あるつはいまーびょう(あるつはいまーがたにんちしょう)
アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)
認知症を引き起こす原因として最も多い病気。記憶や思考能力がゆっくりと障害されていく
19人の医師がチェック 340回の改訂 最終更新: 2024.02.16

アルツハイマー病で知っておくとよいこと:予防法、受診に適した診療科、運転などの日常生活などについて

アルツハイマー病が認知症の原因となる病気であることを知る人は少なくないかもしれません。その分、予防法が気になったり、心配な人も少なくはないでしょう。このページではアルツハイマー病についてよく受ける質問をベースにして、患者さんや家族に知ってほしいことを説明します。

1. アルツハイマー病に予防法はあるのか

アルツハイマー病の予防法に確立したものはありません。確実な予防は難しいと考えられているものの、アルツハイマー病の発症を抑える可能性があるものとして、次の習慣が知られています。

  • 余暇活動
  • 禁煙

◎余暇活動について

余暇とは自由に過ごせる時間のことで、睡眠・食事といった基本的な活動(1次活動)や仕事や家事など労働活動(2次活動)以外の時間を指します。余暇を利用した活動がアルツハイマー病の予防に効果があるのではないかと期待されています。ただ、余暇活動と一口に言っても知的なもの(ゲーム・映画鑑賞)、身体を使うもの(球技、散歩、エアロビクスなど)から社会的なもの(談話、ボランティア、旅行など)まで多岐にわたりますし、同じ活動でも人によって頻度も違えば受ける影響も異なると考えられます。 このため、どの程度アルツハイマー病の予防に効果があるかははっきりとはしていません。つまり、余暇活動を充実させればアルツハイマー病にかからないと言うことはできません。

とはいえ、余暇活動は日々の生活を彩るのに不可欠なものです。自由な時間を有意義に使うことで、アルツハイマー病の予防だけではなく、充実した生活や安定した精神状態などさまざまな効果が手にできるでしょう。

◎禁煙について

喫煙はアルツハイマー病の発症リスクを上昇させるものと考えられています。禁煙をすればアルツハイマー病にかからないとまでは言い切れませんが、可能性を減らすことには期待できます。喫煙者でアルツハイマー病が心配な人は禁煙をぜひ検討してみてください。とはいえ、禁煙は難しいものです。特に独力で達成する人はまれかもしれません。そこで、検討して欲しいのが禁煙外来の利用です。お医者さんとともに禁煙に取り組むことで成功率の上昇が望めます。なお、禁煙外来を行っている医療機関はこちらで検索できます。

ここまでは予防の可能性がある2つの生活習慣について説明しました。その他では、高血圧や糖尿病がアルツハイマー病の発症リスクを上昇させる病気として知られており、これらの予防や治療がアルツハイマー病の発症リスクを抑える可能性があると考えられています。「こちらのページ」でも掘り下げて説明しているので参考にしてください。

2. アルツハイマー病が心配な人・家族が知っておくとよいこと

物忘れなどをきっかけにして、アルツハイマー病が心配になったという人は少なくありません。しかしながら何科を受診すればいいかは意外と知られていないものですし、また家族が受診を促しても足が向かない人もいます。一日でも早く検査や治療を始めるために、ここでは受診のコツについて説明します。

何科を受診すればいいのか

アルツハイマー病を専門とするのは神経内科です。物忘れ外来という認知症の専門外来もあります。かかりつけの病院がない人や専門的な意見を聞きたい人は受診先としていい選択肢になります。神経内科以外では脳神経外科や精神科、一般内科でも診療が可能な場合があります。神経内科が近くにない場合には、ひとまずの受診先として検討してみてください。

本人が受診に拒否的な場合はどうすればいいのか

アルツハイマー病では患者さんが受診を拒むケースが少なくありません。これは、病気であるという意識(病識)が本人に乏しいことや、物忘れなどの症状に対する羞恥心が背景にあります。

本人が受診に消極的な場合には、このような背景への配慮が必要になります。方法はいくつか考えられますが、例えば「物忘れがひどいから病院で調べてもらいましょう」のような直接的な表現は使わないほうが、うまくいくことがあります。かかりつけの内科などがある場合には、「いつも診てもらっているお医者さんに、心配なことを相談してみましょう」などと言って、専門的な医療機関に行く前にワンクッション入れるのもいいかもしれません。顔をよく知ったお医者さんから受診を勧められたら、患者さんも前向きになることもあるのではないでしょうか。

受診は早いに越したことはありませんが、慌てる必要はありません。本人がその気になる言い方は人それぞれですので、色々と言い方を変えてアプローチしてみてください。

3. アルツハイマー病の診断を受けた人の家族に知ってほしいこと

アルツハイマー病の人がよりよく生活をしていくには、周りの人の助けがどうしても必要です。アルツハイマー病の人と上手に付き合うための知識を持っておくとより支えやすくなります。

日常的コミュニケーションの工夫

アルツハイマー病の人と上手にコミュニケーションをとるのは少し工夫が必要です。なぜならアルツハイマー病は精神面にも影響を及ぼすことがあるからです。

【アルツハイマー病の人が陥りやすい心理状況】

  • 漠然とした不安
  • 認知機能の低下への羞恥心や自尊心の喪失
  • 抑うつ気分

◎不安に耳を傾ける

アルツハイマー病になると、記憶力の低下が起こります。そのため、物をおいた場所や自分が今どこにいるのかなどを認識できなくなります。アルツハイマー病でなくても、人間は大切なことの記憶があやふやになると、不安にかられるものです。例えば、家の鍵をかけたかどうかがはっきりしない時や、外出時にガスの元栓を締めたかどうかがわからない時に感じる不安は多くの人が経験するものです。アルツハイマー病の人はこうした不安を常に感じているのです。患者さんは不安をできるだけ減らすために何回も同じ質問をしてくるかもしれません。繰り返される質問にうんざりすることもあると思いますが、否定的な反応はせずに、丁寧に答えるようにしてください。そうすることにより患者さんの不安は少しずつ緩和されていくと考えられます。

◎自尊心を尊重する

アルツハイマー病の影響で認知機能が低下すると、物忘れがひどくなります。しかしながら、記憶力の低下はなかなか表には出てきづらい傾向があります。というのは、物忘れの症状に羞恥心をいだいてしまい、ばれないようにするため、はぐらかしたり、認めなかったり、誤魔化そうとすることがあるからです。そして家族が物忘れについて問いただすと、怒り出したり、泣き出したりして、コミュニケーションが取りづらくなるのは、珍しくはありません。

こうした状況を避けるためには、患者さんへの自尊心を尊重するようコミュニケーションを意識してみてください。具体的には否定的な言葉を避け、患者さんの言うことをよく聞きき、相手の意図を汲み取る姿勢が重要です。とはいえ、一朝一夕に習得できる簡単なものではないので、より詳しい方法についてはお医者さんや臨床心理士などに相談してみてください。

◎励ましや原因の追求は避ける

これまでに説明したアルツハイマー病にともなう不安や自尊心の喪失が積み重なると、抑うつ気分(気分の沈み込み、興味の消失など)につながることがあります。抑うつ気分だと考えられる人に対しては、「元気出して」などの励ましや、「何があったの?」というような原因の追求は避けたほうがよい場合があります。ですので、異変に気づいたらまず受診を促して、治療の必要性についてお医者さんに判断してもらってください。そして、患者さんにとって望ましい家族の接し方についても助言を受けてみてください。

日常生活の注意点:車の運転、帰宅困難の予防

アルツハイマー病の人が日常生活を送るうえで、特に注意が必要なのは「車の運転」と「徘徊」です。

◎車の運転:免許の返納について

自動車の運転は認知機能が低下した人には不向きです。運転には高度な認知機能が必要であり、周りをよくみて常時的確な判断ができなければ事故に直結します。

そのため、認知症と診断され、6ヶ月以内に回復の見込みがないと判断された場合、運転免許証は取り消しとなります(回復見込みがある場合では停止)。つまり、アルツハイマー病と診断された時点で自動車の運転はできないと考えてください。これは自分のためだけではなく他人を事故に巻き込まないためにも必要なことです。

とはいえ、自動車がないと不便になることもあると思います。周りの人がサポートをするか、サポートが難しい場合は自治体などに利用可能なサービスなどを問い合わせてみてください。

◎帰宅困難

アルツハイマー病が進行すると、見当識障害(場所やものがわからなくなる)が生じることがあります。見当識障害が起こると、帰り道がわからなくなって迷子になったり、また警察等で保護されても自分の名前が伝えられず、帰宅困難になってしまうケースもあります。帰宅困難を防ぐためには、服に名前や連絡先を縫い付けておく方法が有効です。もちろん、見当識障害が低下していると交通事故などの心配もあるので、誰かが外出に付き添うという心配りも大切です。

薬物療法の注意点

アルツハイマー病の治療において薬物療法は欠かすことができませんが、治療を上手に進める上ではいくつか注意点があり、家族の協力が必要になります。

◎薬の管理

アルツハイマー病が進行すると、認知機能が低下します。具体的には、人やものの名前を忘れる、食事をとったことを忘れたり、会話の内容が理解できないといった多様な形で現れます。認知機能が低下が進むと、自分だけの力ではお医者さんの指示通りに薬を内服するのが困難になってしまいます。薬の飲み忘れも心配ですし、ついさっき薬を飲んだことを忘れて、また薬を飲んでしまうと、倍量の薬を飲んでしまうことになります。こうした薬物治療でのアクシデントを防ぐためには、「家族が薬を管理して、薬を飲むところを横で見守る」とより確実です。お医者さんや看護師さんとも相談して、患者さんがきちんと治療できるようにそれぞれの家庭で工夫してみてください。

◎副作用の発見

アルツハイマー病にかかる人の多くは高齢者です。年を重ねると、肝臓や腎臓といった薬を体内で処理する臓器の機能が低下するため薬の副作用が起こりやすいです。副作用が強く出ると、治療が進まないですし、身体への悪影響も心配になります。 お医者さんも慎重に薬の量を決めてはいますが、身体の状態は一人ひとりで異なります。そのため、どのような副作用が現れるかを家族の人もお医者さんから聞いておき、気になる症状がみられたら受診時にを伝えるようにしてください。

介護保険(介護保険制度)の利用

介護保険とは介護が必要とする状態になった人ができるだけ自立した生活を送れるように考えられた制度です。アルツハイマー病によって日常生活に支障をきたしている人の中には、介護保険を利用して、種々のサービスを受けられる場合があります。例えば、訪問看護というサービスでは身体介護(入浴・排泄など)や、生活援助(掃除・洗濯など)を受けられますし、ショートステイといサービスでは施設に短期間入所して介護を受けられます。アルツハイマー病の症状が重くなると家族の負担が増えますが、介護保険を上手に使うことでその負担を減らすことができます。申請方法やサービスの細かな内容については「こちらのページ」で説明しているので、参考にしてみてください。

参考

・田崎義昭, 斎藤佳雄/著, 「ベッドサイドの神経の診かた」, 南山堂, 2016

・河村満/編, 「認知症神経心理学的アプローチ」, 中山書店, 2012

・水野美邦/編, 「神経内科ハンドブック」, 医学書院, 2016