上げるようにしてください。

座り仕事の多い人、重いものを扱う仕事の人

生活習慣と痔核のできやすさの関係を調べた研究では、長時間の座り仕事を行う人に痔核が多かったと報告されています。長い時間座位で過ごすことで、肛門の血流が悪くなり、痔核ができやすくなると考えられます。予防のために、定期的に立ち上がって歩いたりストレッチをしたりして血行を改善させるように心がけてください。

また、重い物を扱う仕事の人にも痔核ができやすいといわれています。これは重いものを持つ時にお腹に圧がかかり、トイレでいきむ時と同じように肛門に負担がかかるためだと考えられます。こちらも定期的に休憩を取り入れることが予防につながります。

妊娠中、出産後の人

妊娠中は大きくなった子宮に直腸や肛門が押されることで便が通りにくくなったり、女性ホルモンの影響を受けて便秘になりやすいです。便秘は痔核の要因となります。加えて、大きくなった子宮が骨盤内の静脈を圧迫して肛門周りの血の巡りが悪くなることや、経膣分娩で強くいきむことも、痔核のできやすさに繋がります。また、出産後はホルモンバランスが大きく崩れ、肉体的にも精神的にも疲労がたまり、痔核が悪化しやすい状況になります。

妊娠中や出産後の人は普段より痔核が悪化しやすため、肛門に負担がかかるようなことはできるだけ避けるように気をつけてください。

2. 痔核の症状は繰り返すのか

痔核の症状は繰り返すことがあります。

排便状況の改善や、薬で炎症を抑えることで腫れは引いていきますが、痔核が消えてなくなることは多くはありません。そのため、生活習慣の乱れなどによって肛門に負荷がかかれば再び痔核は腫れて大きくなり、症状が再発します。

症状を繰り返さないためには普段の生活を見直すことが大切です。繰り返す場合は外科的治療で痔核を取り除くことも視野に入れる必要があります。

3. 痔核を改善・予防するためにできること

痔核の改善や予防のためには排便習慣や生活習慣を見直してください。

【痔核の予防のために気をつけること】

  • 排便習慣
    • 便秘や下痢を避ける
    • トイレでいきむのは3分以内にする
    • 肛門周囲の清潔を保つ
  • 生活習慣
    • 身体の疲れや精神的なストレスをできるだけ取り除く
    • 長時間、座らない
    • 身体を冷やさない
    • 飲酒を控える

まずは排便習慣について注意してください。また、その他の生活習慣で気をつける点については、日頃守れていないところから重点的に変えていけるように心がけてみるとよいです。

排便習慣

便秘や下痢にならないように心がけてください。具体的な改善法については「>薬に頼る前に!自分でやっておきたい便秘改善法」や「症状が悪くなる食べ物と、よくなる食べ物がある?:過敏性腸症候群(IBS)の人が知っておきたい食事療法とは」を参考にしてください。また、長時間トイレに座っていきむと肛門に強い負担がかかるため痔核が出来やすくなります。トイレでいきむのは3分以内にすることをおすすめします。

肛門周囲はできるだけ清潔を保つようにしてください。痔核がある人は入浴時にシャワーなどを使って念入りに洗うようにしてください。

生活習慣

肉体的な疲れや精神的なストレスが痔核の悪化につながる可能性があります。症状が悪化している場合は、できるだけ睡眠をとって身体を休めるようにしてください。また、長時間座ることや身体を冷やすことは痔の症状の悪化につながります。座り仕事や長時間の座っての移動の時は、定期的に立ちあがって身体を動かすようにしてください。

日常生活での注意点について、詳しい説明は「痔に悩む人に知ってほしい7つの習慣」でも解説していますので、参考にしてみてください。

4. 痔核による困った症状が起きた時の対策について

痔核が悪化すると次のような困った症状が起きる可能性があります。まだ受診したことがない人や長らく受診したことがない人も、困った時にどのように対処したらいいかを確認しておけば、いざという時に安心です。

肛門からいぼが飛び出したまま戻らない

痔核が悪化すると肛門から痔核が飛び出ることがあります。飛び出したいぼが自然に元に戻らなければ、手で優しく肛門の中に戻すようにしてください。肛門用のゼリーや軟膏を持っている人は、いぼと肛門周りにそれを塗ったうえで痔核を戻すとスムーズです。一方で、手で押してもいぼが戻らない場合は、医療機関を早めに受診するようにしてください。

また、いぼが外に飛び出た状態のまま肛門が強く締まることで、急激に激しい痛みが現れることがあります。この状態は「嵌頓痔核」とよばれ、いぼは短時間で腫れて中に血の固まりができます。無理に押し込もうとするとさらに症状が悪化することがありますので、直ちにに医療機関を受診するようにしてください。

肛門からの出血が止まらない

便が肛門を通過する刺激で痔核から出血することがあります。出血はすぐに止まることが多く、出血量も多くはありません。しかし、まれですが、大量出血することもあります。出血が多くなると、気分が悪くなって顔色が青ざめたり、ふらついたりするなどの症状があらわれます。

肛門からの出血がなかなか止まらない時は、直ちに医療機関を受診するようにしてください。

5. 妊婦に対する痔核の治療について

妊娠中に痔核ができたり悪化したりする人がいます。妊娠中は胎児への影響が心配されるために使われない薬がいくつかあるので、注意が必要です。

妊娠中に使える痔核の治療薬について

痔核の治療薬には外用薬(塗り薬)と内服薬(飲み薬)の大きく2つがありますが、妊娠中は基本的に外用薬が使われます。

外用薬はステロイドを含むものと含まないものに分けられます。妊娠中でも、短期間狭い範囲に限って塗るのであれば、ステロイド外用薬が妊娠経過や胎児に悪影響を及ぼしたという報告はとくにありません。しかし、安全性が完全に確立されているわけではないので、症状の程度にもよりますが、ステロイドを含まないタイプの外用薬で様子をみることが多いです。

一方、痔核の内服薬については、妊婦や胎児に対する安全性が確立されているものはないため、使われることはほとんどありません。

ただし、便秘が痔核悪化の要因と考えられる人には、妊婦でも使える便秘薬「酸化マグネシウム」や「モビコール配合内用剤」が処方されることがあります。

妊娠中の痔の手術について

医療機関によって方針は多少異なりますが、安定期であれば妊娠中でも局所麻酔や腰椎麻酔を行って手術を受けることができます。症状の程度と治療で得られる効果のバランスをみて行うかどうかが判断されます。

痔核の手術は産婦人科ではなく肛門科や消化器外科で行われます。妊娠中に手術を検討したい人はまずかかりつけの産婦人科のお医者さんに相談してください。

参考文献

・日本大腸肛門病学会/編. 「肛門疾患(痔核・痔痩・裂肛)・直腸脱 診療ガイドライン 2020年版(改定第2版)」, 南江堂, 2020
・幕内雅敏/監、杉原健一/編. 「大腸・肛門外科の要点と盲点(Knack & Pitfalls)第3版」, 文光堂, 2014
・Nesselrod Jp. Pathogenesis of common anorectal infections.Am J Surg 88:815-817t 1954 18)
・佐原力三郎. 痔痩の病因,分類、外科. 77:644-647, 2015
・肛門疾患診療のすべて. 臨床外科増刊. vol.63 No.11, 医学書院, 2008
・Prasad GC, et al. Studies on etiopathogenesis of hemorrhoids. Am J Proctol. 1976 Jun;27(3):33-41.
・Acheson RM. Haemorrhoids in the adult male; a small epidemiological study. Guys Hosp Rep. 1960;109:184-95.