片頭痛(偏頭痛)を診断するための検査
片頭痛の診断をするために最も重要なのは
1. 問診
頭痛の診断では問診が最も重要です。なぜなら頭痛は本人しか感じることができず、客観的に評価することが難しいからです。問診では質問に答える方式で頭痛の様子を詳しく聞かれます。
【頭痛についての問診】
- 頭痛がどのように起きたか
- 頭痛は1ヵ月に何回くらい起こるか
- 頭痛はどのくらい続くか
- 痛む部分はどのあたりか
- どのような痛みか
- 痛みの強さはどの程度か
- 頭痛が和らぐ動作や悪化する動作があるか
- 頭痛と一緒に起こる症状はあるか
- どんな時に頭痛が起こるか
- 頭痛の前触れの症状があるか
- 今までに頭痛について医療機関を受診したことがあるか
これらの質問についてさらに詳しく説明します。
頭痛がどのように起きたか
何をしている時に起きたか、これまで繰り返し起きている頭痛なのか、今回突然起きた頭痛が続いているのか、など頭痛が起きた時の様子を詳しく伝えてください。片頭痛では繰り返し起こる頭痛が特徴的です。
突然起こる痛みや、頭痛が起きてからどんどん悪くなる痛みは、くも膜下出血などによる危険な頭痛の可能性があります。今までの人生で最悪の痛み、突然の痛み、どんどん悪化するような痛みが起きた人は、危険な頭痛と考えられるのですぐに病院を受診してください。
頭痛は1ヵ月に何回くらい起こるか
毎日のように起こるのか、時々起こる程度なのか伝えてください。1ヵ月に何回くらい起こるのかがわかるとなお良いです。どのくらいの回数起きているのかで、治療方針などが変わってきます。
頭痛はどのくらい続くか
1回の頭痛がどのくらい続くかについて伝えてください。数秒、数分、数時間、1-3日、1週間、毎日続くなどです。痛みの持続時間によって考えられる頭痛の種類が異なります。片頭痛では半日から3日間程度痛みが続きます。緊張型頭痛では30分程度から1週間までと、持続時間に幅があります。群発頭痛では、数分から数時間の痛みが1-2ヵ月の間毎日のように集中して起こることがあります。
痛む部分はどのあたりか
こめかみ、目のあたり、後頭部、頭全体、などのように頭のどの部分が痛いのかを伝えてください。その時、片側だけ痛いのか両側とも痛いのかも伝えてもらうと、どの頭痛か区別する時に参考になります。
どのような痛みか
どのように痛いか感じるままに伝えてみてください。例えば「ズキズキと脈打つような痛み」、「ガンガンするような痛み」、「締め付けられるような感じ」、「鈍く重い感じ」、「突然でこれまで経験したことのないほど強い痛み」などのような表現で構いません。。また、動くと痛みが強くなるかどうかについてもわかれば伝えてください。
突然の頭痛で短時間で悪化するような頭痛は危険な頭痛と考えられています。危険な頭痛では、命に関わるようなくも膜下出血などの可能性がありますので、夜間であってもすぐに病院を受診してください。
痛みの強さはどの程度か
痛いけれども普段通りの生活ができるくらいなのか、起きているのが辛いほど痛いのかなどを伝えてください。生活にどのくらい支障があるかで、どのような治療にするかが変わってきます。具体的には次のように分けられます。
- 生活には特に支障がない程度の痛み
- 痛み止めを飲めばなんとか生活できる程度の痛み
- 頭痛で仕事や学校を休むことがあるほどの痛み
- 強い時もあれば弱い時もある痛み
片頭痛では日常生活に支障をきたすほどの痛みになることが多く、仕事や学校を休むことがあります。そのような頭痛では、
頭痛が和らぐ動作や悪化する動作があるか
頭痛が起きた時にどのような動作をすると症状が軽くなるか、あるいは重くなるかを教えてください。片頭痛の人の多くは、歩いたり階段を上ったりなどの日常的な動きで頭痛が悪化し、じっと寝ていると頭痛が和らぎます。反対に、緊張型頭痛では少し体を動かす方が痛みが和らぐことが多いです。群発頭痛では、痛みが強いためにじっとしていることができません。
このように、動くと頭痛がひどくなるか楽になるかどうかがが、どの頭痛かを区別する時の参考になります。
頭痛と一緒に起こる症状はあるか
頭痛以外の症状も一緒に起こるようであれば伝えてください。片頭痛と合わせて起こりやすい症状はつぎの通りです。
- 吐き気がある
- 嘔吐する
- 光・音・匂いなどに敏感になる
- 皮膚がチクチクする
- 皮膚の異常な感覚がある
- ぐるぐるするめまいがある
- 肩こりがある
片頭痛では、吐き気だけでなく実際に嘔吐したり、光、音、匂いに敏感になったりすることがあります。光、音、匂いに敏感になる症状は、片頭痛で起こりやすい症状ですが、緊張型頭痛でも起こることはあります。吐き気については緊張型頭痛の方が片頭痛よりも軽く、嘔吐には至らないことがほとんどです。
どんな時に頭痛が起こるか
どんな状況で頭痛が起こりやすいかを伝えてください。片頭痛を起こしやすい状況は次の通りです。
- ストレスが多い時
- ストレスから解放された時
- 週末
- 不規則な睡眠が続いた時
- 月経の前後
- 天候が変化した時
- 眩しい光をみた時
- 嫌な匂いを嗅いだ時
- うるさい音を聞いた時
- 特定の食べ物を食べた時
- 飲酒した時
片頭痛ではストレス、不規則な睡眠、天候の変化で頭痛が起こりやすく、人によってはお酒や特定の食べ物で頭痛が起こります。多くの人ではいつも決まった
頭痛の前触れの症状があるか
頭痛が起こる前に症状があるかどうかも診断の参考になります。前触れとして起こりやすい症状は次の通りです。
- 生あくびがでる
- 空腹感を感じる
- 目の前がチカチカ・キラキラする
- 皮膚がチクチクする
片頭痛では、24-48時間前の予兆期と呼ばれる時期に、生あくび、空腹感などを感じることがあります。頭痛が起こる5-60分前の前兆期には片頭痛に特徴的な前兆が現れることがあります。最も多い前兆症状は目の前がチカチカしたり、キラキラする点が大きくなるような
今までに頭痛について医療機関を受診したことがあるか
今までに、頭痛に関して他の医療機関を受診したことがある場合には、いつ頃受診したか、診断名、受けた検査、受けた治療などについて伝えてください。
2. 身体診察
片頭痛以外の頭痛と区別するために神経学的診察という身体診察が行われる場合もあります。
神経学的診察とは
神経学的診察とは、体の動きや感覚が正常に働いているかどうかを観察する方法です。
頭痛を起こす病気のうち注意しなくてはいけない病気は、くも膜下出血や脳出血などの頭の中の出血や、脳腫瘍、髄膜炎などです。これらの病気の場合には、頭痛だけでなく、手足の動かしにくさ(
◎脳神経の診察
脳からでている12種類の神経がきちんと働いているかをみる診察です。次のようなことを確認します。
- 目の視野で見えにくい部分がないか
- 眼の動きが正常か、ものが二重に見えることがないか
- 顔のしびれ、動かしにくさがないか
- 難聴がないか、耳鳴りの自覚症状がないか
- 口蓋垂(こうがいすい、のどちんこ)の周りの動きが左右で同じか
- ろれつが回るか
- 首がきちんと左右に動くか
脳神経の診察では、医師の質問に答えたり、指示に従って動かしたりしてください。動かしにくいなどと感じた場合には、そのように答えてください。
◎手足の動きの診察
大きな麻痺がないか、細かい動きができるかどうかを診察します。
- 手や足の動かしにくさや、しびれがないか
- 手や足を同じ位置にキープできるか
- 手を表裏に早く動かすことができるか
- 指でものを追うことができるか
- まっすぐ立つことができるか
脳出血や脳梗塞では手足の動かしにくさや痺れが出ます。手足の動きの診察では、そのような症状がないかを診察します。
3. 画像検査
頭痛で怖い病気でないか心配になると「
頭部CT検査
CT検査は頭痛の画像検査ではじめに行われることが多い検査です。
頭部MRI検査
体内に金属が入っている人や、閉所恐怖症の人はMRI検査を受けられない可能性があります。心臓
4. 検査によって片頭痛はどんな種類に分類されるの?
問診や検査結果によって片頭痛かどうかが診断され、片頭痛である場合どのような片頭痛かさらに細かく分類されます。大変細かい分類なので、ここでは国際頭痛学会による「国際頭痛分類 第3版」の分類のうち必要な部分のみを抜き出して説明します。
1.1 前兆のない片頭痛
1.2 前兆のある片頭痛
1.2.1 典型的前兆を伴う片頭痛
1.2.2
1.2.3
1.2.4
1.3 慢性片頭痛
片頭痛特有の前兆症状を伴う場合と伴わない場合があります。頭痛外来を受診した片頭痛の人のうち80%の人は前兆のない片頭痛です。片頭痛に典型的な前兆とは視覚症状、感覚症状、言語症状のことです。これらのどれか一つでもあれば、「典型的前兆を伴う片頭痛」と診断されます。前兆症状に脳幹症状があれば、「脳幹性前兆を伴う片頭痛」や「脳底型片頭痛」と呼ばれます。脳幹症状とは、話しにくくなる、回転性めまい、耳鳴り、難聴、ものが二重に見える、両眼の耳側もしくは鼻側の視野がかける、手足が動かしにくい、意識がもうろうとする、などの症状を指します。
「片麻痺性片頭痛」は典型的な前兆の他に手足に力が入りにくくなる症状がが伴う片頭痛です。
「網膜片頭痛」は片目のみで目の前にキラキラした光・点・線が現れる、黒い点が見える、目が見えなくなるなどの症状を伴う片頭痛です。
「慢性片頭痛」は片頭痛の症状がひと月のうち15日以上あって、その状態が3ヵ月以上続いている場合に診断されます。前兆のあるなしは関係なく、頭痛の起こる日数で分類されます。
それぞれの詳しい診断基準は次の「5. 片頭痛の診断基準」で説明してありますので、少し難しいですが興味がある場合には読んでみてください。
5. 片頭痛の診断基準
片頭痛の診断基準は、現在(2018年7月)は2013年に公開された『国際頭痛分類第3版beta版』が用いられています。ここでは片頭痛の診断基準について説明しますが、これは主に医療者が使うものなので読み飛ばしても構いません。
お医者さんは次のような診断基準を参考に治療方法を決めています。
前兆のない片頭痛の診断基準
- B-Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
- 頭痛の持続時間は4時間から72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
- 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
- 片側性
- 拍動性
- 中等度〜重度の頭痛
- 日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
- 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
- 悪心または嘔吐(あるいはその両方)
- 光過敏および音過敏
- 他に最適な頭痛の診断がない
前兆のない片頭痛は、目の前がチカチカするなどの片頭痛特有の前兆を伴わずに頭痛を繰り返す病気です。4時間から3日間にわたって頭痛が続きます。頭痛は一般的には頭の片側で、脈をうつようなズキズキした痛みが起こります。しかし、半分の人では頭の両側が痛み、ズキズキした頭痛にならないこともあります。また、痛みは強く学校や会社を休むほど痛い人が多いです。日常の動きで悪化するので、片頭痛発作が起きた時は寝て過ごすと和らぎます。
頭痛外来を受診する人の8割が前兆のない片頭痛と言われていて、かかる人が多い片頭痛のタイプです。
前兆のある片頭痛の診断基準
- BおよびCを満たす頭痛発作が2回以上ある
- 以下の完全可逆性前兆症状が1つ以上ある
- 視覚症状
- 感覚症状
- 言語症状
- 運動症状
- 脳幹症状
- 網膜症状
- 以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
- 少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展するか、または2つ以上の前兆が引き続き生じる(あるいはその両方)
- それぞれの前兆症状は5分から60分持続する
- 少なくとも1つの前兆症状は片側性である
- 前兆に伴って、あるいは前兆発現後60分以内に頭痛が発現する
- 他に最適な頭痛の診断がない、また、一過性脳虚血発作が除外されている
前兆のある片頭痛は、前兆症状を伴う頭痛を2回以上繰り返す病気です。前兆症状は5分から20分にわたって徐々に広がって60分以内に治まります。前兆症状は人によって異なりますが、同じ症状を繰り返す人が多く、具体的な症状は次の通りです。典型的には次の3種類のうちどれかが起こります。
- 視覚症状
- 目の前にキラキラした光・点・線が現れる
- 目が見えなくなる
- 感覚症状
- 皮膚のチクチクした感覚が起こる
- 感覚が鈍くなる
- 言語症状
- 話しにくくなる
稀なタイプでは下記の前兆症状も起こります。
- 運動症状
- 片方の手足が動かしにくくなる
- 脳幹症状
下記の症状が2つ以上出現した場合に診断
- 話にくくなる
- ぐるぐるするめまいがある
- 耳鳴りがする
- 聞こえにくくなる(難聴)
- ものが二重にみえる
- 手足が動かしにくくなる
- 意識がボーとする
- 網膜症状
- 片目のみ目の前にキラキラした光・点・線が現れる
- 片目のみ黒い点が見える
- 片目のみ目が見えなくなる
片頭痛でみられる言語症状、運動症状、脳幹症状などはいずれも一過性脳虚血性発作と区別がしにくい症状です。一過性脳虚血発作は脳梗塞の前に起きると言われている病気です。脳の血管が一時的に詰まることで、近くの脳に栄養がいかなくなってしまい、その脳の部分が担っている働きが一時的に低下します。たとえば一時的に手足が動かしにくくなる、話しにくくなる、視野が欠けるなどの症状が起こります。これらの症状が起きている場合には、片頭痛によるものなのか一過性脳虚血性発作によるものかを区別するために、注意して診察や検査が行われます。
慢性片頭痛の診断基準
- 緊張型頭痛様または片頭痛様の頭痛(あるいはその両方)が月に15日以上の頻度で3ヵ月を超えて起こりBとCを満たす
- 「前兆のない片頭痛」の診断基準B-Dを満たすか、「前兆のある片頭痛」の診断基準BおよびCを満たす発作が、併せて5回以上あった患者に起こる
- 3ヵ月を超えて月に8日以上で以下のいずれかを満たす
- 「前兆のない片頭痛」の診断基準CとDを満たす
- 「前兆のある片頭痛」の診断基準BとCを満たす
- 発作時には片頭痛であったと患者が考えており、トリプタンあるいは麦角誘導体で改善する
- 他に最適な頭痛の診断がない
慢性片頭痛では前兆の有無に関わらず、頭痛の起こる日数によって診断が行われます。月に15日以上の頭痛が3ヵ月以上起こる場合に診断されます。
痛み止めや片頭痛の治療薬であるトリプタン製剤を頻回に使用している場合には薬物乱用頭痛と区別することが重要です。薬物乱用頭痛とは痛み止めやトリプタン製剤を決められた量や回数以上に使うことで起こる頭痛です。診断が難しい場合には「頭痛ダイアリー」なども用いて、頭痛の回数と使用した薬物を元に診断が行われます。