起立性低血圧症の治療:α刺激薬、鉱質コルチコイド薬など
起立性低血圧症の治療には原因への対処(例:脱水に対する水分補給)、非薬物療法、薬物療法があります。非薬物療法としては頭を少し上げた状態で寝る、弾性ストッキングの着用、リハビリテーションなどがあります。薬物療法としてはα刺激薬や鉱質コルチコイド薬を使用します。
1. 起立性低血圧症の治療
起立性低血圧症の治療は原因がある場合と原因がない場合で異なります。例えば、脱水により起立性低血圧症が起きている場合には、水分を補給するだけで起立性低血圧症が改善する可能性がありますし、薬の副作用により起立性低血圧症が起きている場合には、薬を中止することが大事になります。それぞれの原因への対処法はこちらの「原因のページ」でも説明しています。
一方で、原因への対処を行っても改善しない場合や、原因がない場合には次に述べるような薬を用いない治療(非薬物療法)や薬による治療(薬物療法)を行います。
2. 起立性低血圧症の非薬物療法
起立性低血圧症の非薬物療法としては以下のものがあります。
- 少し頭を上げた状態で寝る
- 弾性ストッキングを着用する
- 水分、塩分を多めにとる
- 飲酒を控える
- リハビリテーション・適度な運動を行う
以下でそれぞれにつき説明していきます。
少し頭を上げた状態で寝る
起立性低血圧症は寝ている状態から立つ状態に姿勢が変わる時に起こりやすいです。これは寝ている状態では、脳と心臓の高さが同じであるので、重力に逆らう必要がなく血流を送り出せば良いのに対し、立っている状態では、重力に逆らって、より強い力で血流を送り出す必要があるためです。この姿勢の変化に応じた血流の調整ができないことで、起立性低血圧症は起こります。
言い換えると、寝ている状態と立っている状態の脳と心臓の位置関係の変化が少なくなればなるほど、起立性低血圧症は起こりにくくなります。そのため、寝ている時に少し頭を上げた状態にしておくと、起き上がった時に起立性低血圧症が起こりにくくなります。
弾性ストッキング
弾性ストッキングは足の
水分、塩分を多めにとる
多めの水分、塩分摂取には血圧を維持させる作用があります。そのため、起立性低血圧症を起こしたことがある人は、水分や塩分の多めの摂取を勧められることがあります。水分は1日2-3L程度、塩分は10g程度の摂取が勧められています。ただし、この方法を行うと、平常時の血圧も上がりますし、心臓の負担にもなります。もともと血圧が高い人や心臓の調子が悪い(心不全)人は、行ったほうが良いかどうか担当のお医者さんとも相談してみてください。
飲酒を控える
飲酒は脱水を悪化させるので、起立性低血圧症の人では避けたほうが良いです。
リハビリテーション・運動療法
リハビリテーションや適度な運動は、起立時に血圧が下がりにくくするのに有効です。例えば近距離の買い物は車ではなく歩いて行くようにするなど、日頃から少しの運動だけでも心がけると起立性低血圧症が起こりにくくなります。また高齢の人の場合には、介護保険の枠組みでリハビリサービス(通所リハビリ、通院リハビリ)を受けられる可能性があります。担当のお医者さんやケアマネージャーに相談してみてください。
3. 起立性低血圧症の薬物療法
起立性低血圧症の薬物療法には以下のものが用いられます。
以下でそれぞれの薬について説明していきます。
α刺激薬
α刺激薬は血管を細くすることで血圧を上げる作用のある薬です。血管が細くなると血圧が上がるのは、水の出ているホースの口を細くすると水が勢いよく出るのと同じ原理です。具体的な薬の種類としては1日2回飲むタイプのミドドリンと1日3回飲むタイプのエチレフリンがあります。これらの薬は血圧を上昇させる作用があるので、起立性低血圧症にも有効です。副作用としては高血圧や心不全などがあります。
鉱質コルチコイド薬
鉱質コルチコイド薬は血中のナトリウム濃度を高める作用のある薬です。身体の中にもともとある
4. 起立性低血圧症の薬物治療の副作用?臥位高血圧とは?
立ち上がった時というのは横になっている時(医学用語で臥位:がい、と呼びます)と異なり、心臓の位置が脳よりも低くなるため、脳への血流は低下しやすくなります。そのため、立ち上がった時に血圧が低下しないように血圧をあげる薬としてα刺激薬や鉱質コルチコイド薬を使用します。一方で、これらの薬は必ずしも立ち上がった時の血圧を上げるだけでなく、横になっている時の血圧も上げてしまいます。その結果、「臥位高血圧」といって横になっている時の血圧が上がりすぎてしまうことがあります。また、糖尿病やパーキンソン病のように
臥位高血圧は内臓の負担になってしまうので、起立性低血圧症の状況を見ながら、薬の調整をしなければなりません。もし、起立性低血圧症の薬物治療を始めて、横になっている時や普段の血圧が高い場合には、担当の先生とも相談するようにしてください。