サリン中毒の基礎知識
POINT サリン中毒とは
有毒ガスであるサリンによる中毒です。サリンは自然界には存在しない物質であり、中毒は主にテロやそれに準じる事態で起こることが多いです。症状としては頭痛、震え、けいれん、脱力、発汗、涙が止まらない、嘔吐、失禁、瞳孔が小さくなる、息苦しい、などが見られることがあります。診断は病歴と身体診察、採血検査から行います。中毒の中では症状が特徴的なので、症状をよく観察することで診断がある程度つくことが多いです。治療としてはヨウ化プラリドキシム(PAM)による解毒治療、アトロピンの使用などが行われます。サリン中毒が心配な方や治療したい方は救急科を速やかに受診してください。
サリン中毒について
- 「サリン」という神経ガスによる中毒
症状 - 主な原因
- サリンの吸入
- サリンに皮膚がさらされる
- サリンを誤って飲み込んでしまった場合
- サリンは無色、無臭の液体または蒸気で作用が非常に早い
- 液体の場合は極微量の皮膚曝露(皮膚が触れること)だけでも死につながる
- サリンは有機リンの一種であり、有機リンを含む農薬などの摂取でも、サリン中毒と同様の症状を起こす
- サリン中毒の症状と治療は、重症の有機リン剤中毒に準じる
サリン中毒の症状
- 必ず起こる
症状 - 瞳孔が小さくなる(縮瞳)
- 軽症の場合
- 視界が薄暗くなったりぼんやりしたりするなどの視覚障害が起こる
- 重症化するにつれて発生する症状(順に記載)
- 鼻水、よだれ
気管支 れん縮- 分泌亢進
- 呼吸障害
- けいれん
- 呼吸停止 など
- 加熱されて霧状になったサリンは肺水腫(肺に水が溜まった状態)を引き起こすこともある
- 極めて少量の皮膚曝露の場合
- 全身症状がなく、汚染部位だけに筋肉のけいれんや発汗が起こることもある
サリン中毒の検査・診断
- 診断を確定するためには、サリンに触れた証拠が必要
- 血液検査:中毒
症状 の度合いを調べる - 皮膚曝露の場合
- 症状が出るまでに数時間以上かかる
- 液体の経皮曝露の場合
- 少なくとも18時間の入院、
経過観察 が必要
- 少なくとも18時間の入院、
- 吸入曝露の場合
- 早期に症状が発生
- 医療機関に到達するまでに重症化しやすい
サリン中毒の治療法
- ヨウ化プラリドキシム (PAM) や硫酸アトロピンが解毒薬となる
- 重症の場合
- 呼吸停止から死に至ることがあるため、気管挿管(肺に管を通して呼吸の補助を行うこと)や人工呼吸器を使用することがある
症状 の改善からリハビリテーションまで含めて、数週間から数か月の入院が必要なことがある
- 感染者の救助
- 衣類を脱がせ、ビニール袋に入れて密封処理(現場での汚染除去)
- 二次汚染を防ぐため、救助にあたる人は防護が必要
- 縮瞳以外の症状が消えるまでは本来入院が必要
- 縮瞳のみが数週間持続することもある
サリン中毒の経過と病院探しのポイント
サリン中毒が心配な方
サリン中毒では、めまい、頭痛、冷や汗、目のかすみといった症状が出現します。縮瞳といって、目の瞳孔(目の茶色い部分の更に内側にある、黒い部分)が小さく縮むのも特徴的な症状の一つです。
サリンは有機リンと呼ばれる薬品の一種ですが、自然界には存在しない物質です。国内では、1995年の地下鉄サリン事件によるものがよく知られています。もし何らかのテロやそれに準ずる事態でご自身がサリン中毒ではないかと心配になったら、近くで空いている救急外来を受診してください。いわゆる内科や外科よりも、急性中毒の対応に慣れているのは救急医です。
「おそらく気のせいだとは思うけれど不安」というような場合には、民間の情報提供サービスがあります。中毒110番(072-727-2499、24時間対応)では、サリン(を含む有機リン)を含めて様々な異物の中毒に対する情報提供を行っていますので、まずこちらで相談するというのも手の一つです。一方で、症状が明確で、サリンにせよ他の物質にせよ体の異変が確実であれば、近くの救急外来をすぐに受診するか、救急車を呼んでの受診が適切です。近所であれば、救急車が到着するのを待つよりも自家用車で駆け込んだ方が早いことも多いです。
サリン中毒でお困りの方
先述のように、サリン中毒が疑われる場合には救急外来を受診すること、そして中毒110番といったような民間のサービスで情報を集めることが有効です。
病院では症状を抑える薬を使用しますが、体内に吸収されてしまった有害成分を取り除いてくれるわけではありません。体から成分が抜けるのを待つ間は対症療法を行うこととなります。重症の場合には自力で呼吸ができなくなりますので、人工呼吸器を使用して呼吸を代わりに機械で行うことが必要です。