むずむず脚症候群の治療について:生活改善や内服治療など
むずむず脚症候群の治療では、まず嗜好品の中止、睡眠の工夫、適度な運動などの生活の改善が行われます。使用中の薬が原因と考えられる時には薬の減量や中止を検討し、特定の病気が原因である場合には病気の治療が行われます。これらを行っても改善しない人や日常生活に支障がある人には薬物治療が検討されます。
1. むずむず脚症候群はどの診療科を受診すればいいのか
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:restless legs syndrome:RLS)は夜間に
脚を動かしたくなることから整形外科に、皮膚の感覚の異常から皮膚科に受診する人もいるようですが、それらの診療科ではむずむず脚症候群の診療を行っていないことがほとんどです。
受診前に、睡眠障害の診療をしているか各医療機関のホームページで確認したり問い合わせたりするとより確実です。
2. 生活習慣の改善
むずむず脚症候群の治療は症状の程度によって異なります。症状が軽く、不眠や昼間の眠気など生活の支障がない人には薬での治療は基本的には必要ありません。そのような人は、まず次のような生活習慣の改善を行います。
- 嗜好品の中止
- 睡眠の工夫
- 適度な運動、ストレッチ
生活の見直しについて詳しく説明します。
嗜好品の中止
むずむず脚症候群はタバコ、アルコール、カフェインなどの嗜好品で症状の悪化を起こします。これらの習慣がある人は寝る前の摂取を避けるか、できれば中止するようにしてください。
睡眠の工夫
規則正しい睡眠を心がけたり、睡眠前に少しの工夫を取り入れることで、症状を和らげたり睡眠導入を助ける効果があります。次のようなことを試してみてください。
- いつも決まった時間に寝て起きるようにする
- 寝る時間を遅くする
- 短時間歩く(激しい運動は避ける)
- 寝る前に脚のマッサージやストレッチをする
- お風呂に浸かって温まる
- 寝る前に脚を温める、もしくは冷やす
むずむず脚症候群は夕方から夜間に症状が悪化し、明け方から午前中は症状が軽いことが知られています。そのため、症状が強い時間帯よりも後ろに就寝時間ずらすことで、入眠しやすくなる可能性があります。
就寝前に短時間歩くことにも効果がありますが、激しい運動は逆効果になるので避けてください。いつも症状が出る足の部分のマッサージや、ストレッチにも効果があります。
脚を温めたり、冷やしたりすることにも症状を和らげる効果があります。どちらが良いのかは個人で異なるので、自分に合った方法を探ってみてください。例えば、温める場合には足湯をしたり、蒸しタオルを当ててみても良いですし、冷やす場合には冷たいシャワーをかけたり、市販の冷湿布や冷却ジェルシートを貼ったりする方法があります。
適度な運動、ストレッチ
寝る直前にかかわらず、適度な運動やストレッチは不快な症状の緩和に効果があります。ある研究では1週間のうち3日、30分程度の有酸素運動を6-12週ほど続けるとRLS症状の改善が見られると報告されています。
3. 原因となる薬物の見直し
特定の薬を開始後に症状が現れた人では、その薬がむずむず脚症候群の原因となっている可能性があります。そのため、まずは薬を処方したお医者さんに相談してみてください。病気の治療のため薬の中止が難しい人でも、量を減らすことでむずむず脚症状群の症状が軽くなることがあります。
ただし、自己判断による中止は、突然の服薬中止に伴う副作用が起きる可能性があるので避けてください。内服は継続したままお医者さんに相談してください。
3. 原因となる病気の治療
むずむず脚症候群のうち、特定の病気などが原因になるものを
二次性RLSでは原因となる病気の治療を行うことで症状が改善することがあります。原因となる病気のかかりつけのお医者さんに、脚の症状について相談してみてください。
鉄欠乏に関しては、貧血と診断されるほどであっても、貧血まで至っていない程度であってもRLSの原因になります。いずれも鉄剤の内服治療が行われます。
4. 薬物治療
生活の見直しなどを行ってもむずむず脚症候群の症状が改善しない人や、日常生活に支障が起きるほど症状が強い人では薬物治療が検討されます。ここでは、治療に使われる薬物について説明します。
ドパミン作動薬(ドパミンアゴニスト/ドパミン受容体刺激薬)
ドパミン作動薬は、
一般的には脳内のドパミンの相対的な不足が原因となるパーキンソン病などの治療薬として使われていますが、いくつかの薬は、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:restless legs syndrome:RLS)の治療にも使われています。RLSを引き起こす要因のひとつにドパミンによる神経伝達機能の低下(ドパミン系間脳
ドパミン作動薬は、化学構造などの違いにより非麦角系と麦角系という種類に分かれます。RLSの治療に対しては、例えば非麦角系ではプラミペキソール(主な商品名:ビ・シフロール®)、ロピニロール(主な商品名:レキップ®)、ロチゴチン(商品名:ニュープロパッチ®)、タリペキソール(商品名:ドミン®)などが、麦角系ではカベルゴリン(主な商品:カバサール®)などが治療の選択肢になっています。非麦角系は麦角系に比べると心臓弁膜症などの循環器系副作用へのリスクがより少ないとされ、
麦角系・非麦角系問わず、ドパミン作動薬で注意すべき副作用としては、吐き気や食欲不振などの消化器症状、幻覚、妄想、
レボドパ(L-DOPA:L-ドパ)製剤
レボドパ(L-ドパ)は、脳内に移行した後でドパミンへ変換される薬剤で、ドパミン作動薬同様に一般的には脳内のドパミンの相対的な不足が原因となるパーキンソン病の治療に使われている薬です。ドパミン作動薬の欄でも触れたように、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:restless legs syndrome:RLS)を引き起こす要因のひとつにドパミンによる神経伝達機能の低下(ドパミン系間脳脊髄経路の機能低下異常)などが考えられていることから、脳内でドパミンへ変換され中枢ドパミン神経系の伝達改善が期待できるレボドパ製剤もRLS治療の選択肢となっています。
レボドパ製剤は即効性が期待できる一方で、使用が長期に渡ると夜間の症状発現が早まったり症状がむしろ悪化する、他の四肢への症状拡大がみられる、早朝の反跳現象がみられるなどの懸念もあります。これらのこともあり、RLS治療におけるレボドパ製剤は、比較的軽度な病態における症状改善(例えば、必要時だけ使用する)であったり、急速にRLSの症状を改善させる必要性がある場合などに対して有用とされています。
レボドパ製剤で注意すべき副作用には、吐き気などの消化器症状、幻覚や衝動制御障害、眠気(突発的な眠気を含む)などの精神神経系症状、汗や尿などの着色(薬の一部がメラニンという物質に変化することで黒っぽい着色がみられる場合があります)などがあります。
なお、一般的に医療現場でよく使われているレボドパ製剤は、吐き気などの消化器症状の軽減であったり脳内におけるレボドパの利用率を高める効果が期待できるカルビドパやベンセラジドといった成分がレボドパと一緒に配合されている製剤(主な商品名:ネオドパストン®、メネシット®、イーシー・ドパール®、ネオドパゾール®、マドパー®)になります。
ベンゾジアゼピン系薬:クロナゼパム(ランドセン®︎、リボトリール®)など
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:restless legs syndrome:RLS)の治療には、ベンゾジアゼピン(BZD)系という種類に分類される薬が使われることがあります。
このBZD系の薬は、一般的に
BZD系の薬は、主に脳内のGABA(gamma-aminobutyric acid:γ-アミノ酪酸)という抑制性の神経伝達物質の働きを高めることにより催眠鎮静作用などをあらわします。
ベンゾジアゼピン系の中でもクロナゼパム(商品名:ランドセン®、リボトリール®)は、抗不安薬、抗てんかん薬、頭痛
クロナゼパムをはじめBZD系の薬で注意すべき副作用は、眠気やめまいなどの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状などのほか、頻度は稀とされてますが、呼吸抑制や連用による依存性などがあります。
抗けいれん薬:ガバペンチン(ガバペンチン エナカルビル)など
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:restless legs syndrome:RLS)の改善には、ガバペンチンという薬が選択肢のひとつになっています。ガバペンチン自体は、一般的に「抗けいれん薬」に分類される薬で、日本では脳内の神経細胞の異常な興奮により、けいれん性の発作などが引き起こされるてんかんの治療薬(主な商品名:ガバペン®)として承認されています。
ガバペンチンには主に2通りの作用の仕組みが考えられていて、ひとつは脳内で興奮性のシグナルとなるカルシウム(Ca)イオンの流入を抑えることで興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸などの遊離を抑えるという仕組み。もうひとつは脳内で抑制性の神経伝達物質となるGABA(gamma-aminobutyric acid:γ-アミノ酪酸)の量を増やしGABAの神経系機能を維持・増強する仕組みが考えられて、これらの作用により、てんかん発作を抑える作用をあらわすとされています。またCaイオンによる神経細胞の興奮は痛みを引き起こす神経伝達物質の遊離にも関わっているとされ、Caイオンの流入を抑えるガバペンチンには、神経の痛み(神経障害性疼痛)に対する有用性なども考えられています。
RLSがあらわれる仕組みはまだ詳細にはわかっていませんが、脳内における興奮性の神経伝達物質の関与が要因のひとつとされています。ガバペンチンのRLSに対する詳しい作用の仕組みも明らかにはなっていませんが、Caイオンの流入を抑えグルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の遊離を抑えることなどに起因するのではと考えられています。
ガバペンチンで注意すべき副作用には、眠気、めまい、頭痛などの精神神経系症状、
◼︎ガバペンチン エナカルビル(商品名:レグナイト®)
ガバペンチンに限ったわけではありませんが、薬剤によっては服用(経口投与)時の有効成分の吸収の度合いに個人差が出やすいものもあります。ガバペンチン エナカルビル(商品名:レグナイト®)は、体内で分解されてガバペンチンを生成するプロドラッグ(体内で
また、RLSの症状があらわれやすい夜間に薬の効果がより発揮しやすく、1日1回の服用(通常、就寝前に服用)が可能な
ガバペンチンを元に造られている製剤のため、注意すべき主な副作用は、めまいや眠気などの精神神経系症状などガバペンチンに準じたものです。ただし「レグナイト®」の製剤自体の保管・保存にはより注意が必要です。比較的、熱や湿気の影響を受けやすい製剤のため、通常は乾燥剤が封入された専用の保管袋などに入れ高温・多湿をさけて保存します。
プレガバリン(リリカ®)
プレガバリン(商品名:リリカ®)は通常、神経痛(坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛など)や糖尿病性神経障害といった神経が関係する痛み(神経障害性疼痛)の緩和に対して使われている薬です。
プレガバリンの作用の仕組みは先ほどのガバペンチンに類似していて、脳内で興奮性のシグナルとなるカルシウム(Ca)イオンの流入を抑え、痛みを引き起こす神経伝達物質の過剰な放出を抑えることによって鎮痛効果をあらわすとされています。この類似点もあって、プレガバリンはガバペンチンなどと同様に元々は「抗けいれん薬」に分類される薬で、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:restless legs syndrome:RLS)に対しても改善効果が期待できるとされてます。
プレガバリンで注意すべき副作用には、眠気やめまいなどの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状、霧視(霧がかかったようにみえる)などの眼症状、体重変動などがあります。プレガバリンに限ったわけではありませんが、めまいやそれに伴う転倒といった副作用には特に注意が必要とされ、転倒による骨折などのリスクが一般的に高い高齢者などへの使用はより注意が必要です。また腎機能の状態などによっては薬剤の用量の調節が必要になる場合があり、腎機能が低下していたり持病に腎疾患がある場合にも注意が必要です。
その他の薬:鉄剤、オピオイド
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:restless legs syndrome:RLS)の治療には、鉄剤が有用となることもあります。
鉄剤というと「貧血の薬」というイメージをもたれるかもしれませんが、鉄欠乏性貧血や貯蔵鉄(肝臓や
また、鉄剤を服用していると、体内で酸化された鉄分が便に混ざることで便が黒褐色に着色することがありますが、この着色そのものは問題ありません。また同じような理由で、口の中に残った鉄分が酸化されたり、お茶などに含まれるタンニンと反応することなどによって歯の表面が一時的に黒〜茶褐色に着色することも考えられます。多くの場合、歯磨き(ブラッシング)などによって解消されますが、仮に歯磨きなどで着色がとれない場合においても歯科的な研磨によって除去可能です。
そのほか、RLS治療にはオピオイドと呼ばれる薬が使われることも考えられます。
「オピオイド(オピオイド薬)」とは、一般的に体内のオピオイド受容体に作用する薬のことを示します。オピオイドは一般的に、「痛み止め」として使われることが多い薬ですが、RLSに対しても効果が期待できるとされます。
例えば、ドパミン作動薬などによるRLS治療が比較的長期になった場合の懸念として、RLSの重症度が増強したり、より容易であったりより早い時間帯で症状が出現するなどのAugmentation(増強・強化現象)と呼ばれる合併症がありますが、オピオイドにはこの合併症があらわれた際のドパミン作動薬の代替薬としての有用性が考えられています。また、オピオイド自体に高い鎮痛効果が期待できることもあり、痛みを伴うようなRLSの病態に対する有用性なども考えられています。RLS治療という面では、ドパミン作動薬やガバペンチンなどに比べると使われるケースはかなり限定的ともいえますが、トラマドール(主な商品名:トラマール®)、ブプレノルフィン(主な商品名:ノルスパン®)、コデインリン酸塩などのオピオイドが治療の選択肢となることも考えられます。ただし、便秘、呼吸抑制、依存性などのオピオイド特有ともいえる副作用に対しては特に注意が必要です。オピオイドの中でも強オピオイドと呼ばれる薬効が強くあらわれるオピオイドに比べると、トラマドールなどのオピオイドは副作用への懸念が比較的少ないとされますが、個々の体質や病態などを十分考慮した上で使用する必要があります。