うつびょう
うつ病
抑うつ気分、意欲低下、希死念慮(死にたいと思うこと)などが2週間以上持続する状態。治療は薬や認知行動療法など
22人の医師がチェック 179回の改訂 最終更新: 2023.01.13

Beta うつ病のQ&A

    うつ病は、どのように診断するのですか?

    うつ病を正確に、客観的に診断する検査というものがまだ実用的な段階ではありません。
    血液検査、画像検査等でうつ状態を引き起こす体の病気の除外をする以外は、光トポグラフィのような補助的検査ができる程度で、高い精度で診断できる検査法はありません。 そのため診察した医師の問診による評価や質問紙による評価が診断に大きなウェイトを占めています。
    実際には重症度を含めたうつ病評価尺度というものが複数あり、それを用いることも多いです。

    うつ病の治療法について教えて下さい。

    うつ病の主な治療法は大きく以下のように分けることができます
    ・休養、環境調整
    ・精神療法
    ・薬物療法
    ・電気けいれん療法(ECT) 
    この中から重症度や治療の時期に応じて適切なものを選択して行っていきます。
    うつ病の患者さんは自身を追い詰め、十分な休養が取れず疲弊している場合が多いです。まず、自身が安心して治療を受けることができるようにするために、休養が不十分な場合は周囲の人の力も借りて治療、休養のための環境を整えなければなりません。
    まず、診断時に体の病気や薬剤がうつ状態の原因であったり、うつ状態に影響を与えていたりしないか検討します。もし可能性があれば、身体疾患の治療や薬剤の中止あるいは変更を考慮します。
    この場合でも、うつ状態が重症であれば抗うつ薬を使用します。
    身体疾患や薬剤が関係しておらず、うつ状態が上記のような基準を満たす場合は、抗うつ薬療法を考えます。ただし、うつ病が軽症である場合は、抗うつ薬がそれほど有効でないとする報告もありますので、抗うつ薬は期待される有効性と副作用を慎重に検討する必要があります。また、双極性障害(躁うつ病)のうつ状態では原則として抗うつ薬を用いず、気分安定薬に分類される薬剤を処方します。
    環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応します。過去にいろいろな場面でうまく適応できず、うつ状態になっているような人で、性格面で検討すべき問題がある場合は、精神療法として一緒に考えていく必要があります。抗うつ薬での治療や精神療法がうまく行かない、症状が重症で命にかかわる場合などには電気けいれん療法を選択することもあります。

    うつ病の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    うつ病の原因についてはいまだ解明されていない点も多く、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった脳内のホルモンが発病、症状に影響を与えているというモノアミン仮説というものが現時点では最も有力であるとされています。
    しかしながら現在実用化されている医療において、脳内のモノアミンを評価できる検査はなく、いくつかの検査を除くと主に臨床症状から診断、評価をしています。
    一方で、現実には病前性格(気質要因、遺伝要因)、ストレスモデル(環境要因、気質要因)など、科学的に調べることが難しい心的な要因や外的な要因が発病や症状の悪化、改善に影響を与えていることも間違いなく、現代の医療ではその両者を評価して診断、治療を行っています。

    うつ病は、どんな症状で発症するのですか?

    最も一般的に訴えられる症状は不眠と気力の減退です。
    ただし、注意すべきこととして、多くの国のプライマリケアにおいて身体症状が受診理由の症状となっているうつ病を持つ多くの患者さんが見逃されており、疲労感や倦怠感、頭痛を始めとした身体の痛みなどの身体症状が最初の症状となる可能性も高いと言われています。

    うつ病の予後について教えてください

    ​うつ病の治療はある程度の期間を要します。症状が良くなったり、悪くなったりしながらゆっくりと改善を目指していきますので、症状が良くなったからといって自己判断で途中で薬を飲むのをやめるなど治療を中断することはいけません。状態が変わるその都度、治療方針について担当の先生に相談することが大切です。

    ◎治療の流れ
    治療期間は急性期、回復期、再発予防期の3つの期間に分かれます。

    急性期は十分に休養をとり、回復期には薬物療法、再発予防期には精神療法やカウンセリングを行います。それぞれの期間は症状の程度や早期に治療できたかどうかなど個人差がありますが、一般的な目安として急性期で1か月から3か月、回復期で4か月から6か月、再発予防期が1年以上と言われています。

    3つの期間を経てうつ病の80%の方は以前の状態に回復すると言われています。残り10〜20%が治療に難渋し、長期化し、日常生活に支障をきたすと言われています (難治性うつ病といいます)。

    ◎平均的なうつ病の再発率

    うつ病のエピソードの回数と再発率との関係性は以下のとおりです。

    • 初回のエピソード(うつ病を発症している状態のこと)をもつ患者の60%は2回目のエピソードをもちます。

    • 2回目のうつ病エピソードを持った場合、3回目を発症する可能性は70%です。

    • 3回目のうつ病エピソードを持った場合、4回目を発症する可能性は90%です。

    上記は一般的に言われている数値であり、個人の障害の程度や環境要因によって経過は変わってきます。

    また患者自身や家族に希死念慮や自殺企図がある場合やアルコール依存症を合併している場合、経済的な困難に陥っている場合などは自殺リスクが高いという報告があり、注意が必要です。自己判断せずに専門家の要る医療機関を受診するようにして下さい。

    経頭蓋磁気刺激療法(TMS)とはどんな治療法ですか?

    うつ病や躁うつ病の治療に頭蓋骨の外から磁気刺激を脳に与え、脳の神経細胞を刺激して抗うつ作用をもたらす経頭蓋磁気刺激療法(TMS)があります。同じように脳の神経に刺激を与える電気けいれん療法(ECT)がありますが、経頭蓋磁気刺激療法(TMS)の方がより安全で入院することなく治療ができるため注目を浴びています。(現在、日本では保険適応外の治療法になります)

    うつ病の方は、脳の一部で血流や代謝が低下しており、脳の活動が低下している可能性が高いです。それに対して扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる脳の深部にある感情を司っている部位が過剰に活動している場合が多いとされてます。

    また扁桃体の機能をコントロールしている背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)と呼ばれる脳の前方にある部位の機能が低下する場合が多いことが知られています。この部位は物事を判断したり、意欲や興味を持つために重要な役割を担っており、これらの機能が損なわれることがうつ病の症状と関係があると考えられています。

    そこで経頭蓋磁気刺激療法(TMS)を用いて背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)を刺激することによって、脳の活動を回復つつ二次的に扁桃体の過剰な働きを抑えることによってうつ症状を改善させます。

    治療時間は30-50分程度で、1週間に1-3回の頻度で行われています。施設によって異なりますので診察時にご相談ください。副作用は治療中に刺激による頭痛などがありますが、重篤な後遺症はないと言われています。

    TMSの治療の効果についてはまだ研究段階であり、現状のところ実施できる施設も限られています。費用も自己負担になってしまうため担当の医師と相談のうえ治療方針を決めることが大切になります。実施しているクリニックによってはカウンセリングを受けられる場合があるので活用されると良いかと思います。

    「老人性うつ病」の原因と症状について教えてください

    65歳以上になると、身体機能の低下や退職などをきっかけに様々な社会との関わりが少なくなってきます。社会との関わりが減ると抑うつ状態になりやすいと言われています。また、近年の高齢化に伴い、高齢者のうつ病の発症者数は増加傾向にあります。早期に適切な対処をするためにも、高齢者うつ病の原因や特徴的な症状について事前知識を得ることが大切です。

    一般的にうつ病には遺伝的要因、身体的要因、心理的や社会的な要因が関連していると言われていますが、なかでも高齢者のうつ病では後者2つの要因が強いと言われており、慢性化しやすいのが特徴です。

    高齢者のうつ病のリスク要因には以下が挙げられます。

    • 女性

    • 身体の機能障害(関節症や脳梗塞による麻痺など)

    • 高血圧や糖尿病といった慢性疾患

    • 薬剤治療の副作用

    • 退職などをきっかけに社会交流が少なくなる

    • 経済的困難がある

    • 配偶者や親しい方の死別

    • 睡眠障害

    • うつ病の既往

    • アルコール依存症

    • 認知機能障害

    高齢者のうつ病では、原因が心の不調にあるという認識が本人にも薄いことが多く、主に体の不調を訴えることが多いです。不調の例としては以下が挙げられます。

    • めまいやふらつき、頭が重い、体がだるい、疲れやすい、眠れないなどの不調

    • 生きがいや物事に対する興味が無くなってしまう

    • 悪口を言われたなどの被害妄想がある

    • 不安感や不穏な状態に陥り、じっとしていられなくなる

    • 物忘れしやすいと訴える

      • 認知症の場合は訴えることが少ない点が鑑別のポイント

    高齢者のうつ病は認知症など様々な病気と似た症状があらわれるため、見逃されてしまうことが少なくありません。自分や周囲の人に気になる症状がある場合は、早期に受診し適切な治療を開始することが大切です。

    うつ病は、どれくらいの頻度で起こる病気ですか?

    うつ病の有病率は国や地域、文化によって大きな差があり、最大で7倍の開きがあると言われています。
    日本では12か月有病率(過去12カ月に経験した人の割合)が1-2%、生涯有病率(これまでにうつ病を経験した人の割合)が3-7%で欧米の12カ月有病率は1-8%、生涯有病率は3-16%です。
    うつ病はいかなる年齢においても発症しますが、発症する確率は思春期以降に大きく増加します。
    【出典】
    平成 18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)

    うつ病の薬物療法について教えて下さい。

    薬物療法の中心となるのは抗うつ薬です。
    抗うつ薬の分類としては、
    新規抗うつ薬

    • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
      • パロキセチン(パキシル)フルボキサミン(デプロメール,ルボックス)セルトラリン(ジェイゾロフト)エスシタロプラム(レクサプロ)
    • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
      • ミルナシプラン(トレドミン)デュロキセチン(サインバルタ)
    • NaSSA (ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
      • ミルタザピン(リフレックス、レメロン) 

    その他、古くから使われている薬として、

    • 三環系抗うつ薬 
    • 四環系抗うつ薬
    • 二環系抗うつ薬

    などがあります。

    これらに加えて不眠に対して睡眠導入剤、不安感に対して抗不安薬などを症状に合わせて補助として用いる事があります。

    うつ病の診断基準について教えて下さい

    うつ病の診断基準は世界保健機関(WHO)が定めたICD-10というものと、アメリカ精神医学会(APA)が定めたDSM-5
    というものがあり、日本の医療現場では両者が併用されています。
    ここではDSM-5の診断基準を紹介します。

    大うつ病エピソードの診断基準(DSM-5)
    A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。
    これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分または(2)興味または喜びの喪失である。

    1.その人自身の言明(例:悲しみまたは、空虚感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。
    2.ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退(その人の言明、または他者の観察によって示される)。
    3.食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加(例:1カ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加。
    4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
    5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚でないもの)。
    6.ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
    7.ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)。
    8.思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言明による、または、他者によって観察される)。
    9.死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。

    B.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
    C.そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
    D.抑うつエピソードは、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症用症状、妄想性障害、または他の特定及び特定不能の統合失調症スペクトラム障害及び他の精神防錆障害群によってはうまく説明されない。
    E.躁病エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。

    うつ病の光トポグラフィー検査(NIRS)について教えて下さい。

    2014年4月からうつ症状の診断補助として光トポグラフィー検査を行うことができるようになりました。光トポグラフィー検査は、体に害の無い近赤外光を使用し、脳に栄養を送っている血液のヘモグロビン(酸素を運搬する物質)の濃度の変化を計測することができます。

    うつ病や双極性障害(躁うつ病)、統合失調症で脳の血管内のヘモグロビン濃度のパターンが異なるため、70%程度の精度でそれぞれの病気の違いを判断することができます。

    光トポグラフィー検査の保険対象の条件は以下のとおりです。

    • 脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)やアルツハイマー病、脳腫瘍、頭部外傷による影響はないと医師により判断されている場合

    • うつ病の治療を受けているが、治療効果がなく、他の疾患(統合失調症や双極性障害など)の疑いがある場合

    条件に当てはまらない場合は保険適用外となり、施設によって検査費用は異なります(目安1万5千円程度)。

    光トポグラフィー検査はあくまで診断を補助する検査です。うつ症状を伴う病気の鑑別には十分な問診が大切である点には注意が必要です。問診に加えてこの検査を行うと、正しい診断に近づくことが期待できます。

    うつ病の精神療法について教えて下さい。

    うつ病の精神療法にはたくさんの治療法がありますが、代表的なものを示します
    ・支持的精神療法
    感情をあえて掘り起こさず、不安を軽減することに主眼をおいた治療法で、日常のうつ病診療において最も患者さんの精神的負担も小さく一般的に行われている精神療法です。つらい症状や悩み治療者に話し、共感を示してもらうことで感情の発散が促され現実にあった希望と安心感を得て、うつ病の人が抱きやすい罪悪感や自責の念を和らげる効果があります。支持的に関わることを繰り返す結果、患者さんは自身の有するレジリエンス(復元力)によって回復、成長していきます
    ・認知療法・認知行動療法(CBT:Cognitive behavioral therapy)
    認知療法・認知行動療法とは、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法です。
    現在、うつ病や不安障害、不眠症、摂食障害、統合失調症などの多くの精神疾患に効果があることが実証されて広く使われています。認知というのは、考え方やものごとの受け取め方という意味で、ストレスを感じた時に私たちは悲観的に考え、問題を解決できない心の状態に陥りやすくなりますが、認知療法では、ストレスに上手に対応できるような考え方のバランスを取ることができる心の状態をつくっていきます。
    私たちは、自分の状況を常に主観的に判断しています。ところがうつ状態に陥っているとき、強いストレスを感じているときなど、特殊な状況下では認知に歪みが生じやすくなります。その結果、状況にふさわしくない抑うつ感や不安感が高まり、非適応的な行動が増え、さらに認知の歪みが強くなります。
    そういった状況に陥った場合に、現実的でしなやかな考え方を持ち、悲観的にも楽観的にもなりすぎず、対処をしていけるように手助けするのがこの治療の目的です
    特に、認知行動療法では自動思考という、気持ちが辛い時、動揺したときに頭に浮かんできていた考えに注目し、その考えがどの程度現実と食い違っているのかを検証し、思考のバランスを整えます。こうした作業を、面接場面や、ホームワークを用いて日常生活のなかで行っていきます。

    ・対人関係療法(IPT: Interpersonal Psychotherapy)
    対人関係療法は、他者との現在の関係に焦点を当てて対処を図る現実的な治療法です。過去を振り返ってつらい状況の原因となる心の葛藤を探るのではなく、対人関係における対処の混乱が症状を悪化させるという考えのもと、対人関係の問題を解決します。自分にとってストレスとなっている人間関係を探り、その人とのトラブルを回避し、うまくやっていく方法を考えて、具体的に対処するスキルを学びます。

    うつ病の軽症、重症の評価の仕方を教えて下さい。

    症状の数と日常生活や仕事などの障害の程度の二つで重症度を評価します。
    重症例の定義として、症状の数では症状項目数が診断基準において必要とされている5項目より多く
    障害の程度は症状は非常に苦痛で手に負えないもので、社会的および職業的機能を著しく損なうものである、とされており、
    働いたり家事をしたりということはおろか日常生活が殆どできない状態であると考えられます。
     

    うつ病の患者さんの数は最近増えているのでしょうか?

    厚生労働省が実施している患者調査によれば、日本の気分障害患者数は1996年には43.3万人、1999年には44.1万人とほぼ横ばいでしたが、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と、著しく増加しています。「最近うつ病が増えた」と強調されることがありますが、数字の解釈には注意が必要です。うつ病は検査などで明確に診断できる疾患ではないため、診断基準が少し変わることによって、診断される患者数にかなりの差がでてきます。
    最近の増加が本当の増加なのか、うつ病であるという判断方法の違いの影響が大きいのかは、十分注意する必要があるでしょう。
     

    うつ病、うつ状態が発症しやすくなるような体の病気はありますか?

    多くの病気がうつ状態をひきおこしますが、大きく分けると次の3種類に分けられます。それぞれ代表的で頻度の多い疾患を2つずつ挙げます

    内分泌疾患
    女性ホルモン、甲状腺ホルモンなどいわゆるホルモンの異常によって起こる病気の総称です。
    ホルモンは身体に様々な作用をもたらしますが、精神的な作用があるものも多く、例えば女性ホルモンのバランスが崩れる月経(生理)では、イライラしたり、気分が落ち込みやすくなります。
    1.甲状腺機能低下症
    うつ状態を引き起こす内分泌疾患として代表的なものです。
    甲状腺ホルモンは、身体の代謝を活性化する働きがあります。そのため甲状腺ホルモンが少なくなると、代謝が落ち、抑うつ気分、倦怠感、疲労感、活動性低下、集中力、記憶力低下など、うつ病と共通する症状が多く出現します。
    2.クッシング症候群
    クッシング症候群は、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌されてしまう疾患です。
    クッシング症候群の症状は、中心性肥満、満月様顔貌、多毛、座瘡などが主なものですが、精神症状として、抑うつ気分、意欲の低下、不安、焦り、不眠が出現することがあります。


    脳疾患
    うつ病自体、モノアミン仮説などが提唱されており脳の疾患と考えられていますが、脳に画像検査などで指摘されるような萎縮などの器質的な異常がある場合にもうつ状態が出現することがあります。
    1.パーキンソン病
    パーキンソン病は、中脳の黒質という部分のドーパミンの減少が原因だと言われています。
    振戦、姿勢反射障害、無動、筋固縮などの症状が典型的ですが、多彩な精神症状が併存することでも知られています。
    抑うつ気分、不安、幻視、感情鈍磨、興味や関心の低下、緊張、集中力・記憶力低下などが出現し、動きが少なくなることからもうつ病と診断されてしまう場合も少なくありません。

    2.認知症
    認知症には、
    ・アルツハイマー型認知症
    ・脳血管性認知症
    ・レビー小体型認知症
    ・前頭側頭型認知症
    など複数の種類がありますが、どの認知症でもうつ状態を生じることがあります。認知症は、脳の萎縮などの器質的変化
    みられ、意欲低下、抑うつ気分、妄想、攻撃性などの精神症状が生じます。

    その他の身体疾患
    1.糖尿病
    糖尿病の患者さんは他の慢性疾患の患者さんと比べてうつ状態を発症しやすいと言われています。はっきりとした原因は解明されていないのですが、高血糖が精神に何らかの影響を与えている、病気に対する不安のため、などという説があります。
    2.全身性エリテマトーデス(SLE)
    全身性エリテマトーデス(SLE)は、様々な臓器が障害される膠原病というカテゴリに分類されます。
    典型的な症状は蝶形紅斑・発疹などの皮膚症状、関節炎、腎炎、心膜炎などですが、精神症状を来すことも珍しくなく、抑うつ気分、意欲低下などのうつ状態に加え、気分高揚、幻覚妄想などの多彩な症状が出現する可能性があります。
    自己免疫疾患に対しては、ステロイドなどの免疫抑制剤で治療が行われますが、ステロイド治療においても不眠、憂うつ気分などのうつ状態が出現することも多く、注意が必要です。

    電気けいれん療法(ECT)について教えて下さい。

    電気けいれん療法(ECT)は重いうつ病に苦しんでおり、薬が十分効果を発揮しない、抗うつ薬を試したが副作用がでてやめてしまいほかの治療法も効果がない、食べることも飲むこともせず、生命を維持するための手段も拒否するため、生命が危険にさらされている場合などに最後の治療手段として行います。麻酔をかけた状態で治療器からごく短時間、こめかみにつけた電極を通して電流が脳に流れ、発作(けいれん)を起こさせます。効果が出るまで3-4回、平均6-8回の治療で顕著な改善が見られることが多いです。もともと統合失調症の治療法として行われていましたが、うつ病や緊張病、強迫性障害、せん妄などさまざまな病気に対して効果があることが分かっています。

    電気けいれん療法は全身けいれんを抑えるために行われます。麻酔薬と筋弛緩薬を使用した修正型けいれん療法が一般的に行われており、安全性が高まっています。

    電気けいれん療法が行われるのは以下の場合が多いです。

    • うつ症状に対する薬物治療が難渋している場合

    • 自殺の危険性が高い場合

    • 身体的に脱水や低栄養状態の危険性が高い場合

    • 老人や妊婦などで他の治療法が危険性があるなど適さない場合

    • 電気けいれん療法が過去に効果があった場合

    一般的に1回の治療で効果を認めることは少なく、週に2回から3回を行うことが多いです。そのため治療を行うには入院する必要があります。

    副作用として逆行性健忘と呼ばれる、過去の記憶を思い出すことが難しくなってしまう状態が起こることがあります。

    また、電気けいれん療法は治療効果が継続しない場合もあるため、継続して行われたり、定期的に再発予防のために行われたりすることがあります。

    近年では電気けいれん療法の副作用や入院が必要な点から、副作用が少なく簡便な経頭蓋電気刺激療法(TMS)を使用することがあります。

    うつ病の人がかかりやすい病気はありますか?

    うつ病と併存しやすい精神疾患としてはパニック障害、強迫性障害、摂食障害、境界性パーソナリティ障害、物質関連障害(アルコール依存症、薬物依存など)などが挙げられます。

    うつ病の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    回復後すぐに抗うつ薬を減量、中止することで再発の危険性が高まると言われています。
    特に寛解(治療をうけながら症状がない状態)した後26週間は抗うつ薬の再燃予防効果が立証されていて、欧米では副作用の問題がなければ初発治療の寛解後4-9か月、
    またはそれ以上の期間は急性期と同用量で服薬を続けてから減量するべきとされています。
    うつ病を再発した患者さんについては2年以上の抗うつ薬を服用することが望ましいとされています。
    また、減量に際しては中止後症状に注意が必要であり、急に中止するのではなくゆっくりと減量していかなければなりません。

    うつ病では入院が必要ですか?

    うつ病の多くは外来通院で治療が可能ですが、中には入院が必要となるケースが存在します。
    入院治療を考えなければいけない条件としては
    1.自殺企図、切迫した自殺念慮がある場合
    2.療養・休息に適さない家庭環境
    3.身体的衰弱が強い、病状の急速な進行が予測されるなど病状が重篤で綿密な医学的管理が必要な場合
    などがあります。うつ病は決まった経過をたどる病気ではないので、入院期間は入院の理由や病状の改善程度にもより幅がありますが、概ね1-3ヶ月程度であることが一般的です。

    うつ病は、遺伝する病気ですか?

    うつ病を持つ人の第一度親族(親、子、きょうだい)のうつ病の遺伝率はおよそ40%であり、発病率としては一般人口の2-4倍です。

    うつ病では通院はどの程度必要ですか?

    アメリカで行われた調査では、約1年以内に寛解状態まで改善する割合が67%であると言われています。初回治療でも寛解後9か月程度の薬物療法の維持が望ましいとされていますので、これらを合わせて考えると1年以上かかるケースが多いです。再発例であれば数年通院することもあるでしょう。
     

    うつ病は、再発を予防できる病気ですか?

    うつ病の初回治療終結後の再発率は50-60%、再発患者さんの場合は再発率がさらに高く80%とも言われています。そして、現在うつ病の再発を完全に予防できる方法というのは残念ながら存在しないといわざるをえません。
    悪化しやすい状況、再発の引き金になりうる因子というのはある程度示されているので、それを避けることが大切です。
     

    うつ病に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    うつ病といってもさまざまなタイプがあり、気持ちや状況は様々です。したがって、うつ病の方全てに当てはまるアドバイスというのはなかなか難しいものです。
    いつでも、薬を飲んで休養するのが正しいとは限りませんし、早寝早起き,3食きちんととりましょう、と一見一般的に見える言葉でも、それができずに苦しんでいるうつ病の方にとっては追い詰める言葉になりかねません。大切なことは、信頼して相談できる治療者を持ち、自分にあったアドバイスをもらうことでしょう。

    うつ病は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    うつ病は完治を目指して治療を行い、治る人も少なくない病気ですが、一度治癒して治療を終結しても半数程度の方は再発してしまう病気です。
    完治した場合後遺症といったものは残りませんが、治る過程で症状が一部残ったままになる方もたくさんおられます。