あるこーるいぞんしょう
アルコール依存症
アルコール(お酒)を飲まないではいられない状態
11人の医師がチェック 228回の改訂 最終更新: 2023.06.12

アルコール依存症の症状について:飲酒がやめられない、手の震え・不安・イライラ(離脱症状)

アルコール依存症の最大の特徴は、飲酒の量やタイミングをコントロールできないことです。加えて、身体の震えや不安といった離脱症状が現れます。また、長年たくさんお酒を飲んできたことによって、肝臓、膵臓、脳などがダメージを受けて、それぞれの臓器に応じた症状が現れることがあります。

1. アルコール依存症の症状

アルコール依存症になるとお酒を飲みたいという強い思いが生じ、飲酒がコントロールできなくなります。また、酔いが冷めてくると離脱症状が現れるため、それを和らげようと飲酒を重ねるという行動もみられます。社会的な面への影響も少なくなく、家族や周りの人と揉めることが増えたり、職場などでトラブルを起こすこともあります。

飲酒をコントロールできない

アルコール依存症になると飲みたい気持ちを抑えられなくなり、どのような状況でも飲むことばかり考えるようになります。例えば次のような状態です。

【飲酒をコントロールできていないサイン】

  • 車の運転前や大事な仕事の前など、飲むべきではない場面でも飲酒してしまう
  • 事前に飲酒量を決めておいたのに、それより多く飲んでしまう
  • 休肝日を決めたのに守れずに飲んでしまう
  • お酒のせいで仕事や学業、生活に支障が出ている

飲酒によって社会生活に支障が出たり、あるいは健康を害するようになったりしますが、本人はその事実を受け入れられず飲酒習慣が続いてしまいがちです。

事実を受け入れない状態は「否認」と呼ばれ、これもアルコール依存症の人の特徴です。「自分は依存症ではない」、「いつでも酒はやめられる」、「次はトラブルを起こさない」といった考えに陥ってしまうため治療のタイミングが遅くなります。上記のサインは本人よりもむしろ家族や周囲の人が先に気がつくといえます。

お酒への耐性ができる

習慣的な飲酒を続けると、アルコールに対する「耐性」ができます。いわゆるお酒に強くなった状態です。今までと同じ量のお酒では酔いくくなるため、より多くのお酒を飲むようになります。耐性は依存症の初期の段階で起こり、依存症を悪化させる要因となります。

離脱症状が現れる

離脱症状とは、お酒をやめたり減らしたりしたときに起きる症状です。例えば、下記の症状が生じます。

  • 身体の症状
    • 手の震え
    • 過度な発汗
    • 吐き気
    • けいれん
  • 精神的な症状
    • 不安
    • イライラ感
    • 不眠
    • 幻覚
    • 幻聴
    • 意識障害(興奮、錯乱など)

離脱症状は飲酒によって一時的におさまります。そのため、症状から逃れようとまたお酒を飲むという悪循環に陥ります。離脱症状は辛いですが、断酒をはじめて1週間もすれば落ち着くものです。乗り切るためには、専門の医療機関によるサポートが役立ちます。ぜひ相談してみてください。

2. 合併する病気の症状

アルコールはさまざまな臓器に悪影響を及ぼします。アルコール依存症の人では長年の飲酒によって下記のような病気を合併しやすく、アルコール依存症の症状に加えてそれぞれの病気の症状も現れます。

【アルコール依存症に合併しやすい病気】

アルコール性肝障害

ほとんどのアルコール依存症の人に肝障害が起きています。初期段階の肝障害である「アルコール性脂肪肝」であれば、自覚症状はまずありません。進行して「アルコール性肝炎」や「アルコール性肝硬変」になると、身体のむくみ、息切れ、お腹の張りなどの症状が生じることがあります。医療機関での対処が必要なので、アルコール依存症の人が上記の症状に気づいたら、内科、消化器内科、肝臓内科などに受診してください。

アルコール性膵炎

飲酒が原因で膵臓に炎症が起きた状態です。急性膵炎慢性膵炎に分けられます。

急性膵炎

膵臓に急に炎症が起きた状態です。主な症状は背中の痛み・みぞおちの痛み・発熱・吐き気です。重症化すると死亡率も高いため迅速に治療する必要があります。上記の症状に気づいたときには、医療機関に相談するようにしてください。

慢性膵炎

繰り返す膵臓の炎症によって、正常な細胞が壊されて、膵臓が線維に置き換わっている状態です。腹痛が主な症状です。慢性膵炎が進行すると膵臓の機能が低下するため、消化不良による下痢や体重減少といった症状が現れます。

ウェルニッケ脳症

ビタミンB1の不足によって起こる脳の病気です。アルコールを分解する際にビタミンB1が使われるため、アルコール依存症の人ではビタミンB1が大量に消費されます。また、飲酒優先となって偏った食生活になりやすいことからもビタミンB1が不足しがちです。主にこれら2つの要因によって、アルコール依存症の人はウェルニッケ脳症を起こすことがあります。

ウェルニッケ脳症の症状】

  • ふらつく
  • 意識障害(ぼんやりするといった軽いものから、昏睡するほど重いものまでさまざま)
  • 眼の動きが悪くなる

これらの症状は比較的急に起こることが多いです。命にかかわることもまれにありますが、早いうちに断酒してビタミンB1を点滴すれば回復可能です。上記の症状に気づいたときには、夜間や休日であっても速やかに医療機関を受診してください。

コルサコフ症候群

主にウェルニッケ脳症の後に残る、記憶力の障害です。以前のことを思い出せなくなること(逆行性健忘)もあれば、新しいことを覚えられなくなること(前向性健忘)もあります。

気分障害(うつ病や躁うつ病)

気分障害とは、うつ病(大うつ性障害)や躁うつ病双極性障害)などの病気のことです。症状は多岐に渡りますが、代表的なものを下に挙げます。

  • うつ状態の症状
    • 何をしても楽しめない
    • 気分が重い
    • 1日中気分が落ち込んでいる
    • 食欲がない
    • 涙もろい
    • 眠れなかったり寝過ぎたりする
  • 躁状態の症状
    • 寝なくても元気である
    • 休む間もなくしゃべり続ける
    • やたら怒りっぽい
    • 異常に自信がある
    • 一つのことに集中できない
    • 衝動買いしてしまう
    • ギャンブルにつぎ込んでしまう

ただし、これらの精神症状の自覚がない一方で、倦怠感、頭痛、肩こりなど身体の症状がつらいと感じていて、その原因が気分障害であったという人もいます。心や身体の変調に気づいたら、精神科や心療内科に相談してください。

参考文献

1. 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン作成委員会/監修, 厚労省障害者対策総合研究事業「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」, 新興医学出版社 , 2018
2. 厚労省障害者対策総合研究事業 「市民のためのお酒とアルコール依存症を理解するためのガイドライン」