アルコール依存症の治療について:心理社会学的治療、薬物療法、自助グループ
アルコール依存症の治療では、基本的にはお酒を全く飲まないこと(断酒)が目標になります。断酒するために受けられる治療として、「心理社会学的治療」、「薬物療法」、「自助グループへの参加」があります。
1. 心理社会学的治療とは
治療の目標である「断酒」を目指すうえで特に効果的なのが、心理社会学的治療です。心理社会学的治療では、専門スタッフによって個別に行われるカウンセリングやグループワークなどを通して、病気を理解し飲酒欲求への適切な対処を目指します。医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士、薬剤師といったさまざまな職種のスタッフが治療に携わります。
心理社会学的治療を受けるには、約2-3ヶ月間の入院が必要になることが多いです。入院しはじめの頃は、不安・
心理社会学的治療ではどんなことをするのか
まずは、次の2つを目標に対話や学習を行います。
- アルコール依存症という病気について知る
- 飲酒によって自分の身に起こった悪影響について振り返る
その後、断酒の必要性について理解することを目指します。目安としては入院して2ヶ月目あたりからです。断酒する自信がついてきたら、一時的な外出が可能です。外出先でもお酒を飲まないままでいられれば、退院可能な状態となります。
なお、なかには外来通院だけで治療できる人もいます。入院することになるのかは、病状や希望などに応じて変わってきます。お医者さんに遠慮なく希望を伝えたうえで相談してみてください。
2. どのような薬物療法があるか
断酒するために、「嫌酒薬」と「断酒補助剤」を使うことがあります。断酒という目標が高いハードルのように感じてしまう人は、減酒するのに役立つ「飲酒量低減薬」を、さしあたり使うこともあります。また、不安やけいれんなどの離脱症状に対しては「ベンゾジアゼピン系
嫌酒薬:ジスルフィラム(ノックビン®)、シアナミド(シアナマイド)
アルコールは体内に吸収されると、まずアセトアルデヒドという物質に分解されます。アセトアルデヒドには毒性があり、主に肝臓でさらに分解されて無害な物質になります。このアセトアルデヒドが、飲酒したときに生じる吐き気や頭痛の主因です。
嫌酒薬はアセトアルデヒドの分解を抑えることで、飲酒時の不快感を引き起こします。これにより、飲みたい気持ちが遠のくというわけです。嫌酒薬は1日1-3回定期的に内服します。主な副作用は、吐き気、食欲不振、頭痛、睡眠障害などです。
断酒補助剤:アカンプロサート(レグテクト®)
脳にあるグルタミン酸作動神経の働きを抑えることによって、飲みたくなる気持ちを減らす薬です。ただし、断酒を実行した後ではじめないと十分な効果は期待できません。断酒しはじめてから約5日経過したところで飲み始めるのが標準的な使い方です。
1日3回内服し、原則的に6ヶ月間使用しますが、病状に応じて延長することがあります。主な副作用には、下痢、
飲酒量低減薬:ナルメフェン(商品名:セリンクロ®)
アルコール依存症の治療目標は基本的には「断酒」です。しかし、お酒を一滴も飲めなくなるのを受け入れられずに、治療を拒否してしまう人もいます。そこでハードルを下げるために、さしあたりの治療目標を「減酒(飲酒量を減らす)」に設定することがあります。このとき使われる薬が、ナルメフェンです。
ナルメフェンはオピオイド受容体へ作用することで、飲酒欲求を抑えると考えられています。内服のタイミングは飲酒の1-2時間前です。主な副作用は、
ベンゾジアゼピン系抗不安薬:ジアゼパム(セルシン®︎、ホリゾン®など)
主に脳内の
3. 自助グループとは何か
自助グループとは、同じ病気を抱える人同士が集まり交流し支え合う場所のことを指します。グループのメンバーと情報・知識・想いなどを共有することで、一人では対処が難しい問題の解決を目指します。
アルコール依存症の代表的な自助グループは、アルコホーリクス・アノニマス(AA)や全日本断酒連盟です。また、患者さん本人ではなく、家族や友人が集まって酒害による悩みを共有し克服を図る自助グループもあります。
どうやったら自助グループにつながれるか
アルコール依存症の診断を受けた人やその家族には、医療機関が治療の一環として自助グループを紹介してくれます。また、医療機関に相談したことがない人であっても、飲酒による問題について相談に乗ってくれます。全国各地に自助グループがありますので、通いやすい場所の連絡先をホームページなどで調べて問い合わせしてみてください。
参考文献
新アルコール・薬物使用障害の診断治療