せん妄の症状について:意識障害、認知機能障害など
せん妄になると
1. 意識障害
せん妄になると意識がはっきりしない状態になり、話しかけても反応が乏しかったり、会話や作業に集中できなかったりします。せん妄であらわれる意識障害は、このように比較的軽いものであることが多く、完全に反応がなくなるほど意識が悪くなることはあまりありません。
2. 認知機能障害
周りの状況を把握したり論理的思考をしたりする働きが障害されることです。
記憶障害
いわゆる「ものわすれ」のことです。せん妄の人では比較的最近の記憶が障害されます。たとえば、つい先ほど食事したことを忘れてしまい、「ごはんはまだか」と言ったり、常用薬を飲み忘れたりします。一方で、生年月日や出身校といった昔の記憶は残っている人が多いです。
見当識障害
周りのことを認識できなくなることです。日付や時間、自分のいる場所がわからなくなります。
言語障害
会話がかみ合わなくなったり、読み書きが難しくなったりします。「あれ」などの指示語を使うことが増えます。
視空間認知障害
空間や立体構造を把握できなくなることです。視力は保たれているのに、戸棚に茶碗をしまえなくなる、編み物ができなくなる、クギが打てなくなるといったときには、視空間認知障害が生じている可能性があります。
3. 心理症状
心理症状は内面に起こるもので、本人に話を聞くとわかることがあります。せん妄では3つの心理症状が起きやすいです。
睡眠障害
せん妄になると、夜眠れなかったり日中に眠ってしまったりします。周りの人から見てしっかり眠れているように思えても、本人に話を聞いてみると、ぐっすり眠れなかったと訴えることがあり、このような状態も睡眠障害に含まれます。
幻覚
実際にはないものごとがあるように感じることです。幻覚は五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・臭覚)のすべてにおいて起きうるのですが、せん妄でよく起こるのは「
感情の変化
怒り、不安、焦燥などがよく起きる感情の変化です。また、
4. 行動症状
周りの人が行動を観察することでみつかる症状を、行動症状といいます。ここまで説明した症状が複数合わさって、さまざまな行動の変化がみられます。
【行動の変化の例】
- 多弁になったり、だまりこんだりを繰り返す
- 塞ぎがちであまり動かなくなったり、急に多動になったりする
- 徘徊する
- 怒鳴ったり暴力をふるったりする
- 点滴を自分で抜いてしまう
徘徊、暴言、暴力といった活動量が増えるタイプのせん妄を「過活動型せん妄」といいます。多くの人のせん妄へのイメージは、この過活動型せん妄であると思います。しかし、せん妄のタイプはこれだけではありません。だまり込んだり塞ぎがちになったりといった活動量の減るタイプのせん妄もよくあるものです。このようなせん妄を「低活動型せん妄」といいます。低活動型せん妄は気づかれるのが遅れがちであり、周りの人が行動を注意してみておく必要があります。
5. せん妄と認知症の症状の違い
ここまで紹介してきた症状はいずれも認知症でも生じうるものです。しかし、認知症とせん妄の症状には多少違いがあります。それは、せん妄のほうが症状の浮き沈みが激しいということです。1日の中でも症状が激しく移り変わり、特に夜間に症状が悪くなりやすいです。また、せん妄の症状は一過性であることが多く、早ければ数日で回復します。とはいえ、両者は非常に似ているので見分けるのが困難なことも少なくありません。
参考文献
・井上真一郎/著, せん妄診療実践マニュアル. 羊土社, 2019
・Delirium:prevention,diagnosis and management. National Institute for Health and Care Exelence.(2020.6.22閲覧)
・長谷川典子 他. 認知症とせん妄. 日老医誌 2014;51:422-427.