特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療について
いくつかある特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療方法の中でも、
1. ピロリ菌除菌
ピロリ菌はITPの
ピロリ菌の除菌では以下の2種類の
- アモキシシリン(抗菌薬①)
- クラリスロマイシン(抗菌薬②)
- プロトンポンプ阻害薬(胃薬)
※これら3種類の薬がひとつにまとまったものに「ボノサップ®」、「ランサップ®」、「ラベキュア®」があります。
飲み終わって1か月以上経ってからピロリ菌の検査をもう一度行い、ピロリ菌を除菌できたかを判定します。ここで除菌成功であれば良いのですが、失敗してしまう場合があります。その時はクラリスロマイシンをメトロニダゾールという薬に変更し、再度除菌を試みます。ピロリ菌の除菌ができた人のうち60%で血小板の数が増えるといわれています。ピロリ菌を除菌しても血小板の数が十分増えない人はステロイド薬による治療などを検討します。
2.ピロリ菌除菌以外の初期治療
もともとピロリ菌に感染していない人やピロリ菌除菌を行っても血小板数が十分に上昇しなかった人は以下のような治療が行われます。
- ステロイド薬
脾臓 摘出術
それぞれについて詳しく説明します。
ステロイド薬
ステロイド薬は
◼︎ステロイド薬の種類や量について
ITPの治療でよく使われるものにプレドニゾロン(プレドニン®)、デキサメサゾン(デカドロン)があります。例えばプレドニゾロンというステロイド薬を飲み薬として使用する場合、体重1kgあたり0.5mgから1mgの量から飲み始めます。その後、血小板の数が上昇し、安定したところで徐々にステロイド薬の減量を進めていきます。ただし、減量の過程で血小板の数が低下してきてしまう時は再度増量することもあります。
◼︎ステロイド薬の副作用について
ステロイド薬を使用する時は副作用に注意が必要です。具体的にはムーンフェイス(顔の形が丸くなる)、肥満、
これらのステロイド薬の副作用を防ぐために、薬を飲むことがあります。例えば感染予防のためにST合剤という
ステロイド薬にはいろいろな副作用があり、不安に思う人もいると思いますが、自己判断でステロイド薬を中止したり、減量することは避けなければいけません。体内ではもともと副腎という臓器で
ステロイド薬内服中に体調に何らかの変化が生じた時は、自分で判断せずに医師に相談するようにしてください。
脾臓摘出手術(脾臓をとる手術)
ピロリ菌除菌やステロイド薬による治療で血小板数が十分上昇しない人や、副作用が理由でステロイド薬を継続的に飲めない人には、脾臓摘出手術が検討されます。ITPでは血小板を標的とする
◼︎脾臓をとっても大丈夫なのか
脾臓は
3.その他の治療
上で述べた治療を行っても血小板数が上昇しなかった人には次のような治療が考慮されます。
これらについて詳しく説明していきます。
トロンボポエチン受容体作動薬(血小板を作るように刺激する薬)
トロンボポエチン受容体作動薬は
■血小板はどうやってできるか
血小板をはじめとした血液の成分は骨の中の骨髄という場所で作られています。骨髄ではまず巨核球という細胞が作られ、血小板は巨核球の一部がちぎれてできます。そして完成した血小板のみが骨髄から血液中に出て全身に運ばれます。大人では腸骨(おしりの骨)と胸骨(胸の骨)の骨髄で造血(血液が作られること)が起きています。
■トロンボポエチン受容体作動薬はどういう薬か
トロンボポエチン受容体作動薬は、血小板の元になる巨核球の数を増やすことで血小板数を増やします。現在使われているトロンボポエチン受容体作動薬には、エルトロンボパグ(レボレードⓇ)とロミプロスチム(ロミプレートⓇ)の2種類があります。エルトロンボパグは飲み薬、ロミプロスチムは皮膚に注射する薬です。
免疫を抑える薬(リツキシマブなど)
ITPの治療として、免疫を抑える薬も使われます。その一つがリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)という薬です。リツキシマブは抗体を作り出す細胞の増殖を抑えることで、血小板を標的とする抗体の産生を減らす薬です。比較的長く治療効果が継続するので使われることが少なくありません。
その他シクロスポリンなどの免疫を抑える薬も使われることがあります。
4.手術や妊娠・出産の時の対応
手術や妊娠・出産の時は通常と異なる対応をすることがあるので、ここで詳しく説明します。
手術の時はどうするのか
ITPの人は出血が止まりにくいため、手術を受けるときに不安を感じる人もいると思います。緊急度がそこまで高くない手術は、治療で血小板数が安定した後に受けるのが望ましいです。しかし中にはできるだけ早めに行う必要のある手術もあります。その時は上で述べた治療ももちろん行われますが、一時的に血小板を上昇させるために
妊娠・出産の時はどうするのか
ITPの人では妊娠、出産についての不安が少なくないと思います。。特に出産の時は出血が多くなることがあるので、出産予定に合わせて治療を行い、血小板数が高い状態で出産できるようにします。
■出産の時には血小板はどのくらい必要か
安全な出産に必要な血小板数は、膣を通っての出産か(経膣分娩)か手術での出産か(帝王切開)によって異なります。経膣分娩の場合は血小板が5万/μL程度、帝王切開の場合は8万/μL程度が必要です。ただし、経膣分娩の予定であっても、妊婦さんの状態の変化によっては緊急で帝王切開が行われることもあります。ですので、予定外のことにも対応できるように妊娠のときは血小板が十分に高いことが大事です。
■妊娠している時の治療について
妊娠中はITPの治療の子どもへの影響が心配な人もいると思います。ITPの治療薬の中で妊娠中に使うことができるのはステロイド薬もしくは免疫グロブリンです。ステロイド薬にはいくつか種類があります。その中でプレドニゾロンは胎盤を通過せず子どもへの影響が少ないので使われることが多いです。これらの治療を組み合わせて血小板数を上昇させ、安全に出産できるようにします。
このように計画的な治療が必要なので、妊娠や出産の予定がある時は事前に医師に相談するようにしてください。