蕁麻疹に処方される抗ヒスタミン薬
蕁麻疹の治療薬の基本は抗
1. 抗ヒスタミン薬(内服薬)
抗ヒスタミン薬は第1世代抗ヒスタミン薬と第2世代抗ヒスタミン薬に分けて呼ばれることがあります。「世代」というのは開発された時期を指す言葉です。
第1世代抗ヒスタミン薬と第2世代抗ヒスタミン薬を比較すると以下の特徴があります。
- 第1世代抗ヒスタミン薬のほうが抗コリン作用があらわれやすい
- 第2世代の抗ヒスタミン薬の中には脳内への移行性が比較的高いなどの理由から、てんかんや、けいれん
発作 といった病歴を持つ人は注意するべきものがある
ただし、上の対比は大まかなものです。
第2世代の抗ヒスタミン薬においても全く作用がないわけではなく、前立腺肥大症や緑内障などの病気や尿が出づらいといった体質を持つ人は注意してください。第1世代の抗ヒスタミン薬でも高い安全性を持つ薬もあります。
すなわち、第1世代と第2世代の抗ヒスタミン薬は一長一短であり、有効性や副作用などに加え薬ごとのおける特有の飲み合わせも考慮しなくてはいけません。(例として、コラム「花粉症治療薬「アレグラ」の飲み合わせを徹底解説!」で解説していますのでご覧ください。)
一長一短の特徴を踏まえて、自分に適した抗ヒスタミン薬を選ぶことが肝要です。
蕁麻疹に対して処方される治療薬の例として、以下のような抗ヒスタミン薬の飲み薬があります。
- フェキソフェナジン塩酸塩(商品名:アレグラ®など)
- エピナスチン塩酸塩(商品名:アレジオン®など)
- オロパタジン塩酸塩(商品名:アレロック®など)
- ベポスタチンベシル酸塩(商品名:タリオン®など)
- ロラタジン(商品名:クラリチン®など)
- ヒドロキシジンパモ酸塩(商品名:アタラックス®-P)
それぞれの特徴を説明します。
フェキソフェナジン塩酸塩
フェキソフェナジン塩酸塩は主にアレグラ®の商品名で使われています。市販薬のアレグラ®FXにも含まれている成分です。第2世代の抗ヒスタミン薬に分類されます。
副作用の眠気があらわれにくいのが特徴です。実際に医療用医薬品としての製剤は航空機乗務員を想定した試験などで作業能率に影響を与えにくいという結果もあります。
フェキソフェナジン塩酸塩に加えて血管を収縮させる塩酸プソイドエフェドリンを配合した、ディレグラ®という薬もあります。
エピナスチン塩酸塩
エピナスチン塩酸塩は第2世代抗ヒスタミン薬に分類される薬です。商品名にアレジオン®などがあります。抗ヒスタミン薬の中で比較的眠気などがあらわれにくい薬です。また薬の効果に持続性があり「1日1回服用」が可能な薬として、市販薬のアレジオン®20にも含まれている成分です。
エピナスチン塩酸塩は抗ヒスタミン作用のほかにも、ロイコトリエンなどに作用します。ロイコトリエンは
オロパタジン塩酸塩
オロパタジン塩酸塩は一般的に第2世代の抗ヒスタミン薬に分類されます。アレルギー性疾患に高い効果が期待できる薬です。主な商品名であるアレロック®は「アレルギー症状のブロック」に由来します。
オロパタジン塩酸塩は、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、皮膚掻痒症などに使われます。ヒスタミンへの作用のほかに、ロイコトリエンへの作用などが確認されています。多方向からアレルギーを抑えることが期待できます。
副作用の眠気には特に注意が必要です。薬の説明書の役割を持つ添付文書には「本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう十分注意すること」と記載されています。
ベポスタチンベシル酸塩
ベポスタチンベシル酸塩は、第2世代抗ヒスタミン薬に分類される薬です。商品名にタリオン®などがあります。
ベポスタチンベシル酸塩は抗ヒスタミン作用に加え、PAFやIL-5という体内物質の働きを抑える作用があります。
PAF(
ベポスタチンベシル酸塩はヒスタミン以外の物質にも作用することで高い効果を現します。
蕁麻疹などの皮膚疾患のほか、アレルギー性鼻炎などに使われています。
ロラタジン
ロラタジンはクラリチン®などの商品名で処方されています。
第2世代抗ヒスタミン薬に分類される薬です。眠気がかなり軽減されています。実際に自動車の運転への影響を検討した試験において、運転能力に影響を及ぼさなかったという結果があります。
ロラタジンは薬の効果に持続性があり、1日1回服用で効果を現します。
抗ヒスタミン作用のほか、ロイコトリエンなどへの作用があります。蕁麻疹などの皮膚疾患やアレルギー性鼻炎などに使われています。
ヒドロキシジンパモ酸塩
ヒドロキシジンパモ酸塩はアタラックス®などの商品名で処方されています。
第1世代の抗ヒスタミン薬です。かゆみに特に高い効果があります。
ヒドロキシジンパモ酸塩は「抗アレルギー性緩和精神安定剤」とも呼ばれます。
副作用の眠気などを考慮して、寝る前に飲む薬として処方されることも多い薬です。
レボセチリジン塩酸塩
レボセチリジン塩酸塩は、2016年9月現在で一番新しく開発された抗ヒスタミン薬です。商品名はザイザル®です。
レボセチリジン塩酸塩は、セチリジン塩酸塩(商品名:ジルテック®など)という抗ヒスタミン薬を元にして造られた薬です。セチリジン塩酸塩の半分の量で同等の効果をあらわすことが確認されています。
蕁麻疹などのアレルギー性疾患は低年齢化しているとされます。レボセチリジン塩酸塩を使った薬は、乳幼児も使えるザイザル®シロップ0.05%というシロップ剤も開発されています。
ザイザル®シロップ0.05%は通常、生後6ヶ月以上の小児なら飲めます。子供の蕁麻疹などの治療に役立てられている薬です。
レボセチリジン塩酸塩の副作用としてけいれんが起きる可能性があります。頻度は非常にまれです。てんかんなど、けいれんが出る病気にかかったことがある人は注意が必要です。
d-クロルフェニラミンマレイン酸塩
d-クロルフェニラミンマレイン酸塩は第1世代の抗ヒスタミン薬です。第2世代に比べて古い薬ですが、妊婦にも歴史上多く処方され、安全性が検証されてきた薬です。d-クロルフェニラミンマレイン酸塩は多くの薬の成分として使われています。
ほかの抗ヒスタミン薬は、一般的に妊婦での安全性は確立されていません。薬剤によっては禁忌(使用してはならない)とされています。
d-クロルフェニラミンマレイン酸塩を成分とする薬の例がポララミン®です。
ポララミン®は妊婦にも多く処方されていますが、催奇形性(薬を飲んだ影響で胎児に先天異常が出てしまうこと)の報告はありません。
使用にあたっては医師の診察を経て、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ処方され、適切に使用する必要があります。
その他の内服抗ヒスタミン薬
ほかにも以下のような抗ヒスタミン薬が使用可能となっています。
- 第2世代抗ヒスタミン薬
- 第1世代抗ヒスタミン薬
2. 抗ヒスタミン薬の副作用とは?
抗ヒスタミン薬は高い有効性を持つ一方で、中枢神経抑制作用(脳の覚醒などを抑える作用)や抗コリン作用(伝達物質
近年になって開発された第2世代の抗ヒスタミン薬では、一般的に眠気などの副作用が軽減されてきています。しかし、それでも眠気に対する注意は必要で、いくつかの持病を持っている人では特に注意しなくてはならない場合もあります。
抗ヒスタミン薬の副作用による主な症状を以下に挙げます。
抗ヒスタミン薬の副作用として排尿困難や眼圧上昇といった症状があらわれることは非常にまれとされていますが注意は必要です。
この他にも便秘による腸閉塞や痰の粘稠化による喘息などの呼吸器疾患への悪影響などが抗コリン作用によって引き起こされる可能性が考えられます。
抗ヒスタミン薬の副作用に特に気を付けるべき人は?
第1世代の抗ヒスタミン薬では
特に前立腺肥大や緑内障などの疾患を持っていることが多い高齢者が飲む場合は、症状を悪化させる可能性があるので、より慎重な判断が必要と言えます。
抗ヒスタミン薬の副作用は「世代」によって違う?
第2世代抗ヒスタミン薬のほうが一般的に第1世代に比べて眠気などの副作用が少ない傾向があります。
ただし、第2世代の薬は確かに第1世代に比べれば眠気などの副作用は軽減されていますが、ポララミン®の安全性の高さやアタラックス®ーPの自律神経系への作用など、場合によっては第1世代の方が有用性や有益性が高いこともあります。
第2世代の中でも眠気などの副作用が比較的あらわれやすい薬はありますし、飲む人の体質によっても変わってきます。例えば、タクシーの運転手を職業にしている人に対して眠気が強い抗ヒスタミン薬を選ぶことがあまり考えにくいように、生活習慣や職業によっても薬を選ぶ基準が変わります。つまり一長一短があるということです。
3. 知らぬ間の抗ヒスタミン薬の重複にご用心
抗ヒスタミン薬は処方薬や市販薬の中で多くの薬の成分として使われています。そのため、知らないうちに抗ヒスタミン薬が重複してしまい、結果として抗コリン作用などの副作用が増強してしまう可能性があります。
抗ヒスタミン薬の重複に気を付けるべき薬の例として以下のものがあります。
抗ヒスタミン薬が入っている処方薬
処方薬で見てみると総合感冒薬のPL配合顆粒には第1世代抗ヒスタミン薬であるプロメタジン塩酸塩、鎮咳薬(咳止め)のフスコデ®配合錠にも同じく第1世代のクロルフェニラミンマレイン酸塩が成分として含まれています。
抗ヒスタミン薬が入っている市販薬
市販薬(OTC医薬品)にも抗ヒスタミン薬を含む薬は多く存在します。例えば、乗り物酔いの薬です。めまいや吐き気、乗り物酔いなどの薬でよく聞く「トラベルミン®シリーズ」では第1世代のジフェンヒドラミン塩酸塩やクロルフェニラミンマレイン酸塩といった抗ヒスタミン薬を含んでいる場合があります。
ほかにも、睡眠補助薬として販売されているドリエル®、アンミナイト®などは第1世代抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン塩酸塩を成分として含む製剤です。抗ヒスタミン薬によってあらわれる眠気を逆手にとって一時的な不眠を改善するための薬となっています。
抗ヒスタミン薬をあえて重複させる治療法も
抗ヒスタミン薬は必ずしも重複してはいけないわけではありません。医師の診断によって症状などを考慮してあえて重複させて治療に用いる場合もあります。例えば、風邪薬のPL配合顆粒にアレグラ®などの抗ヒスタミン薬が重ねて処方されることもあります。蕁麻疹の治療においても、1種類の抗ヒスタミン薬だけでは効果不十分の場合に、既に使っている薬とは別の抗ヒスタミン薬を重ねて使う場合もあります。
ただし、これらは治療のためにあえて抗ヒスタミン薬を複数重ねて使っているのであり、基本的に副作用などを十分考慮したうえでの選択です。予想外に抗ヒスタミン薬が重複する場合とは趣が異なります。
4. 診察のときには使っている薬を伝えよう
自分に適した薬を探すうえで、自分の身体が今どうなっているのかを把握することが非常に重要になります。
病院やクリニックの受診の際は、現在治療を受けている病気や過去にかかったことのある病気、現在使用している薬(または、今は使用していなくても今後使う可能性がある薬)を医師や薬剤師などに伝えてください。そうすることで、適した薬が見えてきますし、知らず知らず重複してしまったということが少なくなります。