かわさきびょう
川崎病
小児に起こる全身の血管炎により、発熱・発疹・冠動脈病変など様々な症状を引き起こす
18人の医師がチェック 163回の改訂 最終更新: 2023.11.02

川崎病はどうやって治療されるか?

川崎病と診断された場合にはできるだけ早く治療が行われます。明確にこれを行うべきといった治療がないため、医療現場ではさまざまな治療法が行われています。このページでは川崎病に対して行われる治療について説明します。

1. 川崎病の治療にはどんな方法がある?

川崎病の治療の大きな目的は、心臓合併症である冠動脈瘤の合併を予防することです。しかし、川崎病は原因が分かっていないこともあり、確実な治療方針が定まっていません。医療現場行われている川崎病の治療の例は以下になります。

  • 薬物治療
    • 大量免疫グロブリン療法(IVIG)
    • ステロイド薬
    • 免疫抑制剤
    • 免疫学的製剤(分子標的薬)
    • 高用量アスピリン
    • 抗凝固療法
  • 心臓カテーテル治療
  • 血漿交換療法

大量免疫グロブリン静注療法(IVIG)は川崎病の初期治療として多くの施設で行われています。また、川崎病に対する新たな治療として血漿交換療法が期待されだしています。

2. 薬物治療

川崎病に対して多くの場面で薬物治療が行われます。川崎病の薬物治療では具体的にどういった治療を行うのか説明します。

大量免疫グロブリン静注療法(IVIG)

免疫グロブリン製剤とは、私たちの血液の中にある血漿(けっしょう)という部分に含まれている抗体(免疫グロブリンと言います)を高純度に精製して作られたものです。ヒトの血液を原材料として作られた薬剤(血液製剤)の一種になります。

この免疫グロブリンを大量に投与する治療(大量免疫グロブリン静注療法(IVIG))は、川崎病の初期治療として多くの施設で行われています。IVIGによって川崎病で問題となる冠動脈瘤ができるリスクを減らせることが分かっています。IVIGは川崎病の症状が出てから7-10日以内に行うと効果が高い治療ですが、10日以上経っても治療効果を期待して行われることが多いです。

免疫グロブリン製剤は、8-12時間以上かけて点滴します。たいていの場合では、点滴が終わってから24時間程度は他の治療を追加しないで、川崎病の症状がなくなるかどうかを観察します。1回の治療で効果が不十分な場合には、2回ないし3回と投与を繰り返す場合もあります。

ステロイド薬

川崎病の原因となる炎症をステロイド薬は抑制するため、冠動脈の変化(リモデリング)の予防が期待できます。重症かつ冠動脈に影響が出てくる懸念がある場合に使用されることが多く、具体的にはKobayashiスコアが5点以上の重症患者に対して、プレドニゾロンの内服がIVIGと併用することが多いです。また、どうしてもIVIGで治療がうまく行かない場合には、メチルプレドニゾロンを大量に点滴する治療(ステロイドパルス療法)が行われることもあります。

一方で、ステロイド薬には気をつけるべき副作用があります。主なものは次になるので知っておくと良いです。

【ステロイド薬の主な副作用】

  • 感染にかかりやすくなる
  • 血糖値が上昇しやすくなる
  • 顔が膨れる(満月様顔貌)
  • 脂質異常(血中コレステロールの上昇)
  • 血圧上昇
  • 徐脈
  • 低体温
  • 胃潰瘍十二指腸潰瘍
  • 大腿骨頭壊死
  • 精神障害

上のリストを見ると怖くなる人がいるかも知れません。しかし、副作用があるから使用しないと一直線で考えるのは少しもったいないです。どんな薬にも得られるメリットと副作用というデメリットが存在します。そこを踏まえて、この薬を飲むとどんなメリットがあるのかも忘れずに確認するようにしてください。この場合は、冠動脈瘤というその後のADL(日常性格の動作レベル)やQOL(生活の質)を左右する状態を予防する効果が期待できるため、副作用のデメリットと天秤にかけてみると使用するという判断は合理的であったりします。ただし、この判断は専門的な医師が総合的考える必要があるため、治療の前に主治医とよく話すようにしてください。

免疫抑制剤

川崎病に使用される免疫抑制剤の代表的なものは、「シクロスポリン」と「メソトレキセート」です。どちらの薬剤も血管の炎症を抑えて、血管の変化(リモデリングや動脈瘤)を予防することを目的とします。

シクロスポリンは重症川崎病の急性期やIVIGが効果不十分であった場合には保険適応となります。一方で、メソトレキセートは川崎病に対して保険適応となっていないため治療経験が豊富な専門家による判断が望ましいです。

どちらの薬剤にも副作用が存在し、易感染(感染症にかかりやすくなること)には特に注意が必要です。この他には吐き気や嘔吐、口内炎、肝障害、電解質異常高カリウム血症、低マグネシウム血症)なども報告されています。

生物学的製剤(分子標的薬)

生物学的製剤とはバイオ医薬品とも呼ばれ、培養細胞や酵母といった生き物を使って作られた医薬品のことです。この技術を用いることで、作ることが難しかった医薬品を造ることが可能になりました。病気の原因物質を直接ブロックする物質(分子標的薬)や、生体内のホルモンに類似した物質を薬にすることが可能となりました。

川崎病の治療ではインフリキシマブという生物学的製剤が使用されます。IVIGなどの主流の治療で効果が不十分の場合に追加治療として投与されます。一方で、感染症の悪化や心不全の増悪重度のアレルギー(インフュージョンリアクション)などが副作用として注意が必要ですし、生ワクチンを投与してから一定期間(BDG後6ヶ月、その他の生ワクチン後3ヶ月)はインフリキシマブを投与しないことが推奨されています。

他にもエタネルセプトやトシリズマブなどが川崎病に対して効果が期待されていますが、保険の適応となっていないため、その使用に関して専門家の慎重な判断が必要になります。

高用量アスピリン

アスピリンによって炎症を抑える効果や血小板(血液を固めるのに中心的役割を果たす血球)機能に作用して血液が固まりづらい状態にする効果を期待して使用されます。体重1kgあたり30-50mgのアスピリンで処方され、1日3回に分けて内服することが多いです。熱が下がって数日経ったら、少量アスピリン(体重1kgあたり3-5mg)の1日1回内服に切り替えられることが多いです。

日本では川崎病と診断されたら、上で述べたIVIGと併用してアスピリンを投与されることが多いです。血液検査で明らかな異常がある場合には、内服量を少なくすることも内服しないこともあります。

抗凝固療法

冠動脈瘤ができてしまうと、その瘤(こぶ)の中で血液の流れが滞るため、血栓(血のかたまり)が出来やすくなります。心臓の筋肉(心筋)に酸素を送る血管(冠動脈)内で血栓が詰まってしまうと「心筋梗塞」という重症の病気を発症します。大きな冠動脈瘤ができた人は、血栓ができるのを予防する必要があるため、抗凝固療法という治療で血栓を予防します。この治療は冠動脈瘤ができなかった人には必要ありません。

抗凝固薬として、飲み薬のワルファリンが以前からよく使用されています。緊急の場合は点滴からヘパリンという薬を使うこともあります。ワルファリンは血液検査(PT-INR)でその効果の程度を調べることができます。血液検査を定期的に行って、きちんと血栓を予防できているか、逆に効きすぎて血が出やすい状態になっていないかを推測しながら、薬の量を調整してもらう必要があります。

3. 心臓カテーテル治療

冠動脈瘤ができた場合は、心臓カテーテル検査を行って瘤(こぶ)のあたりで血管の詰まりがないか検査をします。血管が詰まって内部がかなり狭くなってしまっている場合は、検査中にカテーテル治療も行うことがあります。カテーテル治療では次のことを行います。

  • 血管が詰まっている部位に血のかたまりを溶かす薬を直接投与する
  • 血管の中で風船を膨らませて狭くなっている部分を広げる
  • ステントという器具を入れ血管の狭くなっている部分を広げたる

心臓カテーテル治療は難しい技術を必要とするので、どんな医者でもできる治療ではありません。心臓専門の医師が複数人で行います。

4. 今後の発展が期待される治療法:血漿(けっしょう)交換療法

IVIGを行っても川崎病の症状に改善がない人に対して血漿交換療法の治療効果が期待されています。冠動脈瘤ができる危険性が高い場合や冠動脈瘤ができかけている場合に、一部施設で行われています。

血液中には白血球赤血球、血小板といった細胞成分に加えて、電解質、タンパク質、凝固因子などのさまざまな物質が含まれています。採血した血液を試験管に入れて置いておくと、細胞成分は下に沈み、そのほかの物質が上ずみの液体に含まれる形で分離します。この上ずみの液体成分を血しょうといいます。川崎病患者の血しょうの中には、川崎病の炎症の原因となる物質(主にはサイトカインと呼ばれる炎症に関連するタンパク質)が含まれています。

血漿交換療法では、血液浄化装置という器具を用いて、「患者さんの体内から血漿を取り除いて、正常な血漿と交換して体内に戻す」ということを行っています。川崎病に対してこの治療法が有効であったとする報告があるため一部の医療機関で行われています。特に川崎病の症状が出てから早め(10日以内)に行うと効果が高いとの報告があり、治療を行うタイミングも検討されています。一方で、ほかの治療法よりも身体にかかる負担が大いことや施行できる施設も限られていることが現状の課題として挙げられます。

血漿交換療法を行うには、血液を一旦体外に取り出す必要があります。普通の点滴のように手足の細い血管からでは必要な血液量を素早く取り出すことができないため、中心静脈という太い血管に特殊なカテーテルを入れる必要があります。太い血管として、首の血管や太ももの付け根の血管などが選ばれます。痛みや不快感を伴うため、局所麻酔もしくは全身麻酔を用いてカテーテルを血管内に入れます。

入ったカテーテルと血液浄化装置を繋いで、血漿の交換が行われます。浄化装置の中で血液を血球成分と血しょう成分に分離され、血漿を全て破棄して、代わりに新鮮な血漿やアルブミンという蛋白質成分を補って身体に戻します。一般的に集中治療室で行われる治療ですので、血漿交換中はベッド上で安静にしていることが必要です。

ほかの治療法も同様ですが、この血漿交換療法を行うかどうかを決めるにあたって、メリット、デメリットを医師と十分話し合っておくことが大切です。

5. 川崎病になったら入院しなければならないのか

川崎病を治療しなくても平均12日間前後で症状は自然に落ち着いていきますが、無治療では約25%の確率で冠動脈瘤ができてしまいます。この冠動脈瘤の予防のために「大量免疫グロブリン静注療法(IVIG)」が多くの施設で行われています。IVIGでは点滴から大体半日以上かけて薬を投与するので、原則として入院してから治療が行われます。

入院期間はどのくらい?

治療が効いて早期に川崎病の症状が落ち着くかどうかによって入院期間は異なります。また、施設によってどの程度入院で経過をみるかは違います。川崎病の症状が出てから10-14日目頃に冠動脈瘤ができやすいと言われていますので、短くても10日前後は入院することが多いです。早めに退院できた場合でも、冠動脈瘤ができていないか等を見るために、外来通院をしながら検査で確認する必要があります。

入院するなら治療費はどのくらい?

川崎病の治療費は、行われた治療内容や施設の基準によって変わってきます。治療費が気になる人は概算を医療機関に聞いてみて下さい。日本では「1か月に多くの医療費の負担がある場合に、一定額以上の負担額は変換されるという「高額療養費制度」があります。健康保険に加入している人なら誰でもこの制度を利用することができます。高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

また、自治体が医療費を補助する制度が存在する場合や民間の医療保険などを適用できる場合もあるので、分からない場合は自治体や保険会社に相談してみるようにして下さい。