かんけっかんしゅ
肝血管腫
肝臓にできる良性の腫瘍。血管の組織の異常によりできる、血液が豊富に流れる腫瘍。基本的に治療は行わないでよい
9人の医師がチェック 104回の改訂 最終更新: 2021.07.16

肝血管腫の検査について

肝血管腫が疑われた人は、肝血管腫と他の病気との区別をするために検査を受けることになります。特に肝臓がん胆管がんといった、がんとの区別が重要です。肝血管腫であると分かれば多くの人で治療の必要はありませんが、肝血管腫が大きい人などには、治療が必要かどうかを判断するために、追加で採血や画像検査が行われることがあります。

1. 血液検査

肝血管腫で血液検査が異常な値になることはほとんどありません。肝血管腫以外の病気が隠れているかや、肝血管腫の人にまれに起こる血液異常があるかの判断のために用いられます。肝血管腫が疑われた人では主に以下の血液検査が参考にされます。腫瘍マーカーも血液検査の一つですが、別途説明します。

  • 血算(白血球数、赤血球数、血小板数など)
  • 生化学検査(AST、ALT、γGT、総ビリルビン、直接ビリルビン、ALPなど)
  • 凝固・線溶関連検査(PT:プロトロンビン時間、FDP:フィブリン・フィブリノーゲン分解物など)

たとえば、血算は血液中の白血球や赤血球、血小板といった細胞の数を数える検査です。肝血管腫が破裂し出血した人では血液中の赤血球が減り、追加の治療が必要になる場合があります。

生化学検査には、肝臓機能の指標となるAST、ALT、γGT、総ビリルビン、直接ビリルビン、ALPなどが含まれます。これらの値が異常であれば、肝血管腫以外の肝臓の病気が見つかることがあります。

凝固・線溶関連検査では、PT(プロトロンビン時間)、FDP(フィブリン・フィブリノーゲン分解物)などの値から、出血を止める機能の異常が確認できます。肝血管腫の人に極めてまれに起こるカサバッハ・メリット症候群ではこれらの値は高くなります。

2. 腫瘍マーカー

腫瘍マーカーとは、がんが発生すると増加する特徴的なタンパク質です。腫瘍マーカー検査は血液中に含まれる腫瘍マーカーの量を測定する検査で、がんの発見に役立つ場合があります。

肝血管腫があっても腫瘍マーカーは異常な値になりませんが、肝臓がんがあるとAFP、AFP第3分画、PIVKA-IIなどの腫瘍マーカーが異常に高い値になることがあります。また、胆管がんや、大腸がんの肝臓への転移がある人では、CEAという腫瘍マーカーが高くなることがあります。ただし、腫瘍マーカーだけではがんの有無が判断できないことに注意が必要です。がんがなくても高い値になることもあれば、がんがあっても異常な値とならないこともあるため、腫瘍マーカーだけではなく、画像検査などの結果も併せて解釈されます。

3. 画像検査

肝血管腫かどうか調べるには画像検査が重要です。画像検査には主に超音波検査CT検査、MRI検査があり、臓器の様子をより鮮明に確認するために造影剤という薬剤を注射して行うことがあります。ここでは、造影剤の原理について説明したうえで、それぞれの画像検査について説明をします。

造影剤の原理について

画像検査のときに造影剤という薬剤を血管内に注射することがあります。画像は白黒ですが、造影剤が流れている部分はクッキリと映るので、コントラストがはっきりして体内をより鮮明にみることができます。また、腫瘍の種類によって血流が異なるため、造影剤の流れる様子を観察することで、どんな腫瘍かわかることがあります。

肝血管腫は迷路のように入り組んだ多くの血管の塊なので、流入した造影剤が中心部に到達するまでに時間がかかかります。一方で、肝臓がんでは肝動脈という太い血管が発達しているため、早期に全体に造影剤が行き渡って、すぐに腫瘍外に造影剤が流れ出ます。

腹部超音波検査(腹部エコー検査)

超音波は人間には聞こえない高い音のことです。超音波を発生するプローブとよばれる機械をお腹に押し当てて検査をします。臓器まで到達し跳ね返ってきた超音波の量を測定することで、臓器の形を画像として見ることができます。超音波検査では副作用の心配はありません。

造影剤を注射して超音波検査をすることがあります。超音波検査で使用する造影剤は、CT検査やMRI検査の造影剤が身体に合わない人も使用できることがあります。ただし、肝臓の超音波検査で使用する造影剤は、卵アレルギーのある人には使用できないことがあります。過去にアレルギー症状が出たことがある人は、造影剤検査をする前にその旨をお医者さんに伝えてください。

腹部CT検査

腹部CT検査では、放射線を利用してお腹の断面図を見ることができます。腹部超音波検査やMRI検査と同様に、造影剤を注射すると、肝血管腫とがんとを区別しやすくなります。

CT検査の造影剤は、気管支喘息、ヨードアレルギー、褐色細胞腫の人や腎機能が悪い人には合併症が出やすくなるため、受けられないことがあります。

腹部MRI検査

MRI検査では磁力を利用して身体の断面を映し出すことができます。強力な磁力を使用するため、人工関節などの金属やペースメーカーなどの機械が入っている人は受けられない場合があります。ただし、種類によっては検査可能なことがあるので、ペースメーカーを入れている人は、ペースメーカーの機種が書かれたペースメーカー手帳を持参することをお勧めします。

MRI検査の検査時間は、検査内容や機種によっても多少異なりますが、およそ30分間です。検査中は狭い場所で動かないでいることが必要です。そのため、閉所恐怖症の人は受けられないことがあります。

MRI検査でも他の画像検査と同様に、造影剤を使用するとさらに詳しく見ることができます。造影剤を用いたMRI検査は、肝血管腫を診断する精度が高いといわれています。CT検査の造影剤と同様に、MRIの造影剤は、気管支喘息の人やアレルギー体質の人、腎臓の機能が低下している人には使用できないことがあります。

4. 肝臓の組織を詳しく調べる検査:肝生検と病理学的検査

生検とは、皮膚の上から肝臓まで針を刺して肝臓の一部を採取する検査です。採取した細胞や組織の一部を顕微鏡で観察し、どのような病気か調べることを病理学的検査と言います。肝生検は画像検査に比べると身体に負担がかかり、基本的に入院が必要になる検査です。そのため、全員に行われるのではなく、他の検査で診断がつかない時に受けることになります。