いんふるえんざ
インフルエンザ
インフルエンザウイルスに感染することで、高熱やのどの痛み、関節・筋肉の痛みなどが引き起こされる感染症。毎年冬場に流行する
39人の医師がチェック 304回の改訂 最終更新: 2024.02.27

妊娠中や授乳中のインフルエンザ対策はどうする?子供への影響とワクチン・薬

妊娠中にインフルエンザにかかると重症化しやすいことが知られています。お腹の子供にもまれに影響が出ます。

妊娠中は特に、インフルエンザシーズンの前にワクチンを打ってください。ワクチンによって産まれてくる子供に影響はありません。

1. 妊娠中にワクチンを打っても大丈夫?

米国予防接種諮問委員会 (ACIP) は、妊娠期間がインフルエンザシーズンと重なる女性は、妊娠の週数にかかわらずワクチンを接種するのが望ましいと提言しています。

妊娠初期であっても、インフルエンザワクチンの接種を受けたことにより先天異常の発生リスクが高くなるということはありません。

この他にも、複数の研究で、妊娠中の女性がインフルエンザワクチンを接種しても、妊婦や生まれてくるお子さんに影響がないことが報告されています。

妊娠中にインフルエンザにかかると、非妊娠時よりも重症化しやすいため、そのような意味でもワクチンは重要です。

また、妊娠中にワクチンを接種することで、出産後から生後6ヶ月までの期間、赤ちゃんにインフルエンザに対する抗体ができるという報告があり、(生まれた後の)お子さんがインフルエンザを発症するリスクが下がります。

生後すぐのお子さんは免疫システムが未熟なので、6ヶ月を過ぎるまで、インフルエンザワクチンを接種することができません。

お母さんが妊娠中にワクチンを接種する事で、お母さんとお子さん、両方の体を守ることができます。  

参考文献:MMWR Recomm Rep 2010 Aug 6, Obstet Gynecol 2015 Oct 5, Am J Obstet Gynecol 2011 Feb, Obstet Gynecol 2013 Jan, Vaccine 2015 Sep 11, BMJ 2015 Nov 16, N Engl J Med 2014 Sep 4, N Engl J Med 2008 Oct 9

2. ワクチンを打っていなかった妊婦はどうすればいい?

ワクチンを打っていないのにインフルエンザがはやり始めてしまったら、予防目的の薬を使う方法があります。 米国予防接種諮問委員会 (ACIP) では、以下の場合には予防目的で抗インフルエンザ薬を使用することを推奨しています。

  • ワクチン接種を受けていない妊婦が、妊娠28週以降にインフルエンザ感染者と濃厚接触した場合
  • ワクチン接種を受けていない妊婦で、かつ心臓・肺・腎臓の病気や糖尿病悪性腫瘍などインフルエンザが悪化しやすい病気をもっている人が、妊娠14週以降にインフルエンザ感染者と濃厚接触した場合

妊娠中には色々と不安もあることでしょうし、ご自身でどうすればよいか判断が難しい場合は、かかりつけの医師(産科、内科など)に相談してみると良いです。

参考文献: "Recommendations for Obstetric Health Care Providers Related to Use of Antiviral Medications in the Treatment and Prevention of Influenza"

3. 妊娠中のインフルエンザで子供に影響は?

多くの妊娠中の方の記録を集めて解析した研究によると、妊娠前期のインフルエンザ感染はいくつかの先天異常(水頭症先天性心疾患、口唇裂、二分脊椎など)のリスク増加に関係しています。

また妊婦のインフルエンザ感染は流産早産低出生体重児、胎児の死亡とも関連しています。

妊娠中であってもインフルエンザワクチンは安全でかつ効果があり、ワクチンによってインフルエンザを予防することで、お子さんの安全により配慮することができます。

では妊娠中にインフルエンザにかかってしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。

上記のような妊娠に伴う影響はゼロではありませんが、極めてまれです。

インフルエンザにかかったお母さん自身が、妊娠中はインフルエンザが重症化しやすいため、しっかりと治療を受けて健康な体調を取り戻すことが、お子さんのためにも大切です。

参考文献:Am J Obstet Gynecol 2011 Jun, N Engl J Med 2013 Jan 24, Am J Obstet Gynecol 2012 Sep, N Engl J Med 2008 Oct 9, Clin Infect Dis 2014 Feb, N Engl J Med 2014 Sep 4

4. 妊娠中にインフルエンザの薬を飲んでも大丈夫?

抗インフルエンザ薬は、妊娠中に使用しても胎児にほぼ影響はないとされています。仮に影響がわずかにあったとしても、抗インフルエンザ薬を使用せずにインフルエンザが悪化することは、それ以上に胎児にとって影響が強いと考えられるため、妊娠中の感染では、積極的に抗インフルエンザ薬を使用することが勧められます。

インフルエンザと診断された、もしくは感染の疑いがある場合は、できるだけ早く抗インフルエンザ薬の服薬を始めるべきです。症状が出てから2日以内に服薬を始めると、より重篤な症状や命に関わるようなケースが少なくなります。

参考文献:JAMA 2010 Apr 21, Obstet Gynecol 2010 Apr, MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2011 Sep 9, J Infect Dis 2012 Oct, Lancet Respir Med 2014 May

5. 授乳中にインフルエンザワクチンを打っても大丈夫?

授乳期間中でも、ワクチンを接種することができます。ワクチンを接種した上でも、お子さんに悪影響が及ぶことなく、通常通りの授乳が可能です。 生後6か月以内のお子さんはワクチンを打つ事が出来ない一方で、インフルエンザにかかると重症化しやすいという状況にあります。したがって、ご家族の方がワクチンを打って、自身がインフルエンザにかからないようにすることには、家族内感染を防ぐという意味で大きなメリットがあります。

参考文献:MMWR Recomm Rep 2010 Aug 6

6. 授乳中にインフルエンザの薬を飲んでも大丈夫?

インフルエンザウイルスに対する薬は、使用した後、母乳中に薬の成分が分泌されます。その程度の量が乳児に影響を与えるかというのは別問題ではありますが、そのような理由から、授乳時に使用した場合には授乳を避けることが推奨されています。

オセルタミビル(商品名:タミフル)については、服用終了後48時間空けてから授乳を再開することとされています。

ザナミビル(商品名:リレンザ)やラニナミビル(商品名:イナビル)については「何時間空ける」という明確な指示はありません。

一般論としての話になりますが、ザナミビルの場合、オセルタミビルと同程度の間隔を授乳までに空けることは妥当と考えられます。

また、血液中に長時間成分が留まるラニナミビルについてはそれ以上の時間を空ける必要があるため、授乳を考えているのであれば、別の薬剤の使用を検討するのも良いかもしれません。  

参考文献:「タミフル カプセル75 ドライシロップ3% 適正使用のお願い」, 「抗インフルエンザ薬の添付文書(参考資料1-1)」