[医師監修・作成]脳梗塞のリハビリテーションについて | MEDLEY(メドレー)
のうこうそく
脳梗塞
脳の血管が詰まって結果、酸素や栄養が行き届かなくなり、脳細胞が壊死すること。運動・感覚の麻痺などを起こし、後遺症による寝たきりや死亡にもつながる
21人の医師がチェック 402回の改訂 最終更新: 2022.01.24

脳梗塞のリハビリテーションについて

脳梗塞の後遺症を軽くして上手く付き合っていくためにはリハビリテーションが欠かせません。このページでは脳梗塞後のリハビリテーションの内容や疑問などについて説明します。

1. 脳梗塞のリハビリテーションの目的

脳梗塞を発症すると、血液が途絶えた部分の細胞は死んでしまい、その部分が担っていた役割は失われます。
その結果、「手足の麻痺(まひ)」といった症状があらわれます。死んだ細胞は元通りに生き返ることはありませんので、この後遺症と生涯付き合っていくことになります。そこで、脳梗塞のリハビリテーションは、死んだ細胞以外の部分で機能を補うという目的や、新しい神経を作りながら回復していくという目的で行われることになるのです。

リハビリテーションはいつから始めるのか

脳卒中急性期には感染症褥瘡の危険性があります。入院中の理学療法や呼吸リハビリテーションは急性期から始められる場合が多いです。

リハビリテーションとともに栄養摂取も大切である

脳梗塞などの脳卒中で入院した時点で栄養状態が悪い人はその後の経過が悪いという報告があります(Arch Neurol. 2008;65:39-43)。日本脳卒中学会による『脳卒中治療ガイドライン』では、栄養状態が悪い人などには通常の食事より多くのカロリーやタンパク質を補給することが勧められています。

ただし、脳卒中では飲み込み(嚥下)の障害が起こる場合があります。嚥下障害があると、食べ物が肺に入ってしまい感染のもとになる「誤嚥性肺炎」にもつながる恐れがあります。誤嚥性肺炎は高齢者にとっては代表的な死因のひとつです。

嚥下の状態が悪く、口から食べることが危険と見られる人では、経鼻胃管(鼻から挿入するチューブ)を通すなどの方法で栄養を補給します。

2. 脳梗塞のリハビリテーションにはどんな方法があるのか

脳梗塞の症状は非常に多様なので、それに応じたリハビリテーションの方法もまた多く存在します。同じような症状であっても、専門家によって行う内容が異なることもよくあることですし、まだ標準化されたリハビリテーション手法が少ないという現状もあります。

その中でも今回は、脳梗塞のリハビリテーション方法として、代表的なものをいくつか挙げていきたいと思います。基本的に紹介するリハビリテーション方法は、脳卒中治療ガイドライン2015に掲載されているものになります。

脳梗塞によって片側の麻痺が生じることを総称して「片麻痺(へんまひ、かたまひ)」と言います。片麻痺症状に対する代表的なリハビリテーション方法は以下の通りです。 

歩く練習

手足の運動麻痺が起こると、歩くことが困難になる場合があります。日常生活を円滑に送る上で、歩行能力の回復は大切です。脳梗塞のリハビリテーションでは患者の麻痺の程度や状態にあわせて、歩く練習を行うことになります。

歩く練習では、麻痺した機能を補うために装具を着けて行うことがあります。装具を着けて歩く練習やその他の動作の練習を行うことは、脳卒中治療ガイドライン2015にもその重要性が記載されています。
病院によっては、「装具は麻痺した機能の回復を遅らせるため使用しない」と考えている場合もありますので、実際に装具をつけて練習が行われるかは病院によって異なります。その一方で、装具を使わないことにより歩く量が少なくなってしまったり、変な足のつき方をして足を痛めたりする可能性もあるので、しっかりと説明を受けてください。
装具の適用は重症度などにもよりますが、少なくともつま先が上に持ち上げることができない方は、まずは装具を着けて歩く練習をすることをおすすめします。

また、特に麻痺が軽症な方では、歩く距離や量を確保するも大事で、連続してどのくらい歩けるか、安全に歩けるかといった視点でリハビリテーションは進みます。自宅に戻って日常生活を歩いて過ごすことを見込める人では、屋内だけでなく屋外を歩く練習も必要です。屋外は道がでこぼこであったり、脳梗塞を発症する前には気づかなかったような小さい段差などが非常に気になります。そのような環境で慣れることで、より安全に歩いて生活できるようになります。

基本動作の練習

脳梗塞のリハビリテーションでは、基本動作の練習を行うこともあります。基本動作とは、寝返る、起き上がる、座る、立つ、立っているといった日常的に必要な基本的な動作のことを言います。脳梗塞の発症により麻痺した手足や体幹を上手に使えないと、起き上がったり、立ったりといった基本的な動作が難しくなるのです。

基本動作の練習では、障害されている動作の練習を反復して行います。動作自体ができていても、その動きの滑らかさが不十分な方ではより上手にできるように練習をすることになります。

日常生活動作の練習

脳梗塞のリハビリテーションで大事な練習のひとつに、日常生活動作の練習があります。日常生活動作とは、トイレ、入浴、階段の昇り降り、食事など、日常的に欠かせない動作のことを指します。
 
脳梗塞によって起こった運動麻痺や感覚麻痺、注意できなくなる障害によって、日常生活動作を円滑に行うことが難しくなります。そのため、苦手な動作を反復して行うことに加えて、自助具と呼ばれる少し動作を補助してくれる器具や手すりなどをうまく使いながら、練習を続けることになります。
 
その他にも、調理の練習をしたり、家屋改修を検討してその改修後の家を想定した練習を行ったり、公共交通機関を利用する練習など、その人の必要性に応じたことも行います。

話す、聞く、飲み込むことのリハビリテーション(言語聴覚療法)

脳梗塞のリハビリテーションの中には、話す、聞く、注意するといった機能の改善を目的に行うリハビリテーションもあります。このリハビリテーションを担当するのは言語聴覚士が担当します。また、食べ物や飲み物を飲み込むという機能(嚥下機能)のリハビリテーションを行う場合も、言語聴覚士が担うことも多いです。

言語聴覚療法では、脳梗塞の発症後に言葉をうまく話せるように練習したり、コミュニケーションをとる練習をします。嚥下障害に対しては、食べ物を細かく切ったり、飲み物にはトロミをつけるといった工夫をしながら、食べたり飲んだり練習することになります。

バランス練習

脳梗塞のリハビリテーションでは、バランス障害を改善するための練習も行います。脳梗塞を発症すると、手足・体幹の運動麻痺、感覚麻痺やバランス機能の障害により、動作を行う時にバランスを崩しやすくなります。
そのような症状に対して行うリハビリテーションの方法としては、例えば、座ったり、立っている状態から横に手を伸ばしても倒れないように保っている練習や床から物をとる練習などがあります。
 
以上が基本的なリハビリテーション方法になりますが、これらの練習を補う形で有効であることが示されているリハビリテーション方法について以下に説明します。

自転車エルゴメーター

脳梗塞後の運動麻痺や筋力の低下に有効であると言われているリハビリテーション方法として、自転車漕ぎがあります。自転車エルゴメーターと呼ばれていて、その場でペダルを回すけれども動きはしない自転車です。スポーツクラブによく置いてあります。

自転車エルゴメーターを使用することのメリットとしては、麻痺した側の足、麻痺してない方の足どちらも力をつけることができることがあります。また、自転車を漕ぐ時の筋肉の活動が、歩く時の筋肉の活動と似ているという報告があり、そのことから歩行にもつながる練習方法として注目されています。もちろん、スポーツクラブで使われているように、持久力を高める練習としても行われます。

トレッドミル

こちらも、スポーツクラブに置いてあるランニングマシーンを想像してもらえると良いと思います。脳梗塞を発症した後のリハビリテーション方法として、トレッドミルの上を歩く練習方法が効果的な場合があります。
ただし、うまく歩けない方にとって、勝手に地面が動くトレッドミルの上を歩くのは怖いと思いますし、実際に転倒の恐れなどを考えると危険です。そこで、ハーネスと呼ばれる安全装置のようなものを装着して、転ばないようにすることができます。ハーネスを装着すると、体重を免荷することもでき、その状態で歩くと、歩行能力も改善することが報告されています。

電気刺激療法

歩く練習や立ち上がる練習、手や腕、肩を使った動作(例えば、机の上のものをとるような動作)を行うリハビリテーションの際に、補助的に電気刺激を行うと動作の改善が図れるといった報告があります。この電気刺激の方法は、手足の皮膚に電極を貼って筋肉や皮膚を刺激する方法になります。また、脳梗塞を発症した後に手足が硬くなってしまう痙縮(けいしゅく)という状態に対して、電気刺激を行うとその硬さが改善するということも言われています。

このような電気刺激の方法とは別に、頭に電気刺激を行う経頭蓋直流電気刺激という方法もあります。この方法は、非常に微弱な電流を頭皮に流して、脳の活動を変化させるというものです。安全性などの面から脳卒中治療ガイドライン2015では「行うことを考慮しても良い」という推奨にはなりますが、現在研究が進んでいるリハビリテーション方法になります。

また類似した方法として、経頭蓋磁気刺激という方法があります。こちらも頭皮上から刺激を行う方法ですが、電気ではなく磁気を用いて脳の活動を変化させることになります。
経頭蓋磁気刺激を実践している病院は比較的多いのですが、経頭蓋直流電気刺激は専用の機械を有していない病院も多いことから、その病院によって行えるかどうかは変わります。

装具療法

歩く練習のところで簡単に説明した装具を用いた療法になります。脳梗塞のリハビリテーションでは使用する頻度も多いものです。リハビリテーションを行っている病院であれば院内に装具が準備されています。退院後もリハビリテーションや生活のために装具を使う場合は、専門の装具屋さんが病院を訪問して、一人ひとりにあった装具を作ることになります。

脳梗塞で使用する足の装具は大きく分けて2種類あります。ひとつは、足首を覆うような短下肢装具というものです。もうひとつは、長下肢装具というもので、足首から膝までしっかり安定させることができる装具です。初めは長下肢装具を使って、後に短下肢装具にすることも可能なので、重症度や症状によって使い分けることが大事です。

脳梗塞を発症した後に装具を作るという話が出ると、嫌な思いをされる方も多いと思います。しかし、何も装着しないでバランスがとれず練習にならないよりも、まずは装具を使い、ある程度症状を見ながら最終的な使用を検討するのが良いでしょう。

ここまでで紹介したリハビリテーションの内容以外にも様々な方法があります。しかし、根拠に乏しい方法も多く、スタッフが経験のみで選択している手法もありますので、どのような効果が見られるのかよく聞き、納得した医療を受けることが大切です。

また、上記のリハビリテーション方法は、脳梗塞が起きた部位や重症度によっても選択肢が異なります。例えば、小脳梗塞や脳幹梗塞といった種類の脳梗塞では、バランスの問題が起きたり、失調と言って思うように手足を滑らかに動かせない症状が特徴的に見られます。そのような症状に対しては、バランスの練習を重点的に行うなど、臨機応変に選択されることがほとんどです。小脳梗塞のリハビリテーションについて詳しい情報を知りたい方は、「めまい、頭痛、吐き気・・・小脳梗塞の症状とリハビリについて解説」をご覧ください。