へんずつう
片頭痛(偏頭痛)
若い人から中年の人に多い頭痛の一種で「偏頭痛」と同じ。頭の中の血管が広がることで痛みが起こる
26人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2023.08.24

片頭痛(偏頭痛)の治療とは

片頭痛の治療には頭痛が起きた後の痛みに対処する治療と、頭痛の発作が起こらないように対処する予防治療があります。痛みに対する治療は痛み止めのほか、トリプタン製剤、エルゴタミン製剤などの薬が使われます。予防治療では抗てんかん薬、抗うつ薬などが使われます。その他にも発作が起こらないように自分で発作の誘因を避けることも重要です。ここでは片頭痛の治療について、大人の片頭痛治療のほかにも、妊娠中や授乳中の治療方法や子どもの治療薬についても説明します。

1. 片頭痛で困ったら何科の病院を受診すれば良いか

頭痛で毎日困っている場合には、脳神経外科や神経内科を受診して調べてもらってください。はじめて強い片頭痛発作が起きた場合には、強い吐き気や嘔吐があり、どうしていいか悩んでしまうかもしれません。

強い頭痛の場合には、脳神経外科や神経内科のある医療機関、夜間や休日の場合には救急外来を受診して診察してもらってください。特に次のような特徴がある頭痛の場合には、片頭痛ではなく、くも膜下出血脳出血髄膜炎などの命に関わる病気の可能性も考えられます。

【危険な頭痛の特徴】

  • ある瞬間に突然はじまった
  • 今まで経験したことがないほど痛みが激しい
  • いつもと症状の様子が異なる
  • 頭痛の回数がだんだん増えている
  • 痛みがだんだん強くなっている
  • 50歳以降で初めて起きた
  • 手足が動きにくい
  • しゃべりにくい
  • 意識がもうろうとしている
  • 変なことを言う
  • がん免疫不全(薬や病気が原因で免疫力が低下していること)の状態である
  • 発熱とともに、首が硬くて頭を前に倒しても顎が胸につかない症状がある

突然はじまった頭痛では、くも膜下出血、脳動脈解離、脳出血などが考えられます。今まで経験したことのないほど強い頭痛はくも膜下出血を考える症状です。

頭痛がはじまって短時間のうちに痛みが強くなったり、頭痛の回数が増えている場合にはくも膜下出血脳出血の可能性があります。毎日徐々に痛みが強くなっている場合や、回数が増えている場合には脳腫瘍なども考えられます。手足が動かしにくい、しゃべりにくい、意識がもうろうとしている、変なことを言うなどの症状は脳の中に何かが起きている可能性があります。発熱とともに首が硬い症状がある場合は髄膜炎の可能性もあります。

これらの特徴に当てはまる頭痛はいずれも片頭痛などではなく、別の危険な病気である可能性があるので、夜間や休日であっても医療機関に受診してください。

頭痛外来とは

頭痛外来とは頭痛を専門に診察を行う外来です。片頭痛に限らず、いろいろな頭痛に関してよく調べてもらうことができます。

日本頭痛学会が認定している「頭痛専門医」という資格もあります。頭痛診療に関する専門的な研修を経て、一定の能力を持っていることが学会によって保証されています。主に脳神経外科や神経内科の医師がこの資格を取得して、頭痛専門医を標榜(ひょうぼう)していることが多いです。

日本頭痛学会のウェブサイトでは、約800名の頭痛専門医の名前が公開されています。専門医でなくても診察を受けることは可能ですが、通いやすい場所に専門医がいる場合は、受診する医療機関の選択肢の一つにしても良いかもしれません。

参考サイト:日本頭痛学会の認定頭痛専門医一覧

2. 頭痛発作に対処する治療方法とは

片頭痛の治療では頭痛発作が起きた後に頭痛発作に対処する治療と頭痛発作が起こらないようにする予防治療があります。ここでは、頭痛発作が起きた後に行う治療について説明します。

頭痛発作に対処する治療では、市販薬で対処する方法と病院を受診して処方してもらう薬で対処する方法があります。

  • 市販薬での治療
    • アセトアミノフェン
    • NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)
  • 処方薬での治療
    • アセトアミノフェン
    • NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)
    • トリプタン製剤
    • エルゴタミン製剤
    • その他:吐き気どめ、抗ウイルス薬など

「痛み止め」と呼ばれる薬には、アセトアミノフェンやNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)があります。これは、処方薬のみではなく市販薬の成分としても使われています。頭痛が慢性的にある場合には医療機関を受診しての治療が望ましいですが、頭痛の程度が軽い場合には市販薬で対処できることもあります。

通常の痛み止めでは痛みが抑えられない場合には、トリプタン製剤やエルゴタミン製剤が用いられます。その他に片頭痛の発作時に起こる症状を抑える目的で、吐き気どめや抗ウイルス薬なども用いられます。詳細は「病院で処方される治療薬には何がある?」に書いてありますので参考にしてください。

次に、片頭痛の痛み止めとして使われる市販薬ついて詳しく説明します。

市販薬の「痛み止め」には何がある?:ロキソニン®、イブ®、バファリンなど

NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)やアセトアミノフェンなどの一般的に「痛み止め(解熱鎮痛薬)」と呼ばれる薬の多くは、医療用医薬品(処方薬)だけでなく一般用医薬品(市販薬)の成分としても使われています。

頭痛、特に慢性頭痛の治療では医療機関の受診による治療が推奨されていますが、症状が比較的軽かったり、一時的であったりする人にはNSAIDsなどの痛み止めが有用であることもあり、市販薬がセルフメディケーション(自分自身で健康の維持・増進、病気の予防・治療にあたること)の一翼を担っています。

ここでは市販薬の痛み止めについていくつか例を挙げてみていきます。(なお、本記事に登場する薬剤に関して、株式会社メドレーは特定の製薬企業やその関係団体との利害関係はありません)

■ロキソニン®S

処方薬としても広く使われている、NSAIDsのロキソプロフェンナトリウムを主成分とした製剤です。

NSAIDsのなかでも比較的高い消炎鎮痛効果が期待でき、頭痛以外にも生理痛、関節痛、発熱時の解熱など多くの用途で使われています。市販薬としては「ロキソニン®S」の名称で関連製剤が発売されています。

ロキソニン®S」はロキソプロフェン単独成分の製剤ですが、これに胃を守る成分(胃粘膜保護成分)として酸化マグネシウムがプラスされた「ロキソニン®Sプラス」という製剤もあります。

また「ロキソニン®Sプレミアム」はロキソプロフェンナトリウムおよびメタケイ酸アルミン酸マグネシウム(胃粘膜保護成分)に加えて、鎮痛補助成分であるアリルイソプロピルアセチル尿素と無水カフェインを含むことで鎮痛効果の増強などが期待できる製剤です。

なお、ロキソプロフェンナトリウムは「ロキソニン®Sシリーズ」以外にも市販の鎮痛薬の成分として使われていて、「バファリンEX」「エキセドリンLOX」など比較的多くの製剤が販売されています。

内服薬(飲み薬)としての市販のロキソプロフェンナトリウム製剤はいずれも第一類医薬品に分類される医薬品で、薬局やドラッグストアなどの店頭で購入する場合は薬剤師からの情報提供などが必要な薬になっています。

■イブ®

「イブ®」はNSAIDsのひとつであるイブプロフェン(処方薬としての主な商品名:ブルフェン®)を主な鎮痛成分とする製剤です。

イブ®」はイブプロフェン単独成分の製剤ですが、「イブ®A錠」や「イブ®A錠EX」はイブプロフェンの他に鎮痛補助成分であるアリルイソプロピルアセチル尿素と無水カフェインを含み、鎮痛効果の増強などが期待できる製剤になっています。

イブクイック®頭痛薬」や「イブクイック®頭痛薬DX」はその名前からわかるように、頭痛の速やかな緩和を主な目的として造られた製剤で、イブ®Aシリーズの成分にさらに酸化マグネシウムを配合し、鎮痛成分の吸収を速めるとともに胃粘膜保護作用をあらわすように工夫された製剤になっています。

イブメルト®」はイブプロフェン単独成分の製品ですが、口の中で簡単に溶けるようにつくられた錠剤(口腔内崩壊錠)でレモンライムの味がついています。のなんらかの理由で飲み込み(嚥下)に対して懸念がある場合などに対するメリットなどが考えられます。

■ノーシン

「頭痛にノーシン」などのフレーズもあるように、市販薬のなかでも頭痛によく使われている痛み止めのひとつです。ノーシンシリーズの多くの製剤に使われているのはアセトアミノフェンという鎮痛成分です。

アセトアミノフェンはNSAIDsとは少し異なるしくみで痛みや熱などを和らげる薬であり、比較的安全性の高い解熱鎮痛成分とされています。

ノーシン」や「ノーシン錠」などの製剤には、アセトアミノフェンに加えてカフェイン水和物とエテンザミドという鎮痛効果の増強が期待できる成分が配合されています。

ノーシンをあらわす形容詞として「ACE処方」という言葉が使われていますが、この場合の「ACE」とは「A:アセトアミノフェン、C:カフェイン、E:エテンザミド」の頭文字を合わせたものです。

ちなみに高血圧治療や片頭痛予防などで使われる薬剤(処方薬)としてACE阻害薬と呼ばれるものがありますが、こちらの「ACE」は「アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme)」を略した言葉を由来とし、ノーシンなどに使われている「鎮痛薬のACE処方」とは関係ありません。

なお、ノーシンシリーズには先ほどの「イブ®」で登場したイブプロフェンを主成分とする製剤もあります。「ノーシンエフ200」は1カプセル中にイブプロフェンを200mg含む製剤であり、「ノーシンアイ頭痛薬」はイブプロフェンとアセトアミノフェンの配合剤になっています。

■バファリン

現在(2018年6月時点)、10種類以上の市販薬が発売されているバファリンシリーズですが、製剤によって含まれる鎮痛成分もさまざまです。

バファリンA」はシリーズのなかでも基本というべき製剤のひとつで、NSAIDsのアスピリン(アセチルサリチル酸)が主成分です。〔ちなみに処方薬のバファリン(バファリン配合錠A330など)もアスピリンを主成分としていますが、特に低用量の規格(バファリン配合錠A81)は主に鎮痛薬としてではなく抗血小板薬(血液をサラサラし血栓症などを予防する薬)として使われています〕

同じバファリンの名称をもつ製剤でも、主に子ども用として使われる「小児用バファリンCII」などは、アセトアミノフェンが鎮痛成分として配合されています。これはアスピリンが副作用などの観点から原則として15歳未満には使わない薬とされていることなどが理由です(ただし、川崎病などの治療で医療機関の受診を経てアスピリンが子どもに使われるケースはあります。大人用バファリンと子ども用バファリンの違いはMEDLEYコラム「大人用と子ども用の解熱鎮痛薬は成分が違う??」でも紹介しています)。

その他、バファリンシリーズの製剤例について配合成分と合わせてみていきます。

バファリンEX」は、NSAIDsのロキソプロフェンナトリウムと乾燥水酸化アルミニウムゲル(胃粘膜保護成分)を配合した製剤です。「バファリンルナi」は、イブプロフェンとアセトアミノフェンの2種類の鎮痛成分に加え、無水カフェイン(鎮痛補助成分)と乾燥水酸化アルミニウムゲル(胃粘膜保護成分)が配合されていて鎮痛効果の増強などが期待できます。これら4種類(イブプロフェン、アセトアミノフェン、無水カフェイン、乾燥水酸化アルミニウムゲル)にアリルイソプロピルアセチル尿素(鎮痛補助成分)を加え計5種類の成分を配合した製剤が「バファリンプレミアム」になります。

ここで挙げた以外の市販の鎮痛薬としてはセデス®、ナロンエース、リングル®アイビーなどがあり、これらの多くはイブプロフェンなどのNSAIDsかアセトアミノフェンを含む製剤です。

鎮痛成分および鎮痛補助成分が複数配合されている場合は鎮痛効果の増強などが期待できますが、その分注意することも追加されます。特にカフェイン(無水カフェインなど)が含まれている製剤は、カフェインがもつ依存性などにより制限を超えて過度に使ってしまう懸念が少なからずあり、薬物乱用頭痛などの温床になる可能性もあります。

市販の鎮痛薬は一時的であったり軽度な症状には有用ですが、薬の「説明文書(添付文書)」に書いてある規定回数使っても症状が治まらなかったり、慢性的に症状が続いたりする場合には医療機関を受診して相談してください。

片頭痛を引き起こすしくみは完全に解明されているわけではありませんが、睡眠不足やストレス、気温や気圧の変化、ワインやチョコレートなどの食品などが引き金となることも考えられています。セルフメディケーションとは一般的に「自分自身で健康の維持・増進、病気の予防・治療にあたること」を意味します。片頭痛に対して適切な薬を選択するだけでなく、医療機関の受診や生活習慣の改善なども含めて考え対処していくことも大切です。

病院で処方される治療薬には何がある?:トリプタン製剤、エルゴタミン製剤など

病院で処方される片頭痛発作に対処するための治療薬には次のようなものがあります。

  • アセトアミノフェン
  • NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)
  • トリプタン製剤
  • エルゴタミン製剤
  • その他:吐き気どめ、抗ウイルス薬など

病院では市販薬にも含まれるアセトアミノフェンやNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)も使われます。しかし、このような痛み止めでは痛みが抑えられない場合にはトリプタン製剤やエルゴタミン製剤が用いられます。その他に片頭痛の発作時に起こる症状を抑える目的で、吐き気どめや抗ウイルス薬なども用いられます。それぞれの薬について説明します。

◎アセトアミノフェン

アセトアミノフェンは一般的に「中枢性解熱鎮痛薬」とも呼ばれる薬で、痛みや発熱などを引き起こすプロスタグランジン(PG)という体内物質の働きを抑えることで、主に解熱鎮痛作用をあらわします。

同じくPGの働きを抑えて解熱・鎮痛・抗炎症作用などをあらわす薬として、ロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)やアスピリン(主な商品名:バファリン)などのNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる薬がありますが、アセトアミノフェンはこのNSAIDsとはやや異なる作用のしくみをもつ薬剤と考えられています。

アセトアミノフェンは解熱・鎮痛作用をあらわす一方、NSAIDsでは期待できる抗炎症効果がほとんど期待できないとされています。アセトアミノフェンは一般的に安全性が高く、胃腸障害や腎障害などのNSAIDsで注意すべき副作用への懸念はかなり少なく、小児から高齢者まで幅広い年齢で使えるのもメリットのひとつです(ただし、稀に起こる可能性がある肝機能障害などに注意は必要です)。

また妊婦への負担も少ないとされ「医師の診断のもとで使用に対して有益性が危険性を上回る場合」などの条件はつきますが、妊婦でも使える薬です。

医療用医薬品(処方薬)としての主なアセトアミノフェン製剤には錠剤や散剤(主な商品名:カロナール®、コカール®)の他、坐剤(主な商品名:アンヒバ®、アルピニー®、カロナール®)や注射剤(商品名:アセリオ®)といったように剤形も複数あり、用途などに合わせた選択も可能です。アセトアミノフェンは一般用医薬品(市販薬)の成分としても多くの製剤(例:小児用バファリンCⅡタイレノール®Aなど)に使われています。

◎NSAIDs(エヌセイズ:ステロイド性抗炎症薬)

NSAIDs(エヌセイズ)とは一般的に、ステロイド(副腎皮質ホルモンではなく、体内で痛みや発熱などを引き起こすプロスタグランジン(PG)という物質の働きを抑えることで鎮痛・解熱・抗炎症作用などをあらわす薬の総称です。

主なNSAIDsにはロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)、アスピリン(アセチルサリチル酸)(主な商品名:バファリン配合錠A330)、イブプロフェン(主な商品名:ブルフェン®)、ジクロフェナクナトリウム(主な商品名:ボルタレン®、ナボール®)、ナプロキセン(商品名:ナイキサン®)などがあり、一般的に「痛み止め」と呼ばれる薬の多くがこのNSAIDsに含まれます。

NSAIDsは痛みや発熱、炎症などを伴う多くの病態で使われる薬で、一般的に軽度から中等度の片頭痛発作に対して有用とされています。NSAIDsは、アセトアミノフェンではほとんど期待できない抗炎症作用をあらわすなど、有用性が高い薬である一方で胃腸障害、腎障害、呼吸器症状(咳や喘息発作誘発など)といった副作用に注意が必要です。NSAIDsの副作用に関しては「副作用は胃痛、胸やけだけじゃない!? ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン® など)について」でも解説しています。

仮に片頭痛(頭痛)に対して保険承認の有無を考慮しなければ、近年では一般的なNSAIDsに比べ胃腸障害などへの懸念が少ないセレコキシブ(商品名:セレコックス®)などの薬剤も登場し、病態などに合わせた選択も広がっています。

NSAIDsの製剤には、薬剤によっては錠剤や散剤などの内服薬以外に坐剤などの剤形が選択できる場合があります。例えば、インドメタシンの坐剤(主な商品名:インテバン®坐剤)などがあり、片頭痛発作時に吐き気などを伴い内服が困難な場合などは特に有用です。

またNSAIDsはアセトアミフェン同様、一般用医薬品(市販薬)としても多くの製剤に使われていて、近年ではロキソプロフェンナトリウムの市販薬(例:ロキソニン®Sシリーズなど)も発売されています。

◎トリプタン製剤

主に片頭痛発作時に使う薬で、一般的に中等度から重度の頭痛、もしくは軽度の頭痛であってもNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)など他の鎮痛薬で効果が不十分である場合などに使われます。

■トリプタン製剤の作用のしくみ

片頭痛発作が起こるしくみはまだ詳細にはわかっていませんが、急激な脳血管の拡張と、脳の神経(主に三叉神経といって顔面周囲の感覚をつかさどる神経)からの「痛みを引き起こす炎症物質」の分泌などが要因ではないかと考えられています。トリプタン製剤は、神経伝達物質であるセロトニンの受容体に作用することで発作時に過度に拡張した脳の血管を収縮させる作用があります。また、神経(三叉神経終末)から出る「痛みを引き起こす炎症物質」による伝達を抑える作用もあるとされています。このようにトリプタン製剤は片頭痛発作が起こる2種類のしくみに対応した作用をあらわすため、片頭痛発作の治療に特化した薬剤ともいえます。

■トリプタン製剤の特徴

日本では現在(2018年6月時点)、スマトリプタン(主な商品名:イミグラン®)、ゾルミトリプタン(主な商品名:ゾーミッグ®)、エレトリプタン(商品名:レルパックス®)、リザトリプタン(主な商品名:マクサルト)、ナラトリプタン(商品名:アマージ®)といった薬が使われています。

これらのトリプタン製剤にはより使いやすく工夫を施した剤形(剤型)や薬剤ごとの特徴があります。

例えば、口腔内崩壊錠といって、水なし(もしくは少量の水分)でも服用できる剤形(剤型)(製剤例:ゾーミッグ®RM錠2.5mg、マクサルト®RPD錠10mgなど)があります。外出時などに携帯することで飲料がない状況でも片頭痛の発作が起きたら速やかに服用することができます。また内服薬のスマトリプタン製剤のなかには液剤(スマトリプタン内用液50mg「タカタ」)もあり、同様に頭痛発作時にタイムリーで服用できるなどのメリットが考えられます。

スマトリプタン製剤のイミグラン®の剤形には内服薬(飲み薬)だけでなく、点鼻薬や注射薬(皮下注射剤)もあり、嘔吐や吐き気のせいで薬を飲み込めない人や重度な症状に対しても有用です。注射剤は病院などの医療機関で用いられる剤形(イミグラン®注3)に加え、自分で注射を行う自己注射タイプ(イミグラン®キット皮下注3mg)もあります。これら注射タイプのスマトリプタン製剤は日本では片頭痛のほか、群発頭痛の治療薬としても承認されています。

ナラトリプタン製剤のアマージ®は、月経時の片頭痛などのように頭痛の持続時間が長く再発しやすい片頭痛に対して有用とされています。半減期(薬の血中濃度が半分になるまでの時間)が現在(2018年6月時点)日本で使われているトリプタン製剤のなかでは最も長く、他のトリプタン製剤と比べて長時間にわたり頭痛の改善効果が期待できる薬剤です。

トリプタン製剤は主に片頭痛発作の治療に使われますが、スマトリプタンやゾルミトリプタンなどには群発頭痛や小児頭痛などに対する有用性も考えられています。

この他にも個々の薬剤によって少しずつ特徴が異なり、片頭痛の種類や痛みの強さなど一人ひとりの病態に合わせて適切なトリプタン製剤が選択されます。

■トリプタン製剤を使うタイミング

トリプタン製剤は片頭痛発作が起きてからできるだけすぐ使用することが効果的と考えられています。片頭痛が起きてしばらくした後の我慢できなくなってからの使用では薬剤の効果が十分に発揮されないことが考えられるため、使用するタイミングが肝心です。

■トリプタン製剤の副作用や注意事項

適切に使用すればトリプタン製剤の安全性は比較的高いとされていますが、吐き気などの消化器症状、眠気やめまいなどの精神神経系症状、不整脈などの循環器症状などには注意が必要です。またトリプタン製剤に限ったわけではありませんが、決められた回数以上に薬を使うことで、かえって薬物乱用頭痛を誘発する可能性なども考えられます。薬の使い方に関してはお医者さんの指示に従い、もしも決められた使用回数を超えるような頭痛が起こる場合は再受診を検討するなど適切に対処することが大切です。

■トリプタン製剤は高い?

トリプタン製剤は薬価(薬の価格)が比較的高価で、イミグラン®錠やゾーミッグ®錠など内服薬でも1錠の薬価は700円前後です(2018年6月現在)。スマトリプタンやゾルミトリプタンなど、薬剤によってはジェネリック医薬品(後発医薬品)といって先発医薬品(新薬として先行して発売されている薬)に比べ薬価が抑えられた製剤が発売されているものもあり、薬剤負担を軽減するための選択肢になっています。(ジェネリック医薬品に関しては「自己負担が減るだけじゃない、ジェネリック医薬品の医療費への貢献とは?」などでも解説しています)

◎エルゴタミン製剤

片頭痛発作で過剰に広がった脳の血管を収縮させて痛みを抑える薬です。片頭痛発作の治療で使う場合には、一般的に、発作が起きてすぐ使用する、もしくは「前兆のある片頭痛」の場合は前兆があった段階で使用します。

エルゴタミン製剤はトリプタン製剤の登場以前は頭痛治療薬として比較的よく使われていましたが、吐き気などの副作用などへの懸念もありトリプタン製剤が登場してからは頭痛治療で使われるケースは限定的となっています。頭痛治療用のエルゴタミン製剤自体も少なくなってきていて、日本では現在(2018年6月時点)では、エルゴタミンにイソプロピルアンチピリン(鎮痛成分)とカフェイン(鎮痛補助成分)を合わせた配合製剤(商品名:クリアミン®)が主になっています。

エルゴタミン製剤は、トリプタン製剤を使っても片頭痛がしばらく経った後で再発するような病態などへの有用性も考えられるとされますが、仮にトリプタン製剤を使った後でエルゴタミン製剤を使用(又はその逆で、エルゴタミン製剤を使用した後でトリプタン製剤を使用)する場合は、原則として間隔を24時間以上空ける必要があります。薬剤の相互作用で血管収縮作用の増強や血圧上昇などが起こる可能性があるためです。またエルゴタミン製剤には血管収縮作用のほか、子宮収縮作用や母乳中への移行性などがあり、基本的に妊婦や授乳婦は使えません。ただし治療上必要などの理由で授乳中に使う場合は、通常授乳を中止するなどの適切な対処が必要になります。

◎その他、片頭痛発作治療に使われる薬(吐き気止め、抗ウイルス薬など)

片頭痛発作時には吐き気や嘔吐などの消化器症状を伴う場合があり、これらは頭痛と同様にQOL(生活の質)を悪化させる要因になるだけでなく、「薬(内服薬)の服用」という面でのデメリットも考えられます。吐き気などによって飲み薬を飲めなかったり、飲めたとしてもその後に吐き出してしまい薬の効果が十分に発揮されないなどのおそれがあるというデメリットです。吐き気などを伴う片頭痛発作には「痛みを抑える薬」と一緒に「吐き気止め」が使われる場合もあり、一般的にはメトクロプラミド(主な商品名:プリンペラン®)やプロクロルペラジン(商品名:ノバミン®)などの「吐き気止め」の使用が考慮されます。またメトクロプラミド同様、吐き気止めとして広く使われているドンペリドン(主な商品名:ナウゼリン®)には、内服薬(飲み薬)のほか坐剤の剤形もあり、内服が困難な状況などの選択肢としても有用です。

片頭痛発作時にはヘルペスウイルスの活動を抑える抗ウイルス薬が使われる場合もあります。頭痛とヘルペスというと、一見あまり関係ないようにも思えますが、片頭痛などの発作に合わせて目の周囲や頭皮、腕などに違和感を生じるような症状をアロディニア(異痛症)と呼ぶことがありますが、このアロディニアの要因のひとつに、ヘルペスウイルスの一種である帯状疱疹ウイルスが関わっていると考えられているからです。このため比較的重度の頭痛でアロディニアを伴うような病態では、トリプタン製剤などと一緒にヘルペスウイルスの治療薬であるバラシクロビル(主な商品名:バルトレックス®)などが使われる場合も考えられます。

その他、金属のマグネシウム(Mg)を含む製剤やトラマドール(主な商品名:トラマール®、トラムセット®配合錠)などが選択肢となることも考えられ、通常、その効果や副作用などを十分考慮したうえで使用が検討されます。マグネシウム製剤は急性期治療においては注射剤の使用が考慮されることも考えられますが、内服薬(酸化マグネシウムなど)は片頭痛予防の薬としても選択肢の一つになることが考えられます。

◎新薬

2021年に発売されたエムガルティ®(ガルカネズマブ)や、アイモビーグ®(エレヌマブ)、アジョビ®(フレヌズマブ)は高価ではありますが、月1回程度の定期注射で発作の予防と痛みの軽減が期待でます。

自分でできる治し方には何がある?:安静、睡眠など

片頭痛発作が起きた場合には、発作がはじまってすぐに薬を飲むようにしてください。早く対処することで痛みを軽くできたり、発作を短時間にすることができます。その他に自分でできる対処方法を紹介します。

◎安静にする

歩いたり階段を登るなどの日常動作で片頭痛の痛みが悪化することが知られています。片頭痛発作が起きた場合には薬を飲んでから安静にしてください。横になれない場合には、しばらく座っているだけでも効果があります。

◎光や音を避ける

片頭痛発作が起きたときにはいつもより光が眩しく感じたり、音がうるさく感じたり、臭いにおいを感じたりすることがあります。光過敏ではカーテンの隙間や雲の切れ間から差し込むような光が特に頭痛の悪化を起こしやすいと言われています。音に関しては時計の秒針の音さえも気にしてしまう場合もあります。

発作が起きた場合にはまず薬を内服して、できるだけ光、音、強いにおいがない場所で安静にしてください。

◎適度な睡眠をとる

適度な睡眠をとることでも症状が緩和します。眠れる状況であれば睡眠をとってみてください。

◎頭を冷やす

頭を冷やすことで片頭痛の痛みを軽くすることができる場合もあります。発作時には市販の冷却シートなどを用いて、頭を冷やしてみてください。

3. 発作を予防する治療方法とは

片頭痛の治療では頭痛の痛みを和らげる治療と頭痛発作が起こらないようにする予防治療があります。頭痛の回数が多い場合には、頭痛が起こる前にあらかじめ内服をしておいて片頭痛発作を抑える予防治療が行われます。ここでは発作を予防した方がいい場合や、予防に用いられる薬について説明します。

予防治療が進められるのはどんな種類の片頭痛?

『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』では次のような人には予防治療を検討するよう勧められています。

  • 片頭痛の発作が月2回以上ある、あるいは一回の頭痛が6日以上続く人
  • 発作が起きてからの治療(急性期治療)だけでは日常生活に支障がある人
  • 発作が起きてからの治療薬が使用できない人
  • 一生残るような神経障害がある特殊な片頭痛が起きている人

片頭痛発作が月2回以上起きている人全員に予防療法が必要というわけではなく、個々の状況に応じて検討されます。痛みが起きてから対処する治療のみでは生活の質が保てない場合や、片頭痛の回数が増えて慢性化する場合、脳血管障害のリスクが高まっている場合には予防療法を検討します。

片頭痛の予防療法の目標は次ようなことです。

  • 発作の回数を少なくし、症状を軽くする
  • 頭痛の持続時間を短縮する
  • 発作が起きてからの治療(急性期治療)が効きやすくなる
  • 生活への支障を軽くする

まずは発作の回数を減らしや頭痛を軽くし、頭痛が持続する時間を短かくます。予防治療を行うことで痛みに対する急性期治療も効果が出やすくなります。片頭痛発作が起こると学校や会社へ行くことができず日常生活に支障を来す人が多いため、その軽減も目的として行われます。予防療法によって上記の目標が達された場合には、予防療法を中止する場合もあります。

病院で処方される予防薬には何がある?

片頭痛の病状から予防治療が必要と判断された場合には次のような薬が処方されます。

  • 抗てんかん薬
  • 抗うつ薬
  • 高血圧などの治療薬

抗てんかん薬は脳の興奮を抑えて片頭痛発作を抑えます。抗うつ薬はうつの他にも痛みの治療にも使われます。高血圧の薬も片頭痛の予防薬として使われることがあります。片頭痛の予防療法を行う場合、通常、ある程度の期間は薬を継続して効果の度合いなどをみていきます。副作用などの問題がない場合、一般的に少なくとも2か月程度は継続して効果判定を行います。使う薬またはサプリメントなどによっても副作用や注意事項などが異なってくるため、事前にお医者さんや薬剤師さんからしっかりと説明を聞いておくことが大切です。

それぞれの薬剤について説明します。

◎抗てんかん薬

脳の興奮を抑えることで片頭痛発作の予防効果が期待できる薬です。

「てんかんの薬」と聞くと頭痛とはあまり関係ないようにも思えますが、片頭痛発作を引き起こす主な要因として、脳神経の興奮などによって痛みを引き起こす物質が放出されるというしくみが考えられていることから、同じように脳の興奮が関与するてんかん(脳の神経細胞が興奮することで痙攣などの発作が反復性におこる病気)の治療薬が片頭痛の予防に効果が期待できるのは理にかなっているとも言えます。(抗てんかん薬と片頭痛に関してはMEDLEYコラム「てんかんや高血圧の治療薬が片頭痛(偏頭痛)予防にも効果あり!? 」でも解説しています)

実際にバルプロ酸ナトリウム(主な商品名:デパケン®、セレニカ®)はてんかんや躁病などの治療のほか、片頭痛発作の発症抑制に対しても承認されている薬剤です。ほかにもトピラマート(主な商品名:トピナ®)、ガバペンチン(商品名:ガバペン®)、レベチラセタム(商品名:イーケプラ®)、クロナゼパム(商品名:ランドセン®、リボトリール®)などといったてんかんなどの治療に使われる薬が片頭痛発作の予防薬としても使われています。

抗てんかん薬は脳の興奮を抑える作用をあらわすこともあり、眠気やふらつきなどの精神神経系症状があらわれることがあります。抗てんかん薬を片頭痛予防で使う場合、一般的にてんかんなどの治療で用いられる用量よりもかなり低用量で用いられることが多く、副作用への懸念は少ないと考えられますが注意は必要です。またバルプロ酸ナトリウムなどいくつかの抗てんかん薬は妊婦に対して注意が必要とされ、妊娠希望がある場合には事前に医師などによく相談しておくことも大切です。

◎抗うつ薬

先ほどの抗てんかん薬同様、抗うつ薬も一般的には「うつ」の治療を目的として開発された薬ですが、抗うつ薬に分類される薬剤のなかには片頭痛発作の予防に効果が期待できるものもあります。

アミトリプチリン(主な商品名:トリプタノール®)は抗うつ薬としては初期に開発された三環系抗うつ薬に分類される薬の一つで、現在ではうつの治療よりも「痛みを改善する治療」で使われることが多くなっています。片頭痛予防に使われるほか、神経の痛み(神経障害性疼痛)を緩和する目的でペインクリニックなどから処方されることもあります。

アミトリプチリンのほかには、フルボキサミン(主な商品名:デプロメール®、ルボックス®)、パロキセチン(主な商品名:パキシル®)などの抗うつ薬が片頭痛発作予防に対して有用とされています。

アミトリプチリンなどの抗うつ薬がどのようなしくみで片頭痛を予防するかはまだはっきりとはわかっていませんが、セロトニン(片頭痛発作に関わる物質の一つとされる)などの神経伝達物質の働きを調整する作用などが考えられています。

抗うつ薬は主に脳へ作用する薬剤であることもあり、眠気やふらつきなどの精神神経系症状には注意が必要です。また三環系抗うつ薬などの比較的初期に開発された抗うつ薬では、抗コリン作用といって神経伝達アセチルコリンの働きを抑える作用により口渇、便秘排尿障害などの症状があらわれる場合があります。三環系抗うつ薬以降に開発された抗うつ薬の多くは抗コリン作用などへの懸念が少なくなっていますが、それでも個々の薬剤の副作用には注意が必要です。例として、フルボキサミンやパロキセチンなどによる吐き気などの消化器症状などがあります。これは抗うつ薬に限ったわけではありませんが、副作用を含め薬剤に関しての注意事項をお医者さんや薬剤師さんからしっかり聞いておくことが大切です。

◎高血圧などの治療薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなど)

片頭痛が引き起こされる要因としては脳の興奮のほか、脳の血管の収縮・拡張なども考えられていて、これらに関連して一般的には高血圧や心疾患の治療薬として使われている薬が片頭痛などの予防薬として使われることもあります。

■β遮断薬(プロプラノロールなど)

β遮断薬とは、交感神経のβ受容体を遮断して血圧を下げたり心臓の負担を軽くする効果などが期待できる薬です。一般的には高血圧症狭心症などの心疾患の治療薬として使われていますが、一部のβ遮断薬は頭痛の予防薬としても使われています。

プロプラノロール(主な商品名:インデラル®)は片頭痛の予防薬として使われている主なβ遮断薬の一つで、2013年には「片頭痛発作の発症抑制」に対する治療薬としても保険承認されています。ほかにはメトプロロールなどのβ遮断薬が片頭痛予防の選択肢になる場合もあります。

β遮断薬では、めまいなどの精神神経系症状に注意が必要です。また糖や脂質代謝などに影響を及ぼす場合もあり、糖尿病や耐糖能異常などがある場合にはより注意が必要となります。

その他、交感神経を抑えることにより気管支を収縮させる懸念があるため気管支喘息などの持病をもっている場合には特に注意が必要です。

■カルシウム拮抗薬

骨を構成する成分のカルシウム(カルシウムイオン)は、筋肉の収縮などに関わる成分でもあります。カルシウム拮抗薬は血管の筋肉(血管平滑筋)へのカルシウムイオンの流入を抑えることで血管拡張作用などをあらわす薬です。この作用により末梢血管や冠動脈の血管を広げる効果などが期待できるため、一般的に高血圧症や心疾患などの治療薬として使われています。

片頭痛を引き起こす要因の一つとして、一旦収縮した脳血管がその後急激に拡張することによって痛みを引き起こすしくみが考えられていますが、カルシウム拮抗薬には、あらかじめ血管を拡張しておくことで、頭痛の要因となる脳血管の収縮・拡張のギャップを少なくし、頭痛発作を予防したり発作の程度を軽減する効果などが期待できます。

ロメリジン(商品名:ミグシス®)は子どもから大人まで幅広い年齢で使われている片頭痛予防薬で、適切に服用すれば安全性も比較的高いとされています。

末梢血管への作用は比較的少ないとされていますが、末梢血管を拡張する作用が全くないというわけではなく、血圧低下によるめまいやふらつき、動悸などが起こる懸念もあるため注意は必要です。ロメリジンのほかには、ペラパミル(主な商品名:ワソラン®)などのカルシウム拮抗薬が片頭痛予防の選択肢となる場合があります。

■ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)

ACE阻害薬、ARBともに体内で血圧上昇などに関わるアンジオテンシン(AT)という物質の働きを抑えることで降圧作用(血圧低下作用)などをあらわし、一般的には高血圧(高血圧症)などの治療薬として使われている薬です。

高血圧の治療のためにACE阻害薬などを服用していた人が、片頭痛の頻度や程度が軽くなったというケースがあり、特に片頭痛と高血圧症合併するような病態で有用とされています。ACE阻害薬のリシノプリル(主な商品名:ゼストリル®、ロンゲス®)やエナラプリル(主な商品名:レニベース®)、ARBのカンデサルタン(主な商品名:ブロプレス®)などの薬剤で片頭痛発作予防への有用性が考えられています。

ACE阻害薬、ARBともに一般的に降圧薬(高血圧治療薬)のなかでも比較的安全性が高いとされている薬ですが、めまいやふらつきなどの精神神経系症状などには注意が必要です。また胎児への影響などから原則として妊婦への使用が禁忌(禁止)となっています。

ACE阻害薬では一般的にARBよりも副作用として咳(空咳)の症状が生じやすいとされています。これはACE阻害薬のアンジオテンシン変換酵素を阻害するという作用によって、咳を引き起こすブラジキニンという体内物質が増加する傾向にあることが主な要因と考えられています。

ちなみに一般用医薬品(市販薬)の解熱鎮痛薬を構成する成分の組み合わせで「ACE処方(製剤例:ノーシンなど)」と呼ばれるものがありますが、これは「A:アセトアミノフェン、C:カフェイン、E:エテンザミド」の頭文字を合わせたもので、アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme)を阻害するACE阻害薬とは関係ありません。

■その他、片頭痛発作の予防で使われる成分(抗アレルギー薬、マグネシウム、ビタミンB2など)

一般的にはアレルギー疾患などの治療薬となるシプロヘプタジン(主な商品名:ペリアクチン®)が頭痛治療に使われることもあります。シプロヘプタジンは体内でアレルギーなどを引き起こすヒスタミンという物質の働きを抑える抗ヒスタミン薬という種類に分類される成分ですが、頭痛発作に関わるセロトニンという物質の働きを調整する作用も期待できるとされ、片頭痛予防薬として使われるケースもあります。花粉症などの治療に使われている抗ヒスタミン薬は眠気や口渇、便秘などの副作用に少なからず注意が必要な薬ですが、シプロヘプタジンも同様でこれらの副作用には注意が必要です。

このほか、片頭痛予防に対してはマグネシウムやビタミンB2といった成分も有用と考えられています。また一部のサプリメント(健康食品)などにも有用性があると考えられています。

ミネラル成分の一つでもあるマグネシウムは緩下剤(緩やかにお腹の下りを促す薬)や制酸剤(胃酸を中和する薬)の成分として広く使われていますが、神経の働きを安定化させる作用などがあると考えられていることから頭痛発作時に注射剤として使われるなど、頭痛の改善効果も期待できるとされています。薬価(薬の価格)が安価で一般的な安全性も高いとされていることもあり治療の選択肢となることが考えられますが、緩下剤としても使われる薬であるため、下痢などの消化器症状には注意が必要です。

ビタミンB2(リボフラビン)は皮膚や粘膜の機能維持を助ける効果が期待できる成分で、主に口内炎皮膚炎の改善、眼の充血改善などの目的で使われていますが、細胞内のミトコンドリアへの作用などによって片頭痛発作の予防効果が期待できると考えられています。

フィーバーフュー(別名:ナツシロギク)は古くから片頭痛や関節炎などに使われてきた薬草(ハーブ)の一つで、片頭痛予防に対しても有用と考えられています。

片頭痛の予防療法を行う場合、通常、ある程度の期間は薬を継続し効果の度合いなどをみていきます。副作用などの問題がない場合、一般的に少なくとも2か月程度は継続し効果判定を行います。使う薬またはサプリメントなどによっても副作用や注意事項などが異なってくるため、事前にお医者さんや薬剤師さんからしっかりと説明を聞いておくことが大切です。

毎日の生活で自分でできる対策はあるか

毎日の生活で自分でできる予防方法は、片頭痛の誘因を避けることです。片頭痛の誘因がわかっている場合にはそれを避けてください。また天候など避けられない誘因の場合には発作が起きたらすぐに対処できるように頭痛薬を持ち歩くなどをしてください。

頭痛の誘因がわからない場合は「頭痛ダイアリー」をつけてみてください。どんな時に頭痛が起きたかを記録で振り返ることができます。

「頭痛ダイアリー」は日本頭痛学会のホームページから手に入れることができます。

◎片頭痛の誘因を避ける

片頭痛を引き起こす誘因としては次のようなものがあります。すべてを避けて生活することは難しいですが、なるべく誘因避けるように生活することや、体調が悪い時はゆっくり休むなどを心掛けることも重要です。

  • 精神的な要因:ストレス
  • 身体的な要因:疲れ
  • 不規則な睡眠:寝不足・過剰な睡眠
  • 天候の変化:台風・気圧の変化・温度差
  • 環境の影響:旅行・におい・強い光

精神的なストレスも身体的な疲れも片頭痛の大きな誘因になります。また、ストレスがある時だけでなくストレスから解放された時も発作が起こりやすいとされています。日常的にストレスや疲れを溜めないように、リラックスできる息抜き方法をいくつかもっていると有用です。

睡眠不足も過剰な睡眠も頭痛が起こりますので、休日でも規則正しい生活をすることが重要です。

気圧の変化でも頭痛が起こりやすいのですが、天気を変えることはできないため、台風が近い場合や梅雨時にはすぐに対処できるように頭痛薬を持ち歩くなどを心掛けてください。

温度変化でも頭痛を起こすことがあるので、室内と屋外の温度変化に注意して温度調整しやすい服装を心掛けてみてください。

また、旅行などの環境の変化も、疲れ、ストレス、不規則な生活などが原因になって頭痛を起こしやすくなります。体調を整えて旅行に行くとともに、疲れすぎないようなプランを立ててください。

強いにおいや強い光の影響でも頭痛が起こります。人混みに出かける時は頭痛薬を持ち歩いたり、体調が悪くなったらすぐ帰って休むなどして対処してください。

夏の強い日光でも頭痛が誘発されることがあるので、サングラスをかけるなどの対処をしてください。

◎頭痛の原因をチェックする頭痛ダイアリーとは何か?

頭痛ダイアリーとは、どのようにして頭痛が起きたか、どのくらい続いたか、薬は何をいつ飲んだかなどを記録する日記です。。頭痛の日数や、薬を飲んだ日数、月経(生理)との関連などは自分自身で正確に覚えておくことが難しいため、日記として日々頭痛ダイアリーに記録します。記録しておくと自分自身でも頭痛の把握ができ、病院を受診した際にも頭痛の状態について正確に伝えることができるので、治療がうまく進められると考えられています。

頭痛ダイアリーでは次のことを記録します。

  • いつ頭痛がはじまったか、いつおさまったか
  • どのような痛みか(ズキズキする・重いなど)
  • どのくらい痛いか
  • 痛みはどのくらい続いたか
  • 頭痛とともに起きた症状はあるか
  • 頭痛の誘発となったものやことはあるか
  • いつどのような薬を飲んだか
  • 生活がどのくらい支障されたか

医療機関では、これらの記録を確認して頭痛が片頭痛なのか、それとも他の頭痛の可能性があるのかなどが診断されます。また、頭痛の誘因を把握することで、頭痛を避けるための対処方法がわかります。

「頭痛ダイアリー」は日本頭痛学会のホームページから手に入れることができます。

4. 頭痛(片頭痛など)の改善が期待できる漢方薬とは?

一般的に頭痛の薬物治療では、頭痛発作に対してはトリプタン製剤やNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)などが使われ、頭痛予防に対しては抗てんかん薬やカルシウム拮抗薬などが使われていますが、漢方薬が治療の選択肢となることもあります。特に胃腸障害がありNSAIDs(主な副作用として胃腸障害などがある)が使いづらい状況や薬剤に対してのアレルギーがあるなど、なんらかの理由によって頭痛の一般的な治療薬が不向きとなる場合では漢方薬の有用性が考えられます。

頭痛の発作時には吐き気や嘔吐などの随伴症状があらわれる場合があります。また、日頃から手足が冷える、肩や首などがこりやすい、めまいや耳鳴りが起きやすい、血圧が高い、などの体質や症状がある場合、これらが頭痛に関わっていることも考えられます。漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にこの証に合わせて適切な漢方薬が選択されるため、頭痛(痛み)以外の病態の改善が期待できることもあります。

ここでは片頭痛などの頭痛に対して改善効果が期待できる漢方薬をいつくか挙げてみていきます。

呉茱萸湯(ゴシュユトウ)

体力がやや低下していたり冷えがある状態で、激しい頭痛が繰り返し起こるような証に適するとされる漢方薬です。主な構成生薬である呉茱萸(ゴシュユ)は鎮痛、鎮静、身体を温めるなどの効果が期待できる生薬です。

片頭痛、緊張性頭痛など慢性頭痛に効果が期待できるとされています。特に頭痛発作時の時に吐き気を伴ったり、首などのこり、吐き気、めまい、手足の冷えなどを伴うような頭痛に対しての効果が期待できるとされています。

桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)

体力がやや低下していて、冷えがあり、胃腸が弱く食欲不振や吐き気があったり、疲労を伴うような証に適するとされている漢方薬です。慢性頭痛に対して効果が期待でき、一般的には先ほどの呉茱萸湯(ゴシュユトウ)が適する証よりも体力がさらに低下気味な証に適するとされています。構成生薬にも健胃作用などをあらわす桂皮(ケイヒ)が含まれています。

桂皮はシナモンとして調味料としても使われている生薬で、食欲不振や慢性胃炎などの改善効果のほか、熱や痛みなどに対しても改善効果が期待できます。桂枝人参湯は桂皮、人参(ニンジン)の他、甘草(カンゾウ)、乾姜(カンキョウ)、蒼朮(ソウジュツ)により構成されています。桂枝人参湯は慢性頭痛のほか、胃腸炎や感冒時の下痢などの消化器症状に対しても有用とされる漢方薬です。

五苓散(ゴレイサン)

口の渇きや尿量の減少などを伴うような証に適するとされ、体内の「水」を調整する漢方薬で、片頭痛や血液透析に伴う頭痛などに効果が期待できるとされています。

猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)の5種類の生薬から構成され、名前(方剤名)の由来は五種類の生薬と主薬となる猪苓からとったものです。(五味猪苓散が詰まってできた名前とされています)

猪苓、沢瀉、蒼朮、茯苓といった生薬は水分代謝や水分貯留に関わる症状の改善が期待できるとされています。香辛料のシナモン(ニッキ)としても使われる桂皮は末梢血管拡張作用、鎮静作用、発汗解熱作用などにより頭痛や発熱の改善が期待できたり、水分代謝調節作用なども期待できる生薬とされています。

これらの生薬によって構成されていることもあり五苓散は、下痢を抑える止瀉作用、体に水が貯留している状態での利水作用、口渇を改善する作用などをあらわします。五苓散は頭痛以外にも多くの病気や症状に使われていて、浮腫、ネフローゼなどの腎疾患、下痢、吐き気や嘔吐、めまい、暑気あたり(夏ばて)などと多様です。ほかにも二日酔いの改善に有効であったり、慢性硬膜下血腫などへの改善効果も期待できるとされています。それほど証によらずに使えるということもメリットで、小児から高齢者まで幅広く使用される漢方薬の一つです。

釣藤散(チョウトウサン)

頭痛のなかでも緊張型頭痛などに効果が期待できるとされています。特に高血圧気味であったり、肩こり、めまいや耳鳴りなどを伴うような証に適するとされている漢方薬です。

方剤名の由来にもなっている構成生薬の釣藤鈎(チョウトウコウ)は、脳の細胞を保護する作用、睡眠を延長する作用、精神安定作用、学習記憶改善作用などをあらわすと考えられています。釣藤散は頭痛、高血圧、めまい、肩こりなどのほか、アルツハイマー型認知症脳血管性認知症などに対しての有用性も考えられています。

川芎茶調散(センキュウチャチョウサン)

一般的に頭痛全般に効果が期待でき、血管性や精神性の頭痛、感冒時の頭痛などに対しても改善効果が期待できるとされています。頭痛以外にも感冒(風邪)、血の道症などの治療薬としても使われることがあります。

方剤名のなかの「茶」が示す通り、構成生薬にお茶の葉である茶葉(チャヨウ)が含まれています。また構成生薬の川芎(センキュウ)には鎮痛・鎮静などに関わる中枢抑制作用や末梢血管拡張作用などがあるとされ、頭痛やのぼせ、婦人病などに効果が期待できる生薬です。川芎茶調散の適応に血の道症がある通り、更年期障害などに伴う頭痛などに対しても効果が期待できるとされています。片頭痛以外にも、薬物乱用頭痛の代替薬として用いることで、鎮痛薬の過度な使用からの離脱を促す目的で使うケースなども考えられます。

その他、片頭痛などの改善が期待できる漢方薬

風邪(感冒)の初期(急性期)に使われ一般用医薬品(市販薬)としても多くの製剤が発売されている葛根湯(カッコントウ)は頭痛に対しても使われる漢方薬です。特に慢性頭痛や肩こりや頭の重さなどを伴うような緊張型頭痛などの改善が期待できるとされています。

婦人科領域でよく使われている当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、冷えを伴うような緊張型頭痛や片頭痛などの改善が期待できます。同じく婦人科領域でよく使われる桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は月経不順などを伴うような緊張型頭痛などに使われることも考えられ、先ほどの当帰芍薬散がやや虚弱な証に適するのに対して、桂枝茯苓丸は体力などが中等度からやや充実しているような証に適するとされています。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)は、冷えを伴い胃腸の働きが弱い状態における緊張型頭痛や片頭痛などの改善が期待でき、半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)は、胃腸が弱く貧血などを伴う緊張型頭痛や片頭痛などの改善が期待できるとされています。

一般的に漢方薬は個々の症状や体質など(証)に適したものが選択されます。単に「頭痛がある」というだけでなく、冷え、肩こり、めまいや耳鳴りなど、頭痛とともになんらかの症状がある場合は、自身の体力や胃腸の状態なども含めて医師や薬剤師とよく相談し、適する漢方薬を有効的に使うことが大切です。

漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用が起こる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬で起こる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。しかしこれらの副作用が起こる可能性は非常に稀であり、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

また漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

ただし、何らかの気になる症状が現れた場合でも、自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

5. 妊娠中・授乳中の片頭痛の治療薬には何がある?

一般的に片頭痛は妊娠中には症状が軽くなり、出産後には再び発作が起こるようになります。これは妊娠中には片頭痛の要因となるエストロゲンの変動が少なくなり、出産後再び分泌量が変動することによると言われています。妊娠中と授乳中それぞれの対処方法について説明します。

妊娠中の片頭痛の対処方法

妊娠中の薬剤の使用に関しての基本的なことを説明します。妊娠8週までは胎児の臓器が作られる時期であり、できる限り薬物の使用は避けます。妊娠8週から12週末までは臓器は完成していますが、まだ口のあたりや性器の発達は起きている時期のため、胎児奇形を起こす可能性がある薬剤は避けます。妊娠12週から分娩までは薬を使っても胎児奇形は起こりませんが、薬剤が胎盤を通過して胎児に移行するため、胎児の発育に影響を及ぼす薬は避けます。

上記を踏まえて、妊娠中に頭痛の発作が起きた場合にはアセトアミノフェン(主な商品名:カロナール®、コカール®など)を内服します。アセトアミノフェンが効かない場合にはNSAIDsも内服することがあります。アセトアミノフェンとNSAIDsは異なるしくみで痛みを抑えます。NSAIDsは妊娠中は避けることが望ましいのですが、症状が強い場合には使用することがあります。NSAIDsのなかでも比較的安全性が高いのはイブプロフェン(商品名:ブルフェン®)です。しかし、妊娠28週以降ではNSAIDsは胎児の動脈管閉鎖を起こすので使用を控えます。

エルゴタミン製剤は子宮収縮の作用があるため、流産早産の可能性があり妊娠中には使うことができません。

トリプタン製剤は妊娠中に使用しているという報告があります。1990-2007年までの報告を解析した論文ではトリプタンによる先天奇形や流産・早産は増えないと報告されています。重症の片頭痛発作がある場合には、スマトリプタンなどの使用を考えることもあります。

妊娠中の片頭痛発作の予防としては、抗てんかん薬やカルシウム拮抗薬は使うことができません。必要時にはプロプラノロールなどのβ遮断薬を使うことがあります。

授乳中の片頭痛の対処方法

授乳中では母乳への薬剤の移行を考えて薬を選択します。発作の治療薬は妊娠中と同様にアセトアミノフェン(主な商品名:カロナール®、コカール®など)を使用します。NSAIDsは母乳中の移行があるためあまり用いられません。しかし、アセトアミノフェンで頭痛のコントロールが難しい場合にはNSAIDsであるイブプロフェン(主な商品名:ブルフェン®)などを状況に応じて使用します。

トリプタン製剤は24時間以上あけると通常、乳汁への移行がなくなるため、母乳をあげることができます。トリプタン製剤のなかでもスマトリプタンは12時間で母乳移行が減るため早く母乳を再開することが可能です。また、エレトリプタンは乳汁移行が低く、トリプタン製剤のなかでも安全とされています。

出産後は片頭痛発作が増えてくる時期でもあるため、お医者さんと相談しながら治療をすすめていきます。

6. 子どもの片頭痛の治療薬には何がある?

日本人の片頭痛の有病率は、中学生で4.8%、高校生で15.6%という報告があります。子どもの片頭痛の特徴として、両側性が多いことと、持続時間が2時間と短いことがあります。片側性の頭痛は青年期の終わりか成人期のはじめに起こりはじめます。

通常は午前中にはじまり、昼寝のあとに改善します。睡眠後の頭痛の改善、悪心嘔吐、身体を動かすことでの悪化、光・音・臭いに過敏になることなどから緊張型頭痛と区別します。

小児の頭痛発作ではアセトアミノフェン(主な商品名:カロナール®、コカール®など)やNSAIDsであるイブプロフェン(主な商品名:ブルフェン®)を使います。

片頭痛の予防ではシプロヘプタジン(主な商品名:ペリアクチン®)やアミトリプチン(主な商品名:トリプタノール®)などを内服します。

小児では適用外の薬も状況に応じては使用されることもありますが、主治医の先生とよく相談してください。

子どもの片頭痛発作時の治療薬

痛みを抑えるNSAIDsやアセトアミノフェンのほか、トリプタン製剤などを使用します。そのほかに片頭痛に伴う吐き気の治療として、ドンペリドン(主な商品名:ナウゼリン®)も使われます。

◎NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)

NSAIDsは、体内の痛みや炎症、熱などを引き起こす物質の働きを抑えることにより、解熱鎮痛作用や消炎作用をあらわす薬です。

子どもに対するNSAIDsの使用はある程度の制限があります。例えば大人の場合よく使われているNSAIDsの一つ、ロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)の飲み薬は、子どもへの安全性が確立されていない薬剤です。特に15歳未満の小児への使用は注意が必要です。

子どもへ使用可能なNSAIDsで、片頭痛発作に使われる薬としてはイブプロフェン(主な商品名:ブルフェン®)があります。イブプロフェンは一般的に有効性と安全性が高い薬とされ、適切な量を頭痛開始後できるだけ早く使用することが推奨されています。

◎アセトアミノフェン

アセトアミノフェンは、NSAIDsとは少し異なるけれども似たようなしくみで痛みや熱などを和らげる薬です。

イブプロフェンと同様、子どもの片頭痛に対して一般的に有効性と安全性が高い薬とされ、適切な量を頭痛開始後できるだけ早く使用することが推奨されています。

◎トリプタン製剤

トリプタン製剤にはいくつかの薬剤がありますが、そのなかでもスマトリプタンの点鼻薬(商品名:イミグラン®点鼻液20)が子どもの片頭痛に有用とされています。しかし使用後に苦味を感じることがあり、嫌がる子どももみられます。

飲み薬ではリザトリプタンの錠剤(商品名:マクサルト®錠10mg、マクサルト®RPD錠10mg)は小児片頭痛に対して有用性が考えられています。

他のトリプタン製剤では、ゾルミトリプタンの点鼻薬での有用性が確認されていますが、日本では未発売(2018年6月現在)です。

トリプタン製剤は一般的に片頭痛発作が起きてすぐに使用することで最も高い効果が得られます。片頭痛が起きてしばらくした後に我慢できなくなってからでは薬剤の効果が十分に発揮されないことが考えられ、使用するタイミングが肝心です。

子どもの片頭痛発作時の予防薬

子どもの場合でも片頭痛の回数が多い場合には予防治療が行われます。主にシプロヘプタジンなどが使われますが、抗てんかん薬や抗うつ薬なども使われます。次に詳しく説明します。

◎シプロヘプタジン(主な商品名:ペリアクチン®)

予防薬としては、例えばシプロヘプタジン(主な商品名:ペリアクチン®)があります。シプロヘプタジンは主に抗アレルギー薬として皮膚炎蕁麻疹じんましん)などの皮膚症状や鼻炎などの治療で使われています。

抗アレルギー薬と頭痛というとあまり関連性がないように思うかもしれませんが、シプロヘプタジンには神経伝達物質のセロトニンの働きを抑える作用があります。セロトニンは脳や神経の中で情報を伝えている物質なのですが、片頭痛に関係することがわかっています。シプロヘプタジンはセロトニンを抑える作用により、頭痛発作の頻度を減らす効果が期待できるのです。

シプロヘプタジンはセロトニンを抑える作用のほか、湿疹や鼻炎などのアレルギー症状に関わっているヒスタミンという物質の作用を抑える作用もあります。ヒスタミンを抑える薬は、脳の覚醒を妨げ眠気などの症状を引き起こすことがあります。片頭痛予防でシプロヘプタジンが使われる場合も眠気に注意が必要なので、配慮として薬を飲むタイミングが「寝る前」と指示されることがあります。

また頻度は非常に稀ですが、発熱時などにけいれんを誘発することもあります。以前にけいれんを起こしたことのある子どもにおいては特に注意が必要です。

◎抗てんかん薬

成人の片頭痛予防に脳の興奮を抑える抗てんかん薬が使われますが、子どもの片頭痛予防にも有効な薬がいくつかあります。なかでもトピラマート(主な商品名:トピナ®)は頭痛の1ヵ月あたりの頻度を少なくする効果が確認され、頭痛による学校の欠席が減ったという事例も確認されています。現在(2018年6月時点)、トピラマートを片頭痛予防目的で使用するのは通常、保険適用外になりますが、海外では12~17歳の青少年用の片頭痛予防薬として承認を受けている薬です。他の抗てんかん薬ではバルプロ酸ナトリウム(主な商品名:デパケン®、セレニカ®)、レベチラセタム(商品名:イーケプラ®)などが子どもの片頭痛の予防薬として使われています。

◎その他の薬剤

アミトリプチリン(主な商品名:トリプタノール®)やロメリジン(商品名:ミグシス®)などの薬も子どもの片頭痛予防に使う場合があります。また、漢方薬による治療も選択肢の一つとされています。特に頭痛の予防薬に対してアレルギー症状が出たり、過度な眠気などの副作用により使用が難しい場合には漢方薬が代わりの手段となることもあります。

7. 片頭痛にはガイドラインがあるの?

日本頭痛学会と日本神経学会、日本神経治療学会、日本脳神経外科学会が共同で作成した『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』があります。ガイドラインは診断や治療の一般的な指針をまとめたものです。診療は個々の病状に応じて行われるため、必ずしもガイドラインに沿っていない場合もあります。病状に応じて担当医とよく相談して治療を決めることが最も望ましい治療方針の決定方法だと考えられます。

8. 薬が効かない片頭痛では何を考える?

頭痛を繰り返すたびに薬が効かなくなってきた、などの場合には薬物乱用頭痛を考えます。ひどい頭痛を経験すると、頭痛発作への不安から薬を飲む回数が増えます。すると、次第に脳が痛みに敏感になり、頭痛がひどくなります。内服しても効果が薄れてきた場合にはこの薬物乱用頭痛を考えて治療が行われます。

薬物乱用頭痛とは

薬物乱用頭痛(Medication-Overuse Headache、MOH)は、主に鎮痛薬など頭痛発作時の薬の乱用が原因で起こります。診断は「1ヵ月に15日以上頭痛があり、3ヵ月を超えて1種類以上の急性期または対症的な頭痛の治療薬を定期的に乱用している状態で、頭痛は薬を飲んでいる間にもあらわれ、場合によっては悪化する」頭痛です。

薬物乱用頭痛の治療

治療の原則は主に以下の3点とされています。

  • 原因薬剤の中止(原因となっている薬剤を2ヵ月間中止する)
  • 薬剤中止後に起こる頭痛や吐き気・嘔吐などへの対応
  • 頭痛発作自体を予防する方法(頭痛予防薬の使用)

◎薬剤中止後に起こる頭痛や吐き気・嘔吐などへの対応

原因薬物の中止後、反動で頭痛(反跳頭痛、離脱頭痛)や吐き気・嘔吐などが起こる場合があります。これに対しては通常、原因薬物以外の治療薬で対処します。重症の場合は入院も考慮し、原因薬物以外の鎮痛薬や吐き気止めの薬などが使われます。また漢方薬も効果が期待でき、例えば川芎茶調散(センキュウチャチョウサン)はその安全性の高さなどから適するとされる場合もあります。

◎頭痛発作自体を予防する方法(頭痛予防薬の使用)

薬物乱用頭痛を防ぐためには頭痛発作自体を予防する薬も有用です。乱用の原因となった薬物の中止時や中止前から予防薬を使用する場合もあります。薬物乱用頭痛の元になった頭痛は片頭痛(偏頭痛)が多いこともあり、予防薬に関しては通常の頭痛予防でも使われる薬を用いるのが一般的です。

主にバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン®など)、ロメリジン(商品名:テラナス®、ミグシス®)、プロプラノロール(商品名:インデラル®、ロプレソール®など)、アミトリプチリン(商品名:トリプタノール®など)などがあります。

近年ではトピラマート(商品名:トピナ®)などに効果が確認されてきています。

薬物乱用頭痛の予防

薬物乱用頭痛を治療しても、再発がおよそ30%の人で起こるとされています。原因薬剤を中止したあとも「頭痛ダイアリー」などを用いての服薬管理などが大切です。

NSAIDs、トリプタン製剤、エルゴタミン製剤などは特にお医者さんや薬剤師さんの話をよく聞いたうえで指示された回数を守って使うようにしてください。またNSAIDsなどの鎮痛薬は処方薬以外でも市販薬(OTC医薬品)として購入できるため、ついつい多めに使ってしまいそうになりますが、規定回数や規定用量を超えての使用は避けてください。またカフェインが含まれている鎮痛薬は効果が高い反面、依存性があり特に注意が必要です。

市販薬のなかにも例えば「ACE処方(ACE:この場合、アセトアミノフェン、カフェイン、エテンザミドの頭文字を合わせた言葉)」といってカフェインを含む鎮痛薬が多く販売されているため、購入時に薬剤師さんなどから話をよく聞いて適切に選ぶことが大切です。

【参考文献】

Evans EW, Lorber KC. Use of 5-HT1 agonists in pregnancy. Ann Pharmacother. 2008 Apr;42(4):543-9.