とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう(アイティーピー)
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
出血を止めるために必要な血小板が免疫の異常によって減少し、出血しやすくなる病気
9人の医師がチェック 121回の改訂 最終更新: 2021.08.24

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療について

いくつかある特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療方法の中でも、ピロリ菌の除菌は副作用が少ないため、まず最初に検討されます。ピロリ菌感染のない人やピロリ菌除菌の効果が十分でなかった人にはステロイド薬などの治療が行われます。このページではどのような治療が行われるかについて詳しく説明します。

1. ピロリ菌除菌

ピロリ菌はITPの発症に関連があるといわれています。ピロリ菌に感染していることが分かったITPの人は、ピロリ菌の除菌をすることで血小板の数を増やせることがあります。

ピロリ菌の除菌では以下の2種類の抗菌薬と胃薬を1週間飲みます。

※これら3種類の薬がひとつにまとまったものに「ボノサップ®」、「ランサップ®」、「ラベキュア®」があります。

飲み終わって1か月以上経ってからピロリ菌の検査をもう一度行い、ピロリ菌を除菌できたかを判定します。ここで除菌成功であれば良いのですが、失敗してしまう場合があります。その時はクラリスロマイシンをメトロニダゾールという薬に変更し、再度除菌を試みます。ピロリ菌の除菌ができた人のうち60%で血小板の数が増えるといわれています。ピロリ菌を除菌しても血小板の数が十分増えない人はステロイド薬による治療などを検討します。

2.ピロリ菌除菌以外の初期治療

もともとピロリ菌に感染していない人やピロリ菌除菌を行っても血小板数が十分に上昇しなかった人は以下のような治療が行われます。

  • ステロイド薬
  • 脾臓摘出術

それぞれについて詳しく説明します。

ステロイド薬

ステロイド薬は免疫機能を抑える薬です。ステロイド薬にはいくつかのタイプがありますが、飲み薬が使われることが多いです。ここではITP治療でのステロイド薬の使用方法と副作用について見ていきます。

◼︎ステロイド薬の種類や量について

ITPの治療でよく使われるものにプレドニゾロン(プレドニン®)、デキサメサゾン(デカドロン)があります。例えばプレドニゾロンというステロイド薬を飲み薬として使用する場合、体重1kgあたり0.5mgから1mgの量から飲み始めます。その後、血小板の数が上昇し、安定したところで徐々にステロイド薬の減量を進めていきます。ただし、減量の過程で血小板の数が低下してきてしまう時は再度増量することもあります。

◼︎ステロイド薬の副作用について

ステロイド薬を使用する時は副作用に注意が必要です。具体的にはムーンフェイス(顔の形が丸くなる)、肥満血糖上昇、コレステロール上昇、血圧上昇、易感染性(感染症にかかりやすくなること)、骨が弱くなる、皮膚症状(にきびなど)、気分の高ぶりや落ち込みがあります。

これらのステロイド薬の副作用を防ぐために、薬を飲むことがあります。例えば感染予防のためにST合剤という抗生物質を飲んだり、骨が弱くなることの対策として、活性型ビタミンD3製剤や、ビスホスホネート製剤などの骨粗鬆症の治療薬を使うことがあります。

ステロイド薬にはいろいろな副作用があり、不安に思う人もいると思いますが、自己判断でステロイド薬を中止したり、減量することは避けなければいけません。体内ではもともと副腎という臓器でステロイドが作られています。しかし、長期間ステロイド薬を内服していると薬剤からのステロイドに身体が頼ってしまい、副腎でステロイドが作られなくなります。その状態で、急に自己判断でステロイド薬を中止すると、身体に必要なステロイドが不足し、発熱、倦怠感嘔気などが出現し、さらには意識を失ったり生死に関わることもあります。

ステロイド薬内服中に体調に何らかの変化が生じた時は、自分で判断せずに医師に相談するようにしてください。

脾臓摘出手術(脾臓をとる手術)

ピロリ菌除菌やステロイド薬による治療で血小板数が十分上昇しない人や、副作用が理由でステロイド薬を継続的に飲めない人には、脾臓摘出手術が検討されます。ITPでは血小板を標的とする抗体ができていて、脾臓(お腹の左側にある臓器)で血小板が破壊されています。脾臓を手術でとることで血小板の破壊を防ぐことができます。

◼︎脾臓をとっても大丈夫なのか

脾臓は細菌感染に対する防御に関わっているので、脾臓を取った後は細菌による感染症にかかりやすくなってしまいます。特に肺炎球菌インフルエンザ桿菌髄膜炎菌に対する防御が不十分になってしまうといわれています。しかし、この3つにはワクチンがあるので、手術前にそれぞれのワクチンを接種し、感染予防を行います。

3.その他の治療

上で述べた治療を行っても血小板数が上昇しなかった人には次のような治療が考慮されます。

これらについて詳しく説明していきます。

トロンボポエチン受容体作動薬(血小板を作るように刺激する薬)

トロンボポエチン受容体作動薬は骨髄の中の巨核球を刺激をし、血小板を増やす薬です。この薬の効果を説明するために、まず血小板がどこでどのように作られるのかを説明します。

■血小板はどうやってできるか

血小板をはじめとした血液の成分は骨の中の骨髄という場所で作られています。骨髄ではまず巨核球という細胞が作られ、血小板は巨核球の一部がちぎれてできます。そして完成した血小板のみが骨髄から血液中に出て全身に運ばれます。大人では腸骨(おしりの骨)と胸骨(胸の骨)の骨髄で造血(血液が作られること)が起きています。

■トロンボポエチン受容体作動薬はどういう薬か

トロンボポエチン受容体作動薬は、血小板の元になる巨核球の数を増やすことで血小板数を増やします。現在使われているトロンボポエチン受容体作動薬には、エルトロンボパグ(レボレードⓇ)とロミプロスチム(ロミプレートⓇ)の2種類があります。エルトロンボパグは飲み薬、ロミプロスチムは皮膚に注射する薬です。

免疫を抑える薬(リツキシマブなど)

ITPの治療として、免疫を抑える薬も使われます。その一つがリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)という薬です。リツキシマブは抗体を作り出す細胞の増殖を抑えることで、血小板を標的とする抗体の産生を減らす薬です。比較的長く治療効果が継続するので使われることが少なくありません。

その他シクロスポリンなどの免疫を抑える薬も使われることがあります。

4.手術や妊娠・出産の時の対応

手術や妊娠・出産の時は通常と異なる対応をすることがあるので、ここで詳しく説明します。

手術の時はどうするのか

ITPの人は出血が止まりにくいため、手術を受けるときに不安を感じる人もいると思います。緊急度がそこまで高くない手術は、治療で血小板数が安定した後に受けるのが望ましいです。しかし中にはできるだけ早めに行う必要のある手術もあります。その時は上で述べた治療ももちろん行われますが、一時的に血小板を上昇させるために免疫グロブリンという薬が使われることがあります。免疫グロブリンはステロイド薬などの他の薬よりも効き目が早いことが特徴です。だいたい1-2日で効果が出はじめ、数週間程度効果が続くといわれています。さまざまな治療を組み合わせてできるだけ安全に手術を受けることができるようにするので、手術の予定がある人は事前に医師に相談するようにしてください。

妊娠・出産の時はどうするのか

ITPの人では妊娠、出産についての不安が少なくないと思います。。特に出産の時は出血が多くなることがあるので、出産予定に合わせて治療を行い、血小板数が高い状態で出産できるようにします。

■出産の時には血小板はどのくらい必要か

安全な出産に必要な血小板数は、膣を通っての出産か(経膣分娩)か手術での出産か(帝王切開)によって異なります。経膣分娩の場合は血小板が5万/μL程度、帝王切開の場合は8万/μL程度が必要です。ただし、経膣分娩の予定であっても、妊婦さんの状態の変化によっては緊急で帝王切開が行われることもあります。ですので、予定外のことにも対応できるように妊娠のときは血小板が十分に高いことが大事です。

■妊娠している時の治療について

妊娠中はITPの治療の子どもへの影響が心配な人もいると思います。ITPの治療薬の中で妊娠中に使うことができるのはステロイド薬もしくは免疫グロブリンです。ステロイド薬にはいくつか種類があります。その中でプレドニゾロンは胎盤を通過せず子どもへの影響が少ないので使われることが多いです。これらの治療を組み合わせて血小板数を上昇させ、安全に出産できるようにします。

このように計画的な治療が必要なので、妊娠や出産の予定がある時は事前に医師に相談するようにしてください。