かかつどうぼうこう
過活動膀胱
膀胱を制御する神経の異常によって、尿意が予期せず突然起こってしまうことを繰り返す状態
10人の医師がチェック 97回の改訂 最終更新: 2022.11.14

過活動膀胱の治療について

過活動膀胱の治療には薬を使った方法と薬を使わない方法があります。薬を使わない治療はは膀胱訓練や骨盤底訓練といった筋肉のトレーニングが中心です。このページではそれぞれの治療法について詳しく説明するとともに、治療期間やガイドラインについても説明します。

1. 過活動膀胱の治療法について

過活動膀胱の治療は薬物治療が中心ですが、下記に示すような薬を使わない治療(非薬物治療)もあります。

  • 薬物治療
  • 非薬物治療
    • 膀胱訓練
    • 骨盤底訓練
    • 生活習慣の改善
  • 仙骨神経刺激療法
  • 内視鏡治療:ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法

薬物治療と非薬物治療を組み合わせることで、症状の改善が期待できます。また、症状がなかなか改善しない人には仙骨刺激療法や内視鏡治療も検討されます。次にそれぞれについて詳しく説明していきます。

2. 薬物治療について:ベタ二スやベシケア、ウリトスなど

過活動膀胱の主な治療薬は「抗コリン薬」と「ベータ3アドレナリン作動薬」の2つです。ともに症状を改善する効果がありますが、働きや副作用などに違いがあります。それぞれの効果や副作用について説明します。

抗コリン薬(ベシケア®、ウリトス®など)

抗コリン薬は膀胱の過敏な収縮を抑える薬です。代表的な薬に次のものがあります。

【過活動膀胱に使われる抗コリン薬】

これらは基本的には同じ効果を示しますが、効果や副作用の強さに違いがあります。一人ひとりの状態にあったものが選ばれますが、症状の改善具合と副作用の状態をみて後から薬を変更することもあります。

なお、抗コリン薬の副作用は口腔内乾燥や「便秘」、「尿閉(尿が膀胱から先に流れなくなること)」、「不整脈」、「緑内障発作」といったものです。特に副作用の問題から「尿閉の経験がある人」や「緑内障の人」、「心臓に持病がある人」には使えないことが多く、使えたとしても量を減らしたりする工夫が必要です。副作用を避けるためにも、お医者さんには治療を始める前に、「これまでにかかったことがある病気」や「治療中の病気」は必ず説明してください。

ベータ3アドレナリン作動薬(ベタニス®、べオーバ®)

抗コリン薬は膀胱の収縮活動を抑えるのに対して、ベータ3アドレナリン作動薬 (ベタニス®べオーバ®)は膀胱の筋肉を緩めることで過活動膀胱の症状に対して効果を発揮します。ベータ3アドレナリン作動薬の副作用には「便秘」や「尿閉」、「高血圧」などがありますが、抗コリン薬でよく問題になる「口腔内乾燥」は少ないとされています。また、ベタニス®は精巣や子宮といった生殖器への影響が指摘されているので、挙児を希望されている人には原則として使うことはできません。

3. 非薬物治療:薬を使わない治療

過活動膀胱には薬を使った治療が有効ですが、薬を使わない治療(非薬物治療)も効果的です。非薬物治療には主に膀胱訓練や骨盤底訓練、生活習慣の改善の3つがあります。

膀胱訓練

膀胱訓練は排尿をできるだけ我慢することです。尿意を感じたら可能な範囲で排尿を我慢します。最初は5分程度の短い時間我慢できれば十分です。慣れてきたら、我慢する時間を10分、15分と少しずつ長くします。我慢する時間を少しずつ伸ばして2時間から3時間我慢できるようになれば、日中の排尿の回数を8回程度まで減らすことができます。膀胱訓練を行う際には、排尿時間や我慢できた時間を記録する「排尿日誌」をつけておくことをお勧めします。排尿日誌をつけることによって、「自分が我慢できる時間」や「排尿が多い時間帯」を把握することができるので、より客観的に自分の状態を振り返ることができ、トレーニングの効果にもよい影響が期待できます。

骨盤底筋訓練

骨盤底筋は膀胱や直腸、膣など骨盤の中にある臓器を支える筋肉です。骨盤底筋の役割は膀胱や直腸、膣などの骨盤の中にある臓器が垂れ下がってくるのを防ぐことです。この骨盤底筋を鍛えると、尿道を締める力が強くなるので、尿もれを防ぐ効果が期待できます。具体的な方法としては、尿道や肛門、膣に力を入れたり緩めたりを繰り返します。座った状態でも立った状態でも行えます。骨盤底筋訓練をより上手にやるには、理学療法士や作業療法士に相談してみると効果的に行えるので、希望する人は主治医に聞いてください。

生活習慣の改善

生活習慣の中には過活動膀胱の症状を悪化させるものがあり、見直すことで症状の緩和が期待できます。特に確認してほしい生活習慣は次の項目です。

【過活動膀胱の人がチェックした方がよい生活習慣】

  • 水分の摂取量
  • カフェインの摂取量
  • 肥満の有無
  • 便秘の有無

これらを見直すことで、過活動膀胱の症状を和げる効果が期待できます。それぞれについて説明します。

■水分の摂取量

過活動膀胱でない人でも水分の摂取量が多いと、尿がたくさん作られて頻尿になります。過活動膀胱の人が水分を多く摂りすぎると、ますます頻尿になってしまい症状が悪化します。頻尿の症状が強い人は、1日に摂取する水分の量を記録して、適正な量かどうかをお医者さんと相談してください。ただし、持病に脳梗塞がある人や腎臓の病気がある人は水分摂取を控えすぎると良くないことがあります。水分の量は自分で判断するのではなく、お医者さんに相談のうえで決めるのが望ましいです。

■カフェインの摂取量

カフェインには利尿作用という「尿を作るのを促す作用」があります。摂取が過ぎると尿量が多くなり頻尿を起こします。カフェインを全く摂ってはいけないわけではありませんが、頻尿への影響が大きい場合には控えた方が良いです。水分と同じく、コーヒーやお茶などのカフェインが含まれたものの摂取量と種類を記録して、摂りすぎていないかを見直してみてください。

肥満の有無

肥満は過活動膀胱の症状を悪化させることが知られていおり、減量すると症状を良くする期待ができます。なお、肥満の有無や適切な体重の目安はBMI(Body Mass Index)という指標で知ることができます。

  • BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

BMIの正常値は18.5から24.9で、25を超えると肥満と診断されます。

減量には運動療法や食事療法が有効です。自力で取り組むのも良いですが、自分に合ったやり方がわからない人はお医者さんや管理栄養士に相談するとより高い効果が期待できます。

便秘の有無

便秘によって過活動膀胱の症状が悪化する可能性があるので、便秘を改善して症状がよくなるかをみてください。食生活の見直しや上手な便秘薬の使用によって便秘を改善することができます。詳しくは「薬に頼る前に!自分でやっておきたい便秘改善法」や「便秘薬には何がある?」を参考にしてください。

4. 仙骨神経刺激療法

仙骨神経は排尿を司る神経の一つです。2017年に保険適応になりました。
過活動膀胱の人の中には仙骨神経の働きの乱れが原因となっている人がいます。そうした人には、仙骨神経に外から適切な刺激を与えて、調整する方法が治療になります。具体的には、仙骨(背骨のうち骨盤あたりの骨)にリード線という針金状の物質とそれに刺激を送る小さな機械をお尻に埋め込みます。ペースメーカーという心臓に電気刺激を与える機械がありますが、その膀胱版だと考えるとイメージしやすいかもしれません。
仙骨神経刺激療法は効果が確かめられた人だけが対象になる治療なのですが、実際に刺激を加えてみないと効果があるかどうかがはっきりとはしません。そこで、機械を埋め込む前に試験的にリード線を埋め込み刺激を加えて効果が確認されます。そして効果が確認された人だけに、機械が埋め込まれます。機械を埋め込むので、大きな傷が心配になる人がいるかもしれませんが、傷は数センチで済みます。
刺激試験の効果を確認するために、基本的には入院が必要になります。入院期間や治療費などが知りたい人は治療を検討している医療機関に事前に問い合わせてみてください。

5. 内視鏡治療:ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法

膀胱鏡という内視鏡の一種を使ってボツリヌス毒素という物質を膀胱の筋肉に注入する治療です。2020年に保険適応になりました。ボツリヌス毒素とは、ボツリヌス菌から産生される毒なのですが、筋肉を弛める効果を利用して治療薬として使われることがあります。具体的な治療内容ですが、尿道口(尿の出口)から内視鏡を挿入し、画面に映し出された膀胱をお医者さんが確認しながらものすごく細い注射器でボツリヌス毒素を打ち込んでいきます。治療時間は1時間未満と長くはありません。入院して行うこともあれば外来で行うこともあるので、検討している人は医療機関に問い合わせてみてください。

6. 過活動膀胱の治療期間はどのくらいなのか

過活膀胱の状態は一人ひとりで異なるので、治療期間もさまざまです。膀胱訓練や生活習慣の改善といった治療で短期間でよくなる人がいる一方で、長期間に渡って薬による治療を行わなければならない人がいます。具体的に、過活動膀胱にどのくらいの治療期間が必要かは一概には言えません。日々の治療をきちんと行うことが症状改善につながり、ひいては排尿に悩まない生活に結び付くと考えられるので、毎日の治療をしっかり行うことに目を向けてください。

7. 過活動膀胱の治療ガイドラインはあるのか

最適な検査や治療を安全に行うために、ガイドラインが作成されています。ガイドラインは過去の治療結果を根拠として、最適だと考えられる検査や治療の方法が記されています。過活動膀胱では日本泌尿器科学会が作成した「過活動膀胱診療ガイドライン 2015」があります。

ガイドラインには現状で最も効果が高い考えられている治療法が載っていますが、その通りに治療を進めることが正しいとは限りません。日進月歩で変化している医療に合わせるために、ガイドラインは数年に1回の頻度で改訂を重ねているものの、改訂より早く有力な治療法が確立されることもあります。この場合は、ガイドライン通りではなく、新しい治療法が効果が高いと考えられます。

また、ガイドラインは患者さんの身体が一人ひとり異なることを考慮して作られている訳ではないので、お医者さんはガイドラインを踏まえながらも患者さんの状態にあった最適な治療法を選択しています。

【参考文献】

・「標準泌尿器科学」(赤座英之/監 並木幹夫、堀江重郎/編)、医学書院、2014
・「泌尿器科診療ガイド」(勝岡洋治/編)、金芳堂、2011
・UpToDate Lower urinary tract symptoms in men Authors:Kevin T McVary, MD, FACS Rajiv Saini, MD
・UpToDate Treatment of urgency incontinence/overactive bladder in women Author: Emily S Lukacz, MD, MAS