りょくないしょう
緑内障
眼球内部の圧力が上がることで、眼の視神経に障害が生じ、視野に障害が出る病気
9人の医師がチェック 173回の改訂 最終更新: 2024.11.07

緑内障の治療について:点眼薬(目薬)やレーザー治療、手術

緑内障の治療の目的は眼圧を下げることです。眼圧を下げることによって視神経の障害を抑えることができます。治療は点眼薬を中心とした薬物治療が主体となり、その他ではレーザー治療や手術があります。

1. 緑内障の治療について

緑内障の治療には薬物治療とレーザー治療、手術の3つがあります。どの治療も眼圧の低下を目的として行われますが、病気の状態や患者さんの身体のコンディションをもとにして最も効果が高いものが選ばれます。

【緑内障の治療】

  • 薬物治療
    • 点眼薬
    • 内服薬や注射剤
  • レーザー治療
  • 手術

治療は点眼薬が主体になります。点眼薬によって眼圧を下げることができれば、緑内障の進行を抑えることができますが、眼圧が十分に下がらない人や、緑内障の中でも閉塞隅角緑内障の人にはレーザー治療や手術が検討されます。レーザー治療や手術にはいくつか方法があるので、状況に応じて最も効果があると考えられる方法が選ばれます。

それぞれの治療の内容について詳しく説明していきます。

2. 緑内障の薬物治療について:点眼薬(目薬)や内服薬の種類、副作用について

緑内障の治療は薬物治療が中心になります。薬物治療には点眼薬(目薬)と内服薬がありますが、ほとんどの人は点眼薬によって治療が行われます。点眼薬には多くの種類があり、病気の状態や重症度を参考に適した点眼薬が選ばれ、1つしか使わないこともあれば複数使うこともあります。

点眼薬にしても内服薬にしても、薬物治療では緑内障を根本的に治すことはできませんが、眼圧を下げて症状の進行を食い止めます。状態が安定したからといって自己判断でやめると、再び眼圧が上昇することがあるので、避けてください。

次に点眼薬と内服薬の薬について詳しく説明します。

点眼薬

点眼薬には多くの種類があります。それぞれで効果が異なるので、病気の状態を参考にして適したものが選ばれます。

【緑内障治療の点眼薬】

  • プロスタグランジン(PG)関連薬
  • β遮断薬
  • 炭酸脱水酵素阻害薬(内服薬、注射剤を含む)
  • α2受容体刺激薬(α2刺激薬) 
  • Rhoキナーゼ阻害薬
  • 副交感神経刺激薬 
  • α1受容体遮断薬
  • EP2受容体作動薬
  • その他 

それぞれについて、少し難しい作用機序にまで踏み込んで説明していきます。

◎プロスタグランジン(PG)関連薬

プロスタグランジン(PG)は体内のさまざまな反応に関わる生理活性物質の一つです。PGはいくつかの種類に分かれ、その中でもPGF2αという物質は緑内障を悪化させる眼圧上昇の要因となる房水(眼房水)の排出(流出)に関わっています。

PGF2αの作用の仕組みを少し詳しくみていくと、PGF2αは主にFP受容体(プロスタノイド受容体のひとつ)へ作用し、流出経路から房水の排出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。

緑内障治療で使われるPGの製剤(PG関連薬)は、PGF2αを基本骨格とした誘導体を主成分とする点眼薬で、PGF2αと同じように房水の流出を増やすことで眼圧を下げる作用をあらわします。詳しくは割愛しますが、緑内障治療で使われるPG関連薬にはプロスト系とプロストン系という種類があり、主に作用する房水の流出路が異なります。

房水の排出には2つの経路があり、ひとつは線維柱帯を通ってシュレム管に入り上強膜静脈から眼外へ排出される「線維柱帯流出路」。もうひとつは虹彩根部および毛様体筋を経て上毛様体腔および上脈絡膜腔に入り、強膜から眼外へ排出される「ぶどう膜強膜流出路」です。

プロスト系のPG関連薬は主に「ぶどう膜強膜流出路」からの房水排出を促進し、プロストン系のPG関連薬は主に「線維柱帯流出路」からの房水排出を促進するとされています。

現在(2018年11月時点)、プロスト系としてラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ビマトプロストがあり、プロストン系としてはウノプロストン(イソプロピルウノプロストン)があり、病態などに合わせて選択されています。

PG関連薬はβ遮断薬と並び緑内障における眼圧改善で中心となっている薬です。近年ではPG関連薬とβ遮断薬との配合製剤も登場し、この製剤は1回の点眼手技で2つの成分を同時に点眼できるため、アドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)などへのメリットが考えられます。

■ラタノプロスト(主な商品名:キサラタン®)

日本では1999年に承認されたプロスト系のPG関連薬で、1日1回タイプの点眼薬です。主にぶどう膜強膜流出路からの房水排出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。

ラタノプロスト製剤には、同じく緑内障の点眼薬としてよく使われているβ遮断薬との配合製剤もあります。β遮断薬のチモロールとの配合製剤(主な商品名:ザラカム®配合点眼液)やカルテオロールとの配合製剤(商品名:ミケルナ®配合点眼液)が医療現場で使われています。

■トラボプロスト(主な商品名:トラバタンズ®)

日本では2007年から使われているプロスト系のPG関連薬で、1日1回タイプの点眼薬です。主にぶどう膜強膜流出路からの房水排出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。

トラボプロストの先発医薬品であるトラバタンズ®点眼液は、多くの点眼薬で防腐剤として使われているベンザルコニウム塩化物(BAKまたはBAC)を含まない製剤になっています。この製剤はイオン緩衝系保存システムと呼ばれる塩化亜鉛などによる保存効果によりBAKを含まないため、角膜上皮細胞や結膜細胞などへの影響を軽減し、アレルギー症状などへの懸念を少なくしています。

トラボプロスト製剤にも他のPG関連薬同様、β遮断薬(チモロール)を一緒に配合した製剤(商品名:デュオトラバ®配合点眼液)があります。

■タフルプロスト(商品名:タプロス®)

日本では2008年に承認されたプロスト系のPG関連薬で、1日1回タイプの点眼薬です。主にぶどう膜強膜流出路からの房水排出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。

タフルプロスト製剤には通常タイプの製剤(タプロス®点眼液0.0015%)に加え、保存剤を含まないディスポーザブル容器(1回使い捨て)の製剤(タプロス®ミニ点眼液0.0015%)もあります。このタプロス®ミニ点眼液は保存剤として多くの点眼薬で使われているベンザルコニウム塩化物(BAK)を含まないため、仮にBAKでアレルギー症状を示す体質があったとしても使用が可能です。

トラボプロスト製剤にも他のPG関連薬同様、β遮断薬(チモロール)を一緒に配合した製剤(商品名:タプコム®配合点眼液)があります。

■ビマトプロスト(主な商品名:ルミガン®)

日本では2009年に承認されたプロスト系のPG関連薬で、1日1回タイプの点眼薬です。主にぶどう膜強膜流出路からの房水排出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。

眼圧下降に関わるPG関連の受容体としては、ラタノプロストなどが主に作用するFP受容体以外にもプロスタマイド受容体(PM受容体)などが考えられています。ビマトプロストはこのPM受容体に作用するプロスタマイドF2αという物質に類似した構造や作用をもっていて、PM受容体に作用(結合)することによる眼圧降下作用も考えられています。

ビマトプロストは緑内障治療以外にも臨床応用されていて、PG関連薬特有の「点眼しているとまつ毛が増える(濃くなる)という」という作用を利用して、まつ毛貧毛症の改善薬(グラッシュビスタ®外用液剤)として美容領域でも使われています。

■ウノプロストン(主な商品名:レスキュラ®)

日本では1994年に承認されたPG関連薬で、プロストン系のPG関連薬です。1日2回タイプの点眼薬で、主に線維柱帯流出路からの房水排出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。

ウノプロストンは、FP受容体への親和性が低いなどの理由から、こと眼圧降下作用においては一般的にラタノプロストなどのプロスト系PG関連薬に比べると控えめです。その一方で、ウノプロストンには皮膚(眼瞼など)への色素沈着やまつ毛が濃くなるなどの局所作用がプロスト系に比べ少ない(局所作用の軽減が期待できる)という特徴があり、これらを加味して適した病態(例えば、視野障害が初期の症例など)に対して使用が考慮されます。

■PG関連薬の副作用や注意点とは

全身性の副作用は一般的に少ない一方で眼やその周囲への局所作用に対して注意が必要となります。主な副作用として、局所の色素沈着(皮膚が黒ずむ)、局所の刺激感、充血、まつ毛や眼瞼部の多毛(まつ毛などが濃くなる)、上眼瞼溝深化、角膜上皮障害などがあります(これらに加え、ザラカム®などのβ遮断薬を配合した製剤では、β遮断薬特有の副作用に対しても注意が必要となります)。眼からあふれた薬液がそのまま眼の周りについていると、眼の周りが黒ずむ、まつげが長く太くなることなどが考えられるため、濡らしたガーゼやティッシュで拭き取ることが大切です。

また、PG関連薬は製剤によって保管(保存)条件が異なる場合があり注意が必要です。

例えば、ラタノプロスト製剤の先発医薬品であるキサラタン®は、未使用(未開封)の製剤に関しては通常、2-8℃で遮光保存します(使用開始(開封)後の保管は室温(1-30℃)での保存も可能です。また、開封後4週間を経過した場合は残液は使用せず廃棄します)。同じラタノプロスト製剤でもジェネリック医薬品(後発医薬品)の中には未使用品であっても室温保存(遮光室温保存)が可能なもの(製剤例:ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」)もあります(ラタノプロスト製剤の保存方法に関してはメドレーコラム「実は進化した医薬品 ジェネリック医薬品における製剤の工夫とは」でも紹介しています)。

トラボプロスト製剤のトラバタンズ®は1-25℃での遮光保存(冷暗所での保存が一般的です)、ビマトプロスト製剤のルミガン®では室温保存、などといったようにそれぞれ保存方法が異なるため、医師や薬剤師から副作用だけでなく保存などを含めた使用上の注意をしっかりと聞いておくことが大切です。

◎β遮断薬

交感神経のβ受容体を遮断し、主に眼圧を上昇させる房水(眼房水)の産生を抑えることで眼圧降下作用をあらわす薬です。内服薬や注射剤などのβ遮断薬は狭心症心不全慢性心不全)などの循環器疾患の治療薬としてよく使われる薬ですが、緑内障治療では点眼薬のβ遮断薬が中心となります。

チモロール、カルテオロール、ベタキソロール、ニプラジロール、レボブノロールといったβ遮断薬が点眼薬として使われています。

チモロール製剤には1日2回点眼タイプの製剤(主な商品名:チモプトール®点眼液、リズモン®点眼液)に加え、1日1回タイプの持続性製剤(主な商品名:チモプトール®XE点眼液、リズモン®TG点眼液)があり、この持続性製剤は1日に行う点眼回数が少ないため、アドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)などへのメリットが考えられます。

またチモロール製剤には、同じく緑内障の治療薬(点眼薬)であるプロスタグランジン(PG)関連薬との配合製剤(主な商品名:ザラカム®配合点眼液デュオトラバ®配合点眼液タプコム®配合点眼液)、炭酸脱水酵素阻害薬との配合製剤(主な商品名:コソプト®配合点眼液アゾルガ®配合懸濁性点眼液)もあり、これらは1回の点眼手技で2つの成分を同時に点眼することが可能であるため、こちらもアドヒアランスなどへのメリットが考えられます。なお、コソプト®には保存剤(ベンザルコニウム塩化物)を含まない1回使い捨てのディスポーザブル製剤(コソプト®ミニ配合点眼薬)もあります。また、コソプトの通常製剤(コソプト®配合点眼液)も添加物などの変更が行われ、現在はベンザルコニウム塩化物以外の添加物を含む製剤となっています。

ニプラジロール(主な商品名:ハイパジール®コーワ点眼液)やレボブノロールはβ遮断作用に加え交感神経α1遮断作用(眼組織血流量の増加など)による眼圧降下作用が期待でき、αβ遮断薬という種類に分類されることもある薬です。

■β遮断薬(点眼薬)の副作用や注意点とは

点眼薬であるため、角膜上皮障害、刺激感、充血、結膜炎などの局所(眼や眼の周囲)への副作用には注意が必要です。(これらに加えPG関連薬や炭酸脱水酵素阻害薬が配合された製剤では、それら配合成分による特有の副作用にも注意が必要です)。

また全身性の副作用は内服薬や注射薬などのβ遮断薬に比べれば少ないとされますが、注意は必要です。点眼薬なのに全身に作用?と思うかもしれませんが、眼と鼻は鼻涙管という管でつながっていて鼻は口(口腔)とつながっています。点眼した薬液がわずかでも鼻の粘膜や口などから吸収されることで、全身性の副作用があらわれる可能性はゼロではないのです。実際に点眼薬のβ遮断薬においても動悸不整脈低血圧などの心血管系症状や気管支収縮による喘息発作や気管支痙攣などの副作用に対して注意が必要とされています。

交感神経のβ受容体にはいくつかのタイプがあり、心臓などに多いβ1受容体と気管支などに多いβ2受容体がよく知られていて、β遮断薬で喘息発作などの呼吸器症状が引き起こされるのはβ2受容体の遮断により気管支収縮などがおこるためと考えられます。

点眼薬で使われるβ遮断薬の中でもベタキソロール(主な商品名:ベトプティック®点眼液ベトプティック®エス懸濁性点眼液)はβ1受容体に対しての選択性が高く、β2受容体への影響が比較的少ないとされています。そのため、チモロールやカルテオロールなどの点眼薬のβ遮断薬が気管支喘息の患者に対して禁忌(ただし、治療上必要などのケースは除く)となっているのに対し、ベタキソロールでは慎重投与ではあるものの禁忌にはなっておらず気管支喘息の病態がある場合などの選択肢になっています。

点眼薬のβ遮断薬の多くは室温による保存が可能ですが、リズモン®TG点眼液(遮光・10℃以下で保存)などのように一部の製剤では保存により注意が必要となるため、医師や薬剤師から説明をしっかりと聞いておくことが必要です。

◎炭酸脱水酵素阻害薬

眼圧を上昇させる房水(眼房水)は眼の毛様体(毛様体突起部)という場所で主に炭酸脱水酵素という物質を介して産生されています。炭酸脱水酵素阻害薬はその名の通り、この酵素を阻害することで、房水の産生を抑え眼圧降下作用をあらわします。

点眼薬としてはドルゾラミド(主な商品名:トルソプト®)やブリンゾラミド(主な商品名:エイゾプト®)が使われています。緑内障治療においては本剤を単独で使うというよりは、他の緑内障治療薬を使っても効果が十分に得られない場合などで使われるため、プロスタグランジン(PG)関連薬やβ遮断薬などと併用されることも多い薬です。そのため、ドルゾラミドとβ遮断薬(チモロール)の配合製剤(主な商品名:コソプト®配合点眼液)やブリンゾラミドとβ遮断薬(チモロール)の配合製剤(主な商品名:アゾルガ®配合点眼液)もあります。

炭酸脱水酵素阻害薬の中でもアセタゾラミド(商品名:ダイアモックス®)は内服薬(飲み薬:錠剤、散剤)や注射剤として使われている薬で、主に点眼薬だけでは眼圧コントロールが困難である時や手術までの期間の緊急回避的な用途などで使用されています。アセタゾラミドの医療現場における用途は広く緑内障の他、てんかん浮腫むくみ)、呼吸性アシドーシス、めまい(メニエール病)など多くの病気や症状の改善に使われています。

■炭酸脱水酵素阻害薬の副作用や注意点とは

点眼薬の炭酸脱水酵素阻害薬における副作用は主に局所作用によるもので、刺激感、充血、点眼直後の眼のかすみ、アレルギー性結膜炎眼瞼炎角膜炎などがあります(これらに加え、コソプト®などのβ遮断薬との配合製剤では、β遮断薬特有の副作用にも注意が必要です)。また、個々の製剤によって薬液の酸性度(pH)などに違いもあり、これが刺激感などに影響を与えることも考えられます。例えば、トルソプト®点眼液はpH5.5-5.9に調整されていて、やや酸性寄りのため「点眼時にしみる」などの刺激症状に注意が必要とされています。一方、エイゾプト®点眼液のpHは約7.5とほぼ中性のため刺激症状は比較的少ないとされていますが、懸濁液であるなどの理由により点眼後に一過性の霧視(霧がかかったように見える症状)があらわれやすいとされ、点眼後に運転などの作業を行う場合には特に注意が必要です。

アセタゾラミド製剤は内服薬や注射剤ですので、全身性の副作用にも注意が必要です。アセタゾラミドの注意すべき副作用には発疹などの皮膚症状、食欲不振や吐き気などの消化器症状、しびれや頭痛などの精神神経系症状、低カリウム血症などの電解質異常などがあり、頻度は稀とされますが白血球減少などの血液症状、腎障害、肝障害などがあらわれる可能性もあります。また、アセタゾラミドには利尿作用があり浮腫(むくみ)を改善する利尿剤としての一面もあります。服用する用量や時間帯などにもよりますが、日中や夜間の頻尿に対しても注意が必要です。

◎α2受容体刺激薬(α2刺激薬)

交感神経のα2受容体に作用(刺激作用)し、眼圧を上昇させる房水(眼房水)の産生を減らしたり、ぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進させることにより眼圧降下作用をあらわす薬です。

緑内障治療におけるα2刺激薬では主にブリモニジンの点眼薬(商品名:アイファガン®点眼液)が使われています。ブリモニジンには上記の眼圧降下作用に加えて神経保護作用などが示唆された経緯もあり、主に他の緑内障治療薬で十分な効果が得られない場合などの選択肢になっています。点眼薬のα2刺激薬にはアプラクロニジン(商品名:アイオピジン®UD点眼液)もありますが、こちらは主にレーザー手術をする際の術後の眼圧上昇を抑える目的で使われる製剤になっています。

α2刺激薬(点眼薬)の注意すべき副作用には、結膜炎角膜炎、散瞳、眼の痒みなどの眼症状の他、口渇などの消化器症状や鼻の乾燥感や刺激感などの呼吸器症状など、眼以外の症状もあります。また、他の種類の点眼薬同様、一般的に全身性の副作用は少ないとされますが、不整脈や血圧変動といったα受容体との関与が深い心血管系症状などにも注意は必要です。

なお、α2刺激薬のうち、ブリモニジンはほかの種類の緑内障治療薬との配合成分としても使われていて、β遮断薬のチモロールとの配合剤(商品名:アイベータ®︎配合点眼薬)、炭酸脱水酵素阻害薬のブリンゾラミドとの配合剤(商品名:アイラミド®️配合点眼薬)、Rhoキナーゼ阻害薬のリパスジルとの配合剤(商品名:グラアルファ®️配合点眼液)が保険承認されています。

◎Rhoキナーゼ阻害薬

Rhoキナーゼという酵素の働きを阻害し、主に線維柱帯流出路からの房水(眼房水)の排出を促進することで眼圧降下作用をあらわす薬で、日本ではリパスジルの点眼薬(商品名:グラナテック®)が2014年に承認されています。

Rhoキナーゼは体内で収縮、増殖、遺伝子発現誘導など細胞の生理機能に関与しているとされ、眼においては眼房水の排出などに関わります。リパスジルの作用の仕組みをもう少し詳しくみていくと、房水流出に関わる線維柱帯細胞、細胞外マトリックス(ECM:extracellular matrix)、シュレム管内皮細胞に作用しこれらに変化を加えることで線維柱帯流出路の流出抵抗を減らし眼圧低下作用をあらわすと考えられています。

このようにそれまでの緑内障治療薬にはない作用の仕組みをもっていることもあり、リパスジル点眼薬は他の薬で十分な効果が得られなかったり、なんらかの理由で他の薬が使えない病態などへの選択肢として有用です。

点眼時の注意点として結膜充血、結膜炎眼瞼炎などがあり、特に結膜充血はかなりの頻度であらわれることが考えられます。結膜充血があらわれるのは薬によって一時的に血管が広がるためとされていて、多くの場合、一過性の症状でしばらくすると和らいでいきます。ただし、症状が一過性でなく、例えば次の点眼のタイミングまで充血、痒み、まぶたの赤みなどの症状が続く場合には医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。

他に注意すべき副作用として眼瞼浮腫(まぶたのむくみ)、霧視(霧がかかったように見える症状)、接触性皮膚炎などがあります。

◎副交感神経刺激薬

自律神経系は交感神経と副交感神経の働きによってバランスがとられています。

通常、交感神経が亢進すると散瞳といって瞳孔が開き眼圧が上昇し、逆に副交感神経が亢進すると縮瞳といって瞳孔が縮小し眼圧が下降します。

ピロカルピンは副交感神経によってコントロールされている瞳孔括約筋及び毛様体筋へ作用し、縮瞳を引き起こしたり間接的に線維柱帯流出路からの房水(眼房水)の排出を促進することにより眼圧降下作用をあらわす副交感神経刺激薬のひとつです。緑内障治療では主にピロカルピンの点眼薬(商品名:サンピロ®)が使われています。

ピロカルピンの点眼薬で注意すべき副作用には、眼類天疱瘡(結膜充血、角膜上皮障害、睫毛内反、眼瞼眼球癒着など)、視力変動(近視化など)、白内障、下痢や吐き気などの消化器症状、発汗などがあります。また、副交感神経を刺激することで気管支が収縮し、喘息発作などを助長する可能性があるため、気管支喘息を持病でもつ場合はより注意が必要です。その他、縮瞳により目の前が暗くなるような症状があらわれたり網膜剥離などへの懸念が生じる可能性も考えられ、注意が必要とされています。

これら副作用に対して注意は必要ですが、サンピロ®は濃度の違いによる製剤の規格(0.5%、1%、2%、3%、4%)がかなり多く、個々の体質や病態などに合わせた選択も可能です。ピロカルピンの点眼薬は急性症状(急な眼圧上昇など)の改善に対しても使われることが考えられます。

なお、ピロカルピンは点眼薬以外に内服薬(飲み薬)としても臨床応用されていて、こちらは緑内障以外の治療に使われています。内服薬としてのピロカルピン(商品名:サラジェン®)は、副交感神経を刺激し、主に唾液の分泌を促すことで、シェーグレン症候群などの治療薬になっています。

◎α1受容体遮断薬

交感神経のα1受容体への阻害作用により、主にぶどう膜強膜流出路からの房水(眼房水)の排出を促進させることで眼圧降下作用をあらわす薬です。

緑内障治療におけるα1遮断薬では主にブナゾシンの点眼薬(商品名:デタントール®点眼液)が使われています。一般的には他の緑内障治療薬で十分な効果が得られない場合などに併用されることが多い薬です。

注意すべき副作用としては、他の緑内障で使われる点眼薬と同様に結膜炎、充血、刺激感、頭痛などがあります。しかし、一般的に副作用への懸念は少ないとされ、例えばβ遮断薬と気管支喘息、などのように原則として使用できない(禁忌となる)疾患が過敏症(薬剤成分に対しての過敏症)以外にはないため、なんらかの持病をもっていて他の薬が使えない場合に対しての選択肢としても有用です。

ちなみにα1遮断薬自体は内服薬(飲み薬)などとしても使われ、こちらは高血圧症前立腺肥大症などの治療薬として使われています。ブナゾシンにも内服薬(商品名:デタントール®錠、デタントール®R錠)があり、高血圧症などの治療薬になっています。

◎EP2受容体作動薬

2018年に承認されたオミデネパグ イソプロピル(エイベリス®点眼液)は、それまでの緑内障治療用の点眼薬とは異なる作用の仕組みによって眼圧を下げる「EP2受容体作動薬」と呼ばれる薬です。

この薬の作用の仕組みに関しては、緑内障治療で主流となっているプロスタグランジン(PG)関連薬との違いをみていくとわかりやすいかもしれません。

PG関連薬は、PGF2αという物質を元に造られた成分(PGF2α誘導体)を含む薬で、その成分がプロスタノイド受容体のひとつであるFP受容体へ作用し、流出経路からの房水流出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。プロスタノイド受容体にはFP受容体の他にDP受容体、EP受容体、IP受容体などといった種類があり、その中でもEP2受容体というタイプは房水流出(眼圧降下)に深く関わると考えられています。

オミデネパグは、プロスタグランジンとは異なる化学構造をもつ物質で、EP2受容体へ選択的に作用し、線維柱帯流出路及びぶどう膜強膜流出路の2つの経路からの房水流出を促進することで眼圧降下作用をあらわします。PG関連薬をはじめとする従来の緑内障治療薬とは異なる仕組みで眼圧降下作用をあらわすことから、既存の治療薬で目標眼圧を達成できていない病態などへの有用性が考えられます。

注意すべき副作用としては結膜充血や黄斑浮腫などの眼症状があります。また、点眼後に一時的に霧視(霧がかかったように見える)、眼の痛みや不快感などがあらわれることがあるため、このような症状がみられた場合は症状が回復するまで機械類の操作や自動車などの運転は控えるなど十分な注意が必要です。

他の種類の点眼薬との併用にも注意が必要で、例えばチモロール(主な商品名:チモプトール®点眼液)と併用した際に結膜充血などの炎症性症状があらわれやすくなったという報告もあります。特にPG関連薬のひとつであるタフルプロストを含む製剤(主な商品名:タプロス®、タプコム®)とは、炎症性症状が高頻度にあらわれることから併用禁忌(併用しないこと)となっています。

なお、オミデネパグ イソプロピルの点眼製剤(エイベリス)には、通常のタイプ(エイベリス®点眼液0.002%)のほかに、保存剤非含有(ベンザルコニウム塩化物を含まない)タイプ(エイベリス®ミニ点眼液0.002%)があり、後者は保存剤に対して過敏症があったり、角膜上皮障害がある場合などの選択肢として有用です。
 

◎その他の点眼薬

その他、緑内障治療に対して承認されている点眼薬としては、ジピベフリン(商品名:ピバレフリン®点眼液)やジスチグミン(商品名:ウブレチド®点眼液)といった製剤があります。ジピベフリンは房水(眼房水)流出促進効果などによって眼圧降下作用をあらわす薬で主に開放隅角緑内障の治療薬として使われることが考えられます(一方、交感神経を興奮させる作用により散瞳を引き起こし、隅角が閉塞することで眼圧の急な上昇などがあらわれることがあるため、閉塞隅角緑内障などに対しては禁忌となっています)。

ジスチグミンはコリンエステラーゼ阻害薬といってアセチルコリンを分解する酵素を阻害することで房水の産生を抑え房水流出を促進することで眼圧降下作用をあらわす薬です。緑内障以外では斜視(調節性斜視)や重症筋無力症における眼筋の筋力低下に対しても承認されています。

これらの点眼薬は、PG関連薬やβ遮断薬などの緑内障治療に主に使われている点眼薬に比べると病態が限定されますが、場合によっては治療の選択肢となることも考えられます。

◎点眼薬に含まれる防腐剤とアレルギーについて

点眼薬自体は無菌製剤ですが通常、開封後も繰り返し使用することから、細菌などの微生物による二次汚染防止の目的で多くの点眼薬には防腐剤が添加されています。

防腐剤の中でもよく使われている成分としてベンザルコニウム塩化物(BAK)があります。BAKは陽イオン界面活性剤(逆性石鹸とも呼ばれる)という消毒成分のひとつで、速乾性の消毒薬(主な商品名:ウエルパス®)などの成分としても広く使われています。

点眼薬に使われる防腐剤の量は微量で「医薬品添加物辞典」に収載されている使用量の範囲内のものですが、微量とはいえ、防腐剤の成分そのものに対してなんらかのアレルギー反応を示す可能性もゼロではありません。点眼薬による治療においては、しばしばこのBAKなどの防腐剤による角膜上皮障害やアレルギー反応による接触性皮膚炎などが懸念となってきました。

緑内障で使われる点眼薬も防腐剤としてBAKが含まれるものが多く、アレルギー反応などが少なからず懸念されますが、点眼薬の中にはいくつかの工夫によってBAKの量を軽減したり、BAKを使わない製剤が開発されてきています。

PG関連薬のひとつで、トラボプロスト製剤のトラバタンズ®はイオン緩衝系保存システムという工夫を採用することで、BAKを含まない製剤になっています。

また、タプロス®(PG関連薬)やコソプト®(β遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬配合製剤)にはBAKを含まない1回使い捨てのディスポーザブル製剤(商品名:タプロス®ミニコソプト®ミニ)もあります。

近年、医療費高騰などの対策としてジェネリック医薬品(後発医薬品)の普及が進んできていますが、このジェネリック医薬品の中には、ただ安価(薬価が安い)というだけでなく、使いやすさの向上などを目的としてなんらかの工夫を加えた製剤もあります。

例えば、点眼薬のジェネリック医薬品(後発医薬品)には、PFデラミ容器®(PF:Preservative Freeの略で防腐剤無添加を意味する)というものを採用し、防腐剤無添加ながら開封後の微生物による汚染を防ぐ製剤があります。

ラタノプロストやレボブノロールなどの緑内障治療薬にもこのPFデラミ容器®を採用した製剤(ラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」レボブノロール塩酸塩PF点眼液0.5%「日点」など)があり、仮に防腐剤に対してアレルギー反応を示すような体質を持っていたとしても、アレルギーなどへのリスクをより少なくすることが可能です。

内服薬や注射剤など

緑内障の薬物治療は主にPG関連薬やβ遮断薬などの点眼薬によって行われますが、内服薬(飲み薬)などの点眼薬以外の薬が使われることもあります。

点眼薬の炭酸脱水酵素阻害薬でもふれたように、アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス®)は内服薬や注射剤として使われている薬で、主に点眼薬だけでは眼圧コントロールが不十分となる病態などに使われています。

マンニトール(20%マンニットール)や濃グリセリン・果糖配合製剤(グリセオール®)といった高張浸透圧薬も急な眼圧上昇を沈静化させることに有用で、これらは注射剤として使われますが、循環血流量を増加させる作用により心臓などの循環器系に負担をかけることも考えられるため心不全などの持病がある場合には特に注意が必要となります。

一般的には高血圧症などの治療薬として使われるカルシウム拮抗薬が緑内障などの眼科領域で使われることもあります。カルシウム拮抗薬は血管拡張作用などをあらわす薬ですが、眼血流を改善する作用やカルシウムの神経細胞への過剰流入による障害を抑える作用などがあり、眼に対しての神経保護的な作用が期待できると考えられています。

ニルバジピン(主な商品名:ニバジール®)などのカルシウム拮抗薬が使われることが考えられます。緑内障などの眼血流改善目的でカルシウム拮抗薬を使う場合は通常、眼以外の全身作用に対して十分考慮した上で使われますが、血圧の過度な低下などがあらわれる可能性もあるため、ふらつきなどの症状に注意は必要です。

この他、亜鉛やビタミンB12などが緑内障を含め眼領域の治療で使われることもあります。亜鉛は一般的に味覚などに関わるミネラル成分ですが、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)という抗酸化物質に必要な成分にもなっています。詳しくは割愛しますが、活性酸素に対する抗酸化力の不足が緑内障の病態に関わるとの考えもあり、抗酸化力の改善などの目的で亜鉛含有製剤が選択肢となることも考えられます。

ビタミンB12には神経機能を正常に保つ効果が期待でき、しびれや神経の痛みなどの神経が関わる多くの病気や症状の改善に使われています。眼に対しては視神経や網膜を保護する効果などが期待できるとされ、ビタミンB12製剤のメチルコバラミン(主な商品名:メチコバール®)などが眼の治療薬として使われることも考えられます。

◎緑内障などの眼症状に効果が期待できる漢方薬

緑内障の薬物治療では主にプロスタグランジン(PG)関連薬などの点眼薬による治療が行われていますが、病態によっては漢方薬が治療の選択肢となることも考えられます。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にその「証」に適した漢方方剤が選択されます。また、漢方医学では「気・血・水(き・けつ・すい)」という言葉を使って生命活動や体内の状態を表現することがあります。

緑内障を悪化させる要因としては、房水(眼房水)の循環障害や眼の血流障害などがありますが、例えば「水(血液以外の体液)」や「血(血液や血流など)」の流れなどを改善する漢方薬を使うことによって眼症状の改善が期待できることも考えられます。

八味地黄丸(ハチミジオウガン)は排尿異常、下半身の冷え、しびれ、痛みなどの改善に使われていますが、かすみ目、白内障眼精疲労などの眼症状に対しても効果が期待できる漢方薬です。血流改善作用などをあらわす地黄(ジオウ)、利水作用などをあらわす沢瀉(タクシャ)など計8種類の生薬から構成されている薬で、緑内障による視力障害などに対しての有用性も考えられています。

その他、体内の「水」の流れを改善する利水作用をあらわす五苓散(ゴレイサン)などが眼症状改善に使われる場合もあります。また瘀血(おけつ)といって体内の血の流れが滞ることと眼疾患の症状悪化が深く関わっているとの考えもあり、この瘀血を改善する漢方薬が使われることもあります。特に充血や炎症などの眼症状に加え、神経症や更年期障害などを併せ持つような場合には桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)などの漢方薬が選択肢となることも考えられます。

漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にその「証」に適した漢方方剤が選択されます。眼などの一部分だけでなく、全身の状態や自身の体質などを医師などにしっかりと伝え、個々の「証」に合った適切な漢方薬を使うことが大切です。

■漢方薬にも副作用はある?

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

例えば、生薬の甘草(カンゾウ)の過剰摂取などによる偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)や黄芩(オウゴン)を含む漢方薬でおこる可能性がある間質性肺炎や肝障害などがあります。しかしこれらの副作用がおこる可能性は非常に稀であり、万が一あらわれても多くの場合、漢方薬を中止することで解消されます。

また漢方医学では個々の症状や体質などを「証(しょう)」という言葉であらわしますが、漢方薬自体がこの証に合っていない場合にも副作用があらわれることは考えられます。

ただし、何らかの気になる症状が現れた場合でも自己判断で薬を中止することはかえって治療の妨げになる場合もあります。もちろん非常に重篤な症状となれば話はまた別ですが、漢方薬を服用することによってもしも気になる症状があらわれた場合は自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師に相談することが大切です。

3. 緑内障のレーザー治療について

緑内障のレーザー治療には主に2つの種類があります。それぞれ病気の状態や患者さんの身体の状態によって使い分けられています。

【緑内障のレーザー治療】

  • レーザー虹彩切開術
  • レーザー線維柱帯形成術

これ以降レーザー治療の方法について詳しく説明しますが、難しい専門用語がでてきます。「緑内障の原因について:眼圧が上昇するメカニズムなど」を読んだ後に、この後の内容を読みすすめてもらえると理解が深まります。ぜひ先に読んでみてください。

レーザー虹彩切開術

レーザー虹彩切開術は閉塞隅角緑内障に行われます。閉塞隅角緑内障は隅角(角膜と虹彩に挟まれた部分)という場所が狭くなり、房水が流れ出にくくなることが原因で眼圧が上昇します。虹彩にレーザーで穴を開けると、隅角とは別の房水の排出経路をつくることができます。房水を溜まりにくくすることで眼圧の上昇を防ぐことができます。

レーザー虹彩切開術は外来で10分から15分程度の短時間で行なえる点がメリットです。ただし、角膜の細胞が少なくなっている人の場合は、レーザーを使うと角膜に障害が起こりやすいので、手術が検討されます。

レーザー線維柱帯形成術

線維柱帯は房水が身体に吸収される場所のことです。線維柱帯が目詰まりを起こすと、房水の吸収が悪くなって、目の中の房水が過剰になります。房水が増加するとそれにともない眼圧が上昇し、緑内障の原因になります。レーザー線維柱帯形成術は線維柱帯にレーザーを当てて、房水の吸収を良くします。

4. 緑内障の手術について:種類やリスク、入院と日帰りの違いについて

手術は主に薬物治療やレーザー治療による効果が小さく、眼圧が十分に下がらない人に行われます。手術の目的は薬物治療やレーザー治療と同じく、眼圧を下げることです。手術によって視力が前のように回復することはありませんが、眼圧が下がると視神経への影響が少なくなり、症状の悪化を防ぐことができます。

緑内障の手術にはいくつか種類があります。

手術の種類

手術には多くの方法がありますが、病気の状態に合わせて、最も効果が高い方法が選ばれます。主な手術の方法は次の3つです。

  • 線維柱帯切開術
  • 線維柱帯切除術
  • 隅角癒着解離術

それぞれの手術について詳しく説明しますが、難しい専門用語がでてきます。「緑内障の原因について:眼圧が上昇するメカニズムなど」を読んだ後に、この後の説明を読みすすめてもらえると理解が深まるので、ぜひ先に読んでみてください。

■線維柱帯切開術

房水が吸収される場所を線維柱帯といいます。緑内障の原因の1つが線維柱帯に目詰まりが起こっていることです。線維柱帯切開術では目詰まりをしている線維柱帯を切り開いて房水の吸収を改善します。

■線維柱帯切除術

線維柱帯切開術と名前は似ていますが、手術の内容は少し異なります。切開術では線維柱帯を切り開いて、房水の吸収を改善しますが、切除術では線維柱帯の一部を切り取って房水が目の外に流れる出口を新たに作り直します。

■隅角癒着解離術

隅角癒着解離術は閉塞隅角緑内障の人に対して行われる方法です。閉塞隅角緑内障では隅角が狭くなったり閉塞したりすることによって、房水の流れが悪くなり眼圧が上昇します。隅角癒着解離術は狭くなった隅角を剥がして房水の流れる道を広げる手術です。

手術にかかる時間

緑内障の手術は方法によりますが、60分から90分程度と考えられています。ただし、手術前の準備時間や手術後に様子を観察する時間は含まれていないので、手術日には余裕をもったスケジュールを立ててください。

手術のリスク

手術には合併症というリスクがあります。緑内障の手術の合併症としては主に次の3つがあります。

  • 出血
  • 感染
  • 眼圧の過剰な低下

それぞれについて説明します。

■出血

手術では皮膚や目の一部を切ります。皮膚や目を切ると出血しますが、手術中にしっかりと止血します。しかし、手術の後に再出血することがあります。手術後は白目の部分がしばらく血でにじんだ状態になりますが、これは時間の経過とともに自然と吸収されます。、血のにじみが少なくなっていくようであれば問題はありません。

反対に、血のにじみが広がる場合は再出血している可能性があります。洗浄処置が必要になることがあるので、お医者さんに相談してください。

■感染

手術でできた傷口から細菌が入り込んで感染症を起こすことがあります。特に眼内炎に注意しなければなりません。眼内炎は、目の中に感染が起きて、失明の可能性がある危険な状態です。手術後に見えにくさや強い充血、痛みなどが起きた場合は感染が起こっているサインの可能性があるので、お医者さんの診察を受けてください。

■眼圧の過剰な低下

緑内障の手術は房水の流出を改善し眼圧を低下させるのが目的で行われますが、房水が減少しすぎると、手術後に眼圧が低下しすぎることがあります。眼圧は眼球の張りを作り出すものです。眼圧が低下して眼球の張りがなくなると、ものがゆがんで見えたり、見えづらくなったりする症状が現れます。

眼圧が低下している場合は、房水が流れ出ないようにするために眼球を圧迫したりする処置が行われます。圧迫処置の効果が小さい場合は、房水の漏れを止めるための手術が行われることがあります。

手術後の注意点

厳しい生活制限は必要はありませんが、いくつか日常生活での注意点があります。緑内障の手術では目の一部を切っています。傷は時間の経過とともに閉じますが、すぐに閉じるわけではありません。傷口から細菌が入り込みやすいので、手術直後は目を触ったり擦ったりしないようにしてください。洗顔はお医者さんの許可が出るまでは避けて、濡れたタオルで顔を拭くことで代用してください。洗髪は可能ですが、目に水ができるだけ入らないようにしてください。自分でやる代わりに他の人に洗ってもらったり美容院を利用したりするとより安全です。

また、上記の日常生活での注意点に加えて、医療機関で処方された点眼薬も指示通り使ってください。点眼薬には抗菌作用のあるものや炎症を抑えるものが含まれており、傷を順調に治す助けになります。目の状態が安定する目安は手術から1週間から2週間後です。

ただし、傷の治りやすさには個人差があるので、いつから普段通りの生活をしてよいかなど、診察の時にお医者さんに確認しておくとよいです。

入院と日帰りの比較

緑内障手術にはいくつか種類がありますが、その中には日帰りで手術が可能なものがあります。入院と日帰りのどちらでも行えると言われると、どちらを選べばいいのか悩むものです。

そこで、それぞれのメリットデメリットについて下記に説明します。

【入院と日帰りのメリットとデメリット】

  入院 日帰り
メリット 合併症の早期発見 慣れた環境での生活
入院費用がかからない
デメリット 慣れない環境での生活 入院費用の負担 こまめな通院

入院して手術を行うと、しばらくは病院という不慣れな環境で過ごさなければなりません。慣れない環境ではありますが、医療スタッフの目の行き届いた中で生活できるというメリットがあります。医療スタッフは手術後の患者さんの対応に慣れているので、手術後に異変が生じた際にも気づきやすいです。このことは、本人だけではなく家族の安心にもつながります。

入院して手術を受けると安心感は大きいですが、日帰り手術とは異なり、入院費用の負担や環境の変化によるストレスがデメリットとして考えられます。

日帰りで手術を行うと、手術後は自宅という慣れた環境で過ごすことができるので、環境の変化にともなうストレスは少なくてすみます。一方、点眼薬の管理などを自分でしなければなりませんし、傷の状態が落ち着くまではこまめに通院しなければなりません。元気で移動するのに不自由がなく、薬の管理も問題がない人には日帰り手術のメリットが大きいと言えます。

入院手術と日帰り手術の主な違いは費用や手術後の過ごし方です。自分の価値観や心配なことなどを具体的にすると、どちらが自分に向いているかがはっきりとします。もし、自分だけで決めきれない場合はお医者さんや看護師さん、家族に相談してみてください。

5. 緑内障治療でよくある質問について

専門医や名医、ガイドラインといった言葉を耳にしたことはあるかもしれませんが、その内容については知られてはいません。ここでは緑内障治療でよくある質問について説明します。

緑内障治療の専門医はいるのか

専門とする領域において十分な知識と経験をもつ医師を専門医といいます。専門医は資格として学会や機構によって認定されています。眼科では日本眼科学会が認定する眼科専門医という資格があります。一方で、緑内障に特化した専門医資格はありません。そのため、資格を頼りに緑内障の専門医を探すのは難しいかもしれません。

目の病気は緑内障以外にも白内障網膜剥離ドライアイなど多様です。眼科専門医でも一つひとつの病気に対して専門性をもつ医師がいます。例えば、白内障を専門とする医師もいれば、網膜剥離を専門とする医師もいます。もちろん、緑内障を専門にする医師もいます。

緑内障を専門とする医師に巡り合う方法は2つあります。1つは眼科を受診して、そこで緑内障を専門とする医師を紹介してもらう方法です。医師は患者さんより他の医師の専門性についてより多くの情報を持っているので、医師に紹介を依頼する方法は確実性が高いです。

もう1つはインターネットを利用する方法です。病院によっては緑内障外来を設けていることもあるので、それを頼りに受診してみるのも良い考えです。

緑内障治療の名医はいるのか

緑内障に限ったことではないですが、どんな病気においても名医の絶対的な定義はありません。その理由は、どのような医師を名医と考えるかはその人の価値観に左右されるからです。例えば、手術の成功率が高い医師を捉える人もいれば、豊富な知識を持つ医師を名医と捉える人もいます。その人が期待しているものと、医師が得意としているものが合致してなければ、その人とっての名医とは言えません。

名医と誉れ高い医師に診療を受けても、自分の価値観に合わずに期待はずれだったということは耳にしますし、一方で、世間的には名医という評判ではない医師の診療に満足したという話も耳にします。

極端に言うと一人ひとりで異なる医師が名医になるとも考えられます。自分に合った名医を探すには、自分が何を大切にしているかをはっきりさせると良いです。大切にしているものは、具体的であればあるほどよいです。例えば、とにかく手術が上手な医師に診てほしい、親身になって話を聞いてくれる医師に診てほしいといった自分の基準を整理してみてください。

緑内障治療にガイドラインはあるのか

緑内障には緑内障学会によって作成された「緑内障診療ガイドライン」があります。ガイドラインの作成目的は治療の成績や安全性の向上です。過去の治療結果などを根拠に、最適だと考えられる治療方法が示されています。一方で、医療は日進月歩で次々と有効な治療がみつかります。進歩についていくために、ガイドラインも数年に1回は改訂が行なわれます。 お医者さんはガイドラインを踏まえて治療を行いますが、ガイドライン通りに治療することが最適だとは限りません。ガイドラインの改訂前に新しい治療が浸透することもあれば、不明だった治療の効果が明らかになって治療法が変わることもあります。また、ガイドラインは患者さんの一人ひとりの身体の違いを考慮して作られているわけではありません。一人ひとりに最適な治療を行えるようにガイドラインはアレンジして使われます。

【参考文献】

日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会. 緑内障診療ガイドライン(第4版), 日眼会誌 122 巻 1 号, 2018