あるこーるせいかんしょうがい
アルコール性肝障害
大量のアルコール摂取を続けることにより、肝臓の機能が低下した状態
7人の医師がチェック 116回の改訂 最終更新: 2024.09.18

アルコール性肝障害の治療について

アルコール性肝障害は大量のお酒を飲み続けたために肝臓が損傷した状態です。禁酒が最も重要な治療ですが、一人ひとりの病状や症状に応じてさまざまな治療が必要になることもあります。

1. アルコール性肝障害のどのタイプでも禁酒が必要

アルコール性肝障害は、肝臓の状態によって主に4つのタイプに分けられます。

  • アルコール性脂肪肝:肝臓に脂肪がたくさん蓄積された状態
  • アルコール性線維症:肝臓の一部が線維化した状態
  • アルコール性肝硬変:肝臓の繊維化が進み、硬くなってほとんど機能しなくなっている状態
  • アルコール性肝炎:肝臓に炎症が起きた状態

いずれのタイプであっても治療の基本は禁酒です。

アルコール性肝障害の初期段階である脂肪肝であれば禁酒だけでほぼ回復します。脂肪肝が進行してアルコール性肝線維症や肝硬変になると、禁酒をしても完全に元と同じ状態に戻すのは困難ですが、飲み続けるとさらに進行してしまうため禁酒は欠かせません。

また、治療のためには一旦禁酒したら禁酒し続けることが重要です。特に、アルコール性肝硬変まで進行した人が再飲酒すると、重症化しやすいといわれています。

しかし、アルコールは依存性物質なので自分の意志だけでは禁酒できない人が多くいます。このような人は、禁酒のための専門治療を受けるのが望ましいです。

アルコール依存症の治療:断酒が難しい人のための治療

アルコールには依存性があるため、大量にアルコールを飲む習慣のある人が完全に止めるのは簡単ではありません。お酒をやめたいと思ってもやめられない人は、意志のみで断酒することは困難な状態なので、アルコール依存症の専門医療機関に相談することをお勧めします。また、断酒会などのコミュニティーへ参加することも有効な治療の一つです。一人でかかえこまず、専門の機関に相談することが断酒成功への鍵となります。

2. アルコール性肝硬変の治療について

肝硬変は肝臓が長年ダメージを受けて硬くなってしまった状態です。肝硬変になったばかりの状態を代償期肝硬変、進行した状態を非代償期肝硬変といいます。代償期肝硬変は肝臓の機能が残っている状態であり、自覚症状はほとんどありません。一方で、非代償期肝硬変では肝臓がほとんど機能しないため、全身のむくみ腹水意識障害肝性脳症)などの症状が現れ、これらに対する治療が必要になります。

浮腫と腹水の治療

肝臓の機能の1つにアルブミンというタンパク質の合成があります。血液中のアルブミンには血管内に水分を引き込む作用がありますが、非代償期肝硬変になるとアルブミンの量が少なくなるため水分が血管外の不必要なところに漏れ出てしまい、全身がむくんだり(浮腫)、おなかに水がたまってパンパンに膨らんだりします(腹水貯留)。浮腫と腹水の治療方法には下記のようものがあります。

  • 塩分制限
  • 利尿剤
  • 腹水排出、腹水ろ過濃縮静注法(CART)
  • 血液製剤(アルブミン製剤)

◎塩分制限

塩分には水分を溜め込む性質があります。塩分を過剰に摂取すると腹水が溜まりやすくなるため塩分制限を行います。「肝硬変診療ガイドライン2015」では、点滴や食事から摂取する塩分量の目安を1日5−7g程度としています。

◎利尿剤の内服や注射

利尿薬を使うと塩分や水分が尿として体外に排出されるため、むくみや腹水が減ります。ただし、利尿薬を使いすぎると腎不全、脱水、肝性脳症を招くことがあるため、一人ひとりに合わせて使う量が調整されます。

代表的な利尿剤にはラシックス®︎(内服、注射)、アルダクトン®︎(内服)、サムスカ®︎(内服)、ソルダクトン®︎(注射)などがあります。どの利尿剤でも尿量は増えますが、製剤によって尿中に排出される成分に違いがあります。そのため、血液検査でナトリウム濃度やカリウム濃度、脱水の程度を調べたうえで、どの製剤を用いるのかが決められます。

◎腹腔穿刺による腹水排出、腹水ろ過濃縮静注法(CART)

必要に応じて、おなかに針を刺して(腹腔穿刺)腹水を抜くことがあります。ただし、腹水には肝硬変の人に不足しがちなアルブミンが含まれているため、抜くことでさらにアルブミンが失われてしまいます。そのため、抜いた腹水からアルブミンを抽出し点滴で体内に戻す「腹水ろ過濃縮静注法(CART)」が行われることがあります。

◎血液製剤(アルブミン製剤)

肝硬変の人に不足しがちなアルブミンは、血液製剤によって補うことができます。血液製剤とは、献血によって得た血液から必要な成分を抽出したものです。点滴でアルブミン製剤を投与するとむくみや腹水が減ることがあります。ただし、アルブミンの半減期(半分の量になる時間)は約15日であるため、時間の経過とともに効果は薄れていきます。

感染症アレルギー反応などの合併症が起こることがまれにありますが、血液製剤の安全性は、年々高まってきています。

肝性脳症の予防・治療

非代償期肝硬変の患者さんでは、意識障害や異常行動を引き起こす「肝性脳症」になることがあります。肝機能の低下により、本来肝臓の働きで分解されるアンモニアなどの有害物質が体内に蓄積し、これが脳神経に影響して肝性脳症を引き起こすと考えられています。肝性脳症の原因となるアンモニアの産生を抑えるために、下記のような治療が行われます。

  • 栄養療法(タンパク質制限など)
  • 分岐鎖アミノ酸(BCAA)含有製剤
  • 下剤
  • リファキシミン
  • カルニチン
  • 亜鉛
  • 消化管出血の治療

◎栄養療法

体内のアンモニアは主に、食事で摂取したタンパク質が腸内細菌に分解されるときにできるものです。そのため、肝性脳症になったことがある非代償期肝硬変の人ではタンパク質の摂取が制限されます。しかし、タンパク質を制限すると低栄養を招いてしまうため、一人ひとりの肝硬変の状態にあわせて適切なタンパク摂取量が設定されます。

◎分岐鎖アミノ酸(BCAA)含有製剤

分岐鎖アミノ酸はアンモニアの解毒に必要な物質です。肝硬変の人では体内にアンモニアがたまりやすくなるため分岐鎖アミノ酸が消費されて不足しがちです。分岐鎖アミノ酸は体内で合成できないので、これを補うことで肝性脳症の予防や改善を図ります。代表的な点滴製剤にはアミノレバン®︎内服薬にはアミノレバン®︎ENリーバクト®︎があります。

◎下剤:ラクツロースなど

食事で摂取したタンパク質を腸内細菌が分解するときにアンモニアが作られます。便秘になるとアンモニア産生菌が繁殖して肝性脳症になりやすくなるため、下剤を使うことがあります。なかでも、ラクツロースという下剤は便秘を改善させるだけでなく、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を増加させる効果によって、有害なアンモニア産生菌を減らします。

リファキシミン(リフキシマ錠®️ )

アンモニア産生菌を殺菌する内服薬です。肝性脳症の予防および治療に使われます。アンモニア産生菌は主に大腸にいますが、リファキシミンは胃腸でほとんど吸収されずに大腸まで届き、アンモニア産生菌を除菌します。

レボカルニチン(エルカルチン®︎など)

カルニチンはアンモニア代謝や脂質代謝に関わる重要なアミノ酸です。カルニチンは主に肉に含まれていますが、タンパク質の摂取量を制限をされている肝硬変の人は不足しがちです。そのため、レボカルニチンの内服によってカルニチンを補います。

◎亜鉛含有製剤(ノベルジン®︎

肝硬変では亜鉛が欠乏しやすくなります。亜鉛が欠乏すると、肝性脳症発症と関係するアンモニアが蓄積しやすくなることに加え、味覚障害や皮膚炎などのさまざまな症状につながります。そのため、血液検査で亜鉛の値が低い人はノベルジン®︎を内服して亜鉛を補充します。

◎消化管出血の治療

消化管出血により腸内のタンパク質量が増え、肝性脳症を引き起こすことがあります。肝性脳症を繰り返す人には上部消化管内視鏡検査胃カメラ)や大腸内視鏡検査大腸カメラ)による検査が行われ、出血があればその場で止血処置が行われます。

血糖の治療:LES(Late Evening Snack)やインスリン治療

肝臓には過剰な血糖を吸収して蓄える機能と、血中にブドウ糖を放出して低血糖を防ぐ役割があります。肝硬変になるとこれらの機能が低下するため、高血糖にも低血糖にもなります。

低血糖になったときの治療:LES(Late Evening Snack)

肝硬変の人は夜間低血糖になりやすく、予防のために夜食の摂取(LES, Late Evening Snack)が勧められることがあります。

肝臓には空腹時に血糖値を維持するための「糖新生」という働きがあります。肝硬変では、この糖新生の働きが低下しているため、食事から時間が経つと低血糖を起こし、冷や汗が出たり恐怖心が襲ってくるといった症状が現れることがあります。夜間の低血糖がある肝硬変の人は、寝る前などに200kcal程度の炭水化物(おにぎり、パンなど)や分岐鎖アミノ酸を含有する内服薬を摂取するとよいです。

◎肝硬変の人の糖尿病の治療:インスリンの自己注射など

肝硬変の人は高血糖になりやすく糖尿病になりがちです。非代償性肝硬変に合併して起きた糖尿病の治療では、主にインスリンの自己注射やα-グルコシダーゼ阻害薬が使われます。これらの薬には夜間の低血糖を防ぐ効果が期待できます。

なお、糖尿病の内服薬であるSU製剤やビグアナイド(メトホルミン)は肝硬変の人には勧められません。

特発性細菌性腹膜炎(SBP:spontaneous bacterial peritonitis)に対する治療

肝硬変で溜まった腹水に細菌が感染し、特発性細菌性腹膜炎(SBP:spontaneous bacterial peritonitis)を起こすことがあります。SBPの治療では主に抗菌薬が使われます。

消化管出血の予防と治療:食道静脈瘤や胃潰瘍など

肝硬変になると、食道胃静脈瘤や胃潰瘍などによって出血しやすいに状態になります。消化管出血のある人は下記のような薬を使うことがあります。

β遮断薬の内服薬は、食道胃静脈瘤や胃潰瘍での出血のリスクを低下させます。プロトンポンプ阻害薬は、肝硬変の人の消化管出血を抑えることが期待されており、処方されることがあります。プロトンポンプ阻害薬は内服薬も注射薬もあります。

また、上部消化管内視鏡では、食道静脈瘤からの出血を予防するための処置ができますし、実際に出血が起きているときには止血処置ができます。

A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスのワクチン接種

肝硬変の人はウイルス感染による肝炎のリスクを下げるため、ワクチン接種が望ましいです。現在、ワクチンで感染を予防できるのはA型肝炎ウイルスB型肝炎ウイルスです。

日本で製造販売されているA型肝炎ワクチン(エイムゲン®)は、合計2-3回注射をすることで抗体を獲得することができます。慢性肝障害の人の他に、海外渡航者や男性同性愛者などA型肝炎への感染リスクの高い人に推奨されています。

B型肝炎ワクチン(ビームゲン®ヘプタバックス®)も合計3回注射することで免疫がつきます。慢性肝障害の人の他には、医療関係者などのB型肝炎になりやすい人が接種しています。なお、2016年よりB型肝炎ワクチンは定期接種になりました。

肝移植

肝移植とは手術で機能が低下した肝臓を取り除き、健康な肝臓と取り替える治療です。肝移植には、脳死判定された人から肝臓をもらう「脳死肝移植」と、生きている人の肝臓を一部分けてもらう「生体肝移植」があります。2016年の報告では、日本で行われた肝移植の87%が「生体肝移植」であったといわれています。

肝移植をすると、肝臓の機能の回復が見込めるというメリットがある一方で、手術や術後に使用する免疫抑制剤の合併症、臓器を提供してくれる人の負担などのデメリットもあります。

肝移植を検討したい人は専門的なお医者さんに受診をして、施行できる状態なのかどうか、デメリットやメリットなどを教えてもらうとよいです。

3. アルコール性肝炎の治療について

アルコール性肝炎は、習慣的にアルコールを飲んでいる人の肝臓に炎症が起きて急激に悪くなった状態です。軽症であれば禁酒で良くなりますが、重症のアルコール性肝炎では入院での集中治療が必要になります。

【重症アルコール性肝炎の主な治療】

  • ステロイド薬の投与 
  • 血漿交換

◎ステロイド薬の投与

ステロイド薬は肝臓の炎症を抑える効果が期待できる薬です。内服薬か注射薬のいずれかが使われます。合併症として感染症にかかりやすくなったりや糖尿病が悪化したりすることがあります(ステロイド内服薬の副作用についてはこちらを参考にしてください)。

ステロイドはもともと副腎という臓器で作られているホルモンです。ステロイド薬を使用していると副腎は次第にステロイドを産生しなくなるため、突然の服薬を中止をすると身体に必要なステロイドが不足してしまい、副腎不全という合併症が出ることがあります。副腎不全は低血圧低血糖を招く危険な病気です。2週間未満の使用であれば副腎不全の心配はまずありませんが、自己判断で薬を中止しないでください。

◎血漿交換

血漿交換は、血液中の血漿という成分を取り出して健常な人の血漿と交換することです。炎症を起こす物質が含まれている血漿を取り除いて健康な人の血漿交換をすることで、肝臓の炎症を抑えます。

4. 肝臓がんになってしまったらどのような治療があるのか

アルコール性肝硬変になると肝臓がんが発生しやすくなります。肝臓がんの治療には進行度に応じて、さまざまな方法があります。

肝臓がんの主な治療法】

  • 手術(肝切除、肝移植)
  • 化学療法
  • 塞栓療法
  • 焼灼療法
  • 緩和療法

詳しく知りたい人は「肝臓がんのページ」を参照してください。

5. 治療ガイドラインはあるのか

アルコール性肝障害に特化したガイドラインは現在日本にはありません。ただし、日本消化器病学会による「肝硬変診療のガイドライン」が発刊されており、アルコール性肝硬変の診療に携わるお医者さんたちに活用されています。

【参考文献】

・Eguchi Y, et al. : Prevalence and associated metabolic factors of nonalcoholic fatty liver disease in the general population from 2009 to 2010 in Japan: a multicenter large retrospective study. J. Gastroenterol. 2012 ;47(5):586-95.
・日本消化器病学会, 「肝硬変診療ガイドライン2015(改訂第2版)」, 南江堂, 2015
・日本肝臓学会,「慢性肝炎・肝硬変診療ガイド2019」, 文光堂, 2019