げっけいこんなんしょう
月経困難症
強い生理痛と、それに関連した頭痛や吐き気などを伴いやすい状態
9人の医師がチェック 165回の改訂 最終更新: 2023.09.01

月経困難症の治療:痛み止め、漢方薬、ピルなど

生理痛がひどいときは薬が頼りになります。生理に備え痛み止めの薬をいつもカバンに入れて持ち歩いている人も多いかもしれません。月経困難症の症状を改善する薬にはピルや漢方薬があり、市販薬として入手できるものもあれば、病院で処方してもらえるものもあります。

1. 月経困難症の治療方針

月経困難症の治療は、症状の原因として別の病気があるかないかで異なります。

目で見てわかる異常がある場合を器質性月経困難症といい、多くは子宮内膜症子宮筋腫子宮腺筋症と言った病気が痛みの原因となっています。治療ではこれら原因となっている病気の改善を目指します。たとえば、子宮内膜症を治療すれば、月経困難症の症状も良くなります。

一方で、原因となる病気のない機能性月経困難症では、症状とつきあっていくしかないので、痛み止めやピルを使って症状を抑えていきます。

以下では、月経困難症の症状を抑える薬について詳しく説明します。

2. 月経困難症に使われる解熱鎮痛薬①:NSAIDs

生理痛に効く薬の代表的なものが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:エヌセイズ)と呼ばれる種類の薬です。

NSAIDsは一般的に「痛み止め」としていろいろな病気に使われている薬で、痛みを軽くする鎮痛(ちんつう)作用のほか、炎症や発熱をやわらげる作用があります。病院で処方される薬にはロキソニン®錠などがあります。市販薬にもロキソニン®SバファリンAなどNSAIDsを使った薬があり、薬局などで手に入れられます(市販薬について詳しくはこちらのページを参照)。

NSAIDsは体内でプロスタグランジンが作られる量を少なくする働きがあります。プロスタグランジンは子宮を収縮する作用があり生理痛の痛みの原因になる物質です。また、炎症を引き起こす作用もあり、プロスタグランジンを減らすNSAIDsは生理痛の緩和によく合っているとも言えます。

ただし、プロスタグランジンにはほかの役割もあり、プロスタグランジンを減らすことが副作用につながる場合もあります。

NSAIDsの副作用とは

NSAIDsにより以下の副作用が出る場合があります。主な副作用は腹痛、吐き気などの消化器症状です。

【NSAIDsによる副作用】

NSAIDsを含む薬を使う場合、こうした副作用に該当する症状の出現に気を配ることが大切です。喘息発作が現れる頻度は非常に少ないとされますが、当てはまるような症状が出た場合はすぐに医師に連絡してください。同様に、腎機能障害も頻度は少ないとされますが、当てはまる症状が出た場合は医師や薬剤師に連絡してください。

副作用とも関係して、NSAIDsを含む薬は使ってよい年齢が制限される場合があります。たとえばロキソニン®Sは15歳未満の子どもは使用しないこととされています。

3. 月経困難症に使われる解熱鎮痛薬②:アセトアミノフェン

生理痛の薬としてアセトアミノフェンもよく使われています。アセトアミノフェンは、NSAIDsとは少し違う仕組みで効果を現し、痛みや熱などを和らげます。NSAIDsに比べると炎症を止める作用は弱めですが、NSAIDsに比べると胃腸に負担がかかりにくいこと、子どもや妊婦に対しても安全性が高いことなどの利点があります。

処方薬ではカロナール®錠など、市販薬ではタイレノール®Aなどがアセトアミノフェンを主成分とする薬です。

アセトアミノフェンの副作用として吐き気などが知られていますが比較的まれです。特に重い副作用として肝障害などが知られていますが、実際に現れることはまれです。

4. 生理痛に対して効果が期待できる漢方薬

ほかの病気が原因で起こっている器質性月経困難症には、原因となっている病気の治療が原則となります。このような原因がない、機能性月経困難症に対しては漢方薬が役立つことがあります。特に、漢方薬の中でも一部の薬には、生理痛を引き起こす原因の一つとなるホルモンバランスの乱れを整える効果があります。

漢方薬は一般的に、一人ひとりの体質や症状に合わせて使われます。漢方医学では体質や症状のことを「証(しょう)」という言葉で表現します。証は人によって違い、また同じ人でも症状が軽いときと重いときなどで違うので、同じ「月経困難症」という名前で呼ばれる状態でも、人によって使われる漢方薬は違います(詳しくはコラム「漢方薬の選択は十人十色!?」で解説しています)。

たとえば、下腹部に痛みがあらわれる生理痛でも、体力が不足気味の人と、体力が比較的充実していて便秘気味な人では違った漢方薬が使われることもあります。

漢方薬の多くは病院で処方されるとともに、OTC医薬品(市販薬)としても入手できます。生理痛に対して使われる漢方薬の例としては以下のものがあります。

【生理痛に使われる漢方薬】

  • 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
  • 桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
  • 加味逍遙散(カミショウヨウサン)
  • 桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)

それぞれについて説明します。

当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)

当帰芍薬散は、体質や体格が虚弱気味(やせ気味)で冷えやすいなどの証に適するとされる漢方薬です。生理痛以外にも月経不順、頭痛、不妊症更年期障害などに対して効果が期待できます。

当帰芍薬散には6種類の生薬(しょうやく)が含まれています。

【当帰芍薬散に含まれる生薬】

  • 当帰(トウキ)
  • 川芎(センキュウ)
  • 芍薬(シャクヤク)
  • 茯苓(ブクリョウ)
  • 朮(ジュツ:蒼朮〔ソウジュツ〕または白朮〔びゃくじゅつ〕)
  • 沢瀉(タクシャ)

当帰(トウキ)は、血のめぐりをよくし、貧血や多くの婦人科の病気に対して効果が期待できます。芍薬(シャクヤク)は、痛みを軽くする鎮痛(ちんつう)、精神を落ち着かせる鎮静(ちんせい)などの作用を持ち、筋肉のひきつりや腹痛、頭痛など、生理痛と一緒に表れやすい症状に対して効果が期待できます。また、卵胞(らんほう)ホルモンや黄体(おうたい)ホルモンといった女性ホルモンのバランスを改善する効果も期待できるとされています。

桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)

桂枝茯苓丸は、肥満傾向があるなど体質や体格がやや充実気味で、血色が比較的良く、下腹部の痛みなどがある証に適するとされる漢方薬です。

女性ホルモンに対する作用などによって、生理痛以外にも月経不順、更年期障害不妊症、頭痛などに対して効果的です。

桂枝茯苓丸は計5種類の生薬からできています。

【桂枝茯苓丸に含まれる生薬】

  • 芍薬(シャクヤク)
  • 茯苓(ブクリョウ)
  • 桂皮(ケイヒ)
  • 桃仁(トウニン)
  • 牡丹皮(ボタンピ)

桂皮はシナモンとして調味料にも使われている生薬です。胃を丈夫にする健胃(けんい)作用の他、熱や痛みなどを改善する効果も期待できます。桃仁や牡丹皮は炎症を治める作用や更年期障害を改善する作用があります。

加味逍遙散(カミショウヨウサン)

加味逍遙散は、体質や体格がやや虚弱気味で冷えやすいなどの証に適するとされる漢方薬です。ここまでは当帰芍薬散と似ていますが、中でも不眠(眠れない)や不安、軽い抑うつ傾向などの症状があるとき、またこれらの症状を含む月経前症候群(げっけいぜんしょうこうぐん)が現れている場合などには加味逍遙散が適しています。

加味逍遙散には10種類の生薬が含まれています。

  • 当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、朮(ジュツ:蒼朮〔ソウジュツ〕または白朮〔ビャクジュツ〕)、茯苓(ブクリョウ)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)、牡丹皮(ボタンピ)、山梔子(サンシシ)、生姜(ショウキョウ)、薄荷(ハッカ)

柴胡は鎮静・鎮痛などの作用やストレスを取り除く作用があるとされます。これら10種類の成分により、加味逍遙散は生理痛以外にも冷え症、月経不順、更年期障害などに対して効果が期待できます。

桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)

桃核承気湯は、体質や体格がやや充実気味で、胃腸は比較的丈夫だが、強い下腹部の痛み、のぼせ、便秘、不眠などの月経前症候群がある証に適するとされる漢方薬です。

名前にある承気とは気をめぐらすという意味です。桃核承気湯が腸の機能を活発にし排便を促すことをあらわしています。

桃核承気湯は5種類の生薬からできています。

【桃核承気湯に含まれる生薬】

  • 大黄(ダイオウ)
  • 桃仁(トウニン)
  • 桂皮(ケイヒ)
  • 甘草(カンゾウ)
  • 芒硝(ボウショウ)

大黄は下剤としての作用をあらわす代表的な生薬です。桃核承気湯は生理痛以外にも月経不順、月経時などの不安、腰痛、便秘、頭痛、めまいなどに効果が期待できる漢方薬です。

そのほかの漢方薬

ほかに以下の漢方薬も生理痛に対して使われる場合が考えられます。

【月経困難症に使われるその他の漢方薬】

  • 温経湯(ウンケイトウ)
    • やや虚弱気味で冷えや皮膚が乾燥するような月経困難症に適しています。
  • 当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)
    • やせていて胃腸虚弱で下腹部の痛みが続くような証に適しています。
  • 芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)
    • 痛みや筋肉のひきつりなどを改善します。

漢方薬の副作用

一般的に漢方薬は副作用が少ないとされますが、全くないわけではありません。生薬成分自体が身体に合わない場合も非常にまれですが考えられます。

また、漢方薬は体質に合ったものを使うことで効果を発揮しますが、体質に合わない漢方薬を使った場合(例えば、もともとお腹が緩くなる傾向のある人に対して下剤作用がある大黄が入った漢方薬を使った場合など)や、適正量を超えて使った場合などでは好ましくない作用があらわれることも考えられます。

漢方薬は医療用医薬品の他、OTC医薬品(市販薬)としてもいろいろな種類のものが販売されています。飲むときには自分の体質・症状などをしっかりと医師や薬剤師などの専門家に伝え、適切な薬を使うことが大切です。

5. 生理痛にピルが効くのはなぜか

月経困難症の治療に、避妊薬としても知られる「ピル」が使われることがあります。

ピルは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンという2種類の女性ホルモンを配合した薬です。月経困難症の原因には不明な部分もありますが、女性ホルモンのバランスが乱れていることも関係していると考えられています。「ピル」で女性ホルモンのバランスを整えることで、重い生理痛を軽くする効果が期待できます。

6. 生理痛に使う低用量ピルについて

「ピル」は一般的に、高用量、中用量、低用量の3つに分類されます。3つの違いは含有する卵胞ホルモンの量です。月経困難症で主に使われるのは低用量ピルです。

以前は、月経困難症の生理痛をやわらげる治療に中用量ピルが使われていたのですが、最近では低用量ピルをよく使います。それは「ピル」の副作用で特に重い「血栓症」が起こる可能性を低用量ピルを使うことにより抑えられるからです。

実際に現れることは非常にまれですが、「血栓症」は体の中で血が固まって血管に詰まってしまい命に危険が及ぶこともあります。そのため、血栓症のリスクが高いヘビースモーカー、前兆を伴う偏頭痛がある人、高血圧の人などは使うことができません。

ルナベル配合錠の効果と副作用

ルナベル配合錠LDルナベル配合錠ULDの2種類があります。違いは成分の量で、配合錠ULDは配合錠LDよりも卵胞ホルモンの量が少なくなっています。黄体ホルモンの量は同じです。成分量の違いによって副作用の現れやすさが違います。どちらを使うかは通常、症状や治療目標などを考えて選びます。

◎副作用について 副作用の血栓症を少なくする目的で卵胞ホルモンの含有量を少なくした低用量ピルの中でも、ルナベル配合錠ULDはルナベル配合錠LDよりさらに卵胞ホルモンが少ない薬です。不正性器出血(生理の時期に合わない出血)があらわれる発現率はルナベル配合錠LDに比べ高いというデータもあります。

ヤーズ配合錠の効果と副作用

ヤーズ®配合錠はルナベル配合錠ULDと同様に、卵胞ホルモンの量を少なくしてあるため、超低用量ピルと呼ばれる場合もあります。

ヤーズ配合錠は飲み方に特徴があります。

生理の周期(月経周期)は女性ホルモンの分泌量の変化によってコントロールされています。そのため、ピルを飲むときには、女性ホルモンの量が変わるタイミングに合わせて薬の量も調整します。具体的には、「月経周期を28日として、21日間ホルモン成分の入った薬を飲み、残り7日間は薬を飲まないか、プラセボといって有効成分が入っていない偽薬を飲む」ように決められているのが一般的です。

ヤーズ配合錠はほかの「ピル」とは違って、「ホルモン成分が含まれる実薬を24日間飲み、プラセボを残り4日間飲む」ように決められています。つまり、28日のうちに薬を飲まない日(休薬期間)がほかの薬では7日間ですが、ヤーズ配合錠では4日間と短くなっています。

休薬期間を短くすることで、休薬期間中の女性ホルモン量の急な減少を抑えられるため、ホルモンが急に減ることでおこる下腹痛頭痛などを軽くする効果が期待できます。

◎副作用について ヤーズ配合錠の副作用には、ほかの「ピル」と同じように、血栓症など特に重いものがあります。ただヤーズ配合錠に入っている卵胞ホルモンの量が少ないなどの理由から、重い副作用が出ることはかなり少ないとされています。

マーベロンの効果と副作用

マーベロン®は避妊薬としても使われますが、ひどい生理痛で日常生活がうまくできなくなった月経困難症の治療に使われる場合もあります。

ただし月経困難症にマーベロンを使うときには保険が効きません。自費薬(じひやく)と言って、保険を使わない自由診療となるため、保険が効く薬に比べると高い費用がかかります。また、その費用は病院によって違います。

◎マーベロンの特徴について
マーベロンの有効成分は、卵胞ホルモンと、黄体ホルモンの一種であるデソゲストレルです。デソゲストレルはほかの薬で使われている黄体ホルモンに比べて、排卵を抑える作用が強く、また高血圧などの副作用が少ないなどの特徴を持っています。

◎マーベロンの副作用について
ほかのピルと同様に特に重い副作用はまれですが、静脈血栓症などに注意は必要です。

◎「マーベロン21」と「マーベロン28」の違いとは?
マーベロンの名前がついている製品には「マーベロン21」と「マーベロン28」の2種類があります。マーベロン21とマーベロン28の違いは休薬期間に何も飲まないかプラセボを飲むかという違いによるもので、薬としては同じです。

「マーベロン21」は21日分(21錠)、全てホルモン成分を含む本物の薬がパッケージされています。通常、薬を飲む人は1日1錠を21日間飲み、次の7日間は何も飲まないようにします。

「マーベロン28」は28錠でパッケージになっているのですが、その内、21日分の21錠がホルモン成分を含む本物の薬で、残り7日分の7錠は有効成分を含まないプラセボ(偽薬)です。飲む人は「1日1錠」を毎日続けていれば、結果的に7日間薬を休んだのと同じになり、何日休んだか覚えていなくてもいいという利点があります。ただし本物の薬とプラセボを間違えて飲まないように気を付ける必要があります。

トリキュラーの効果と副作用

トリキュラー®は避妊薬としても使われますが、月経困難症などの治療に使われる場合もあります。マーベロンと同様、生理痛に使うときには保険が効かない自由診療の薬(自費薬)となります。保険が効く低用量ピルよりも費用が高くなります。

◎トリキュラーは飲む順番を間違えないように注意
トリキュラーにもマーベロンと同様に「トリキュラー21」と「トリキュラー28」があります。「トリキュラー28」は休薬分の7日分(7錠)がプラセボ(有効成分を含まない薬)として一緒に入っています。

21日分の21錠は、全てが同じではありません。女性の身体が自分で作るホルモンの増減にうまく合うように、薬に入っている黄体ホルモンと卵胞ホルモンの配合割合も3種類になっています(これを三相性と言います)。これがトリキュラーの特徴です。

有効成分の量を3段階に調整してあることで、月経周期をうまく調節できるなどのメリットが考えられます。ただし飲む順番を間違えないよう気を付ける必要があります。日本で発売されているトリキュラーには飲み間違え防止のための数字(飲む順番)がシートに記載されています。

◎トリキュラーの副作用について
生理痛に使われる他の低用量ピル同様、特に重い副作用はめったに出ませんが、血栓症などに対する注意は必要です。

7. 低用量ピルを使いたい人はお医者さんとよく相談を

他にも低用量ピルとして自由診療の薬として使われているアンジュ®(アンジュ®21、アンジュ®28)、中用量ピルに分類され保険で使うことができるプラノバール®配合錠やソフィア®A配合錠など、月経困難症に使われる「ピル」は色々あります。

生理痛で使うピルは低用量であるほど良いというわけではなく、それぞれ一長一短があります。どの薬が使う人に合っているかは、ホルモンバランスの状態や体質などによって違います。 また、喫煙、高血圧、肥満などがある人は血栓症が発生しやすくなるので、治療の選択肢にも影響します。ピルを飲むときはタバコはやめておきましょう

また、ピルを飲み始めたら、自己判断で飲むのをやめたり、量を変えて飲むのは非常に危険です。効かないと思ったとき、生理痛がかえって悪化したように感じるとき、副作用が心配なときなどは、処方した医師に相談しましょう。

お医者さんとよく相談し、それぞれの体質・症状などに合わせた治療法を選択することが大切です。