[医師監修・作成]脳梗塞の治療について:カテーテル治療、rt-PAを用いた血栓溶解療法、手術(外減圧術)などについて | MEDLEY(メドレー)
のうこうそく
脳梗塞
脳の血管が詰まって結果、酸素や栄養が行き届かなくなり、脳細胞が壊死すること。運動・感覚の麻痺などを起こし、後遺症による寝たきりや死亡にもつながる
21人の医師がチェック 400回の改訂 最終更新: 2021.10.01

脳梗塞の治療について:カテーテル治療、rt-PAを用いた血栓溶解療法、手術(外減圧術)などについて

脳梗塞が起こった直後では薬やカテーテルを使って、詰まった血管の通りを良くする治療を行えます。また、再発を予防するために血液をさらさらにする薬を使った治療や、脳梗塞の影響で脳に高い圧力がかかっている場合には、圧力を下げる目的で手術が行われることもあります。

1. 脳血管のつまりを改善する治療:rt-PA・カテーテル治療

脳梗塞が発症したばかり(急性期)の治療が発展してきています。血栓を溶かすrt-PAという薬を使った治療や、脳に詰まった血栓を取り除くカテーテル治療と呼ばれる治療のおかげで、命が助かったり、重い後遺症をまぬがれたりする人も少なくありません。

rt-PAについて

rt-PAは、血栓(血液のかたまり)を溶かす作用のある薬です。
脳梗塞を発症してから4.5時間以内を超急性期と呼ぶことが多いのですが、超急性期であれば、rt-PAの有効性が証明されています。発症時間が不明な場合は、頭部MRI検査の結果によって行えるかどうかが判断されます。
rt-PAは脳梗塞に効果を発揮する一方で、出血しやすくなるなどの副作用があります。副作用が強い場合には、脳出血を引き起こす恐れがあるため、rt-PAを使うべき場合には厳しい条件が決められています。

rt-PAという名前は、遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator)の略です。「遺伝子組み換え」という言葉はこの物質が薬として作られる方法を示しています。人間などの体から取り出したものではなく、遺伝子組み換え技術によって作られた細菌などを利用して大量生産されていることを指しています。つまり、rt-PAは「遺伝子組み換え技術を利用して作られたt-PA」という意味です。

t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)は、人間の体内でも作られている物質です。健康な体の中では、t-PAが作用していることにより、血管の中で血栓ができないようになっています。

血栓を作るためにはフィブリンという物質が必要なのですが、t-PAが作用するとフィブリンは分解されます。より詳しく言うと、t-PAはプラスミノーゲンという物質を活性化します。するとプラスミノーゲンはプラスミンに変化します。プラスミンはフィブリンを分解する作用があり、血栓も溶かすことができます。このようにしてt-PAは血栓を溶かす作用を現します。

日本で脳梗塞の治療に使われているrt-PAはアルテプラーゼという物質です。商品名としてアクチバシン®とグルトパ®があります。病院ではアルテプラーゼのことを「ティーピーエー」と言っていることが多いです。

アルテプラーゼの効果・効能は「虚血性脳血管障害急性期に伴う機能障害の改善(発症後4.5時間以内)」とされています。発症から4.5時間を超えてしまうと治療効果は低くなると同時に、頭蓋内の出血の危険性が高まるなどのデメリットが増すとされています。

脳梗塞のカテーテル治療について

rt-PAが使えない場合や、使っても効果が見られなかった場合には、カテーテル治療(血管内治療)が選択肢の一つになります。

脳梗塞のカテーテル治療の画像

また、脳の前側に栄養を送る動脈(内頚動脈または中大脳動脈)が閉塞している場合で、発症から6時間以内であれば、カテーテル治療を行うことが勧められています。

脳梗塞のカテーテル治療は、血管(動脈)の中にカテーテルという細い管を通し、専用の器械を用いて血管に詰まっている血栓を回収する方法です。近年はカテーテルの器械の進化がめざましく、次々と新しい製品が生まれ、また脳梗塞の治療として有効であるという研究結果も多く報告されてきています。

カテーテル治療には、らせん状になったワイヤーで血栓を貫通してそのまま引きずり出す方法や、強力な吸引ポンプを用いて砕いた血栓を吸引する方法などがあります。

2. 脳梗塞の再発を予防する治療

脳梗塞を発症した後は、再び脳梗塞を起こす危険性が高いと考えられています。再発を予防するために、血液をさらさらにする薬を使った治療をします。

  • 抗血栓療法
    • 抗凝固薬
      • アルガトロバン
      • ヘパリン
    • 抗血小板薬
      • オザグレル
      • アスピリン
      • クロピドグレル

抗凝固薬は注射による治療で、抗血小板薬は主に飲み薬による治療です。脳梗塞を発症してからの経過時間症状の重さなどを考慮して適切なものが選択されます。

抗凝固薬とは

抗凝固薬は、血栓の形成に関わる血液凝固因子という物質の働きを抑えます。

脳梗塞の治療に使う代表的な抗凝固薬としてアルガトロバン(商品名スロンノン、ノバスタンなど)があります。アルガトロバンはトロンビンという血液凝固因子を阻害することで抗凝固作用を表します。発症後48時間以内で大きさが1.5cmを超すような脳梗塞(ただし、心原性の脳塞栓症を除く)への抗凝固療法薬として推奨されています。また脳梗塞を発症してから48時間以内の人にはヘパリンという薬による治療も選択肢の一つとされています。

抗血小板薬とは

抗凝固薬が血液凝固因子を抑えるのに対して、抗血小板薬は血小板の働きを抑えることで血栓ができる働きを抑えます。

血小板は血液の中に含まれる小さい細胞です。血小板は血栓ができるために必要です。血液が固まって血栓ができる反応(凝固)は複雑ですが、トロンボキサン(TX)という物質が働くと、血小板が互いに集まって血栓を作ろうとします(血小板凝集)。

オザグレル(商品名カタクロット、キサンボンなど)は、トロンボキサンが作られるのを抑えます。発症から5日以内の脳血栓症(ただし、心原性の脳塞栓症を除く脳梗塞)においてオザグレルは有効な治療法とされています。

抗血小板薬の中ではアスピリンによる治療も有効です。特に発症後48時間以内の早期における脳梗塞の治療薬としてアスピリンは推奨されています。

また、発症早期の非心原性脳梗塞や一過性脳虚血発作TIA)の治療法として、例えばアスピリンとクロピドグレル(商品名プラビックスなど)といった2種類の抗血小板薬を同時に使う治療法が推奨されています。

3. 脳梗塞に対する脳保護療法について

脳梗塞では、フリーラジカルという物質が増加して、脳の機能に障害を引き起こしてしまいます。エダラボン(商品名:ラジカット®など)という薬は、フリーラジカルの増加を抑える働きがあり、脳の保護作用が期待されます。

4. 脳浮腫を改善する治療について

脳梗塞によって引き起こされる危険な状態のひとつが脳浮腫(のうふしゅ)です。脳浮腫を改善するために薬や手術が行われます。

脳浮腫について

脳浮腫とは脳梗塞や脳出血によって脳細胞の内や外に水分が溜まり、結果として脳の容積が増えてしまった状態です。脳浮腫がひどくなると、脳が頭の中(頭蓋内)で本来の位置に収まらず、ずれた位置にはみ出してしまうことがあります。脳が本来の位置から飛び出すことを脳ヘルニアと言い危険な状態です。

脳ヘルニアは脳のさまざまな部分を圧迫し、症状の悪化などにつながり、命に関わることもあります。脳浮腫を改善する治療には脳ヘルニアを防ぐ狙いがあります。

脳浮腫の種類

脳ヘルニアは主に以下の種類があります。

■帯状回(たいじょうかい)ヘルニア

大脳は右半球と左半球に分かれています。左右の大脳半球の間には、髄膜(大脳鎌)が上から仕切りのように入ってきています。大脳鎌の下端の部分には、大脳皮質のうち帯状回という部分が接しています。脳浮腫により帯状回の一部が大脳鎌の下を抜けて反対側に飛び出してしまうことを帯状回ヘルニアと言います。大脳鎌下(だいのうかまか)ヘルニアとも言います。

■テント切痕(せっこん)ヘルニア

テントヘルニアとも言います。テント(小脳テント)というのは髄膜の一部です。小脳を上からおおむね水平に覆う位置にテントがあります。テントの左右中央(正中)には大脳鎌がつながっています。テントの上側には大脳の一部(側頭葉)、テントの下側には小脳があります。テントによって頭蓋内はおおむね上下に分かれるのですが、脳幹はテントの上下でつながっています。脳幹が通る部分はテントが欠けた形になっています。この部分をテント切痕と言います。本来ならテントの上にある部分がテント切痕にはまり込んでしまうのがテント切痕ヘルニアです。テント切痕ヘルニアでは、生命維持の中枢である脳幹が圧迫され、命に関わります。圧迫によって脳幹に出血を起こす場合もあります(デュレー出血)。

■鉤(こう)ヘルニアは

側頭葉の一部がテント切痕から下に向かって押し出されている状態です。側頭葉のうちの「鉤」(または鉤回)という部分が押し出されるので鉤ヘルニアという名前があります。鉤ヘルニアはしばしば動眼神経障害を起こします。

■中心性ヘルニア

間脳や脳幹が下に向かって押し付けられている状態です。脳幹を圧迫して命に関わります

■小脳扁桃ヘルニア(大孔ヘルニア、大後頭孔ヘルニア)

小脳扁桃というのは小脳の一部です。小脳の一番下側にあります。小脳扁桃は、頭蓋骨の背中側にある大孔(大後頭孔)という穴の近くにあります。大孔の下は脊柱管です。脳幹の先は大孔を通って脊柱管の中で脊髄として下に伸びています。小脳扁桃が大孔にはまり込んでしまうことを大孔ヘルニアと言います。大孔ヘルニアでは脳幹が圧迫されます。特に延髄が圧迫されることで呼吸停止の原因になります。

脳浮腫の薬物治療

脳ヘルニアによって生命の中枢である脳幹が圧迫され、命が危なくなります。そこで脳浮腫を軽減する抗脳浮腫療法が行われます。 

脳浮腫療法では、濃度の濃いグリセリン(高張グリセロール、商品名グリセオールなど)を静脈から入れることで、脳浮腫の原因となっている水分を血液中に移動させ、脳浮腫や脳代謝を改善する作用が期待できます。特に心原性の脳塞栓症やアテローム血栓性梗塞などの頭蓋内圧の変化を伴うような脳梗塞の急性期治療において有効とされています。

その他、マンニトール(D-マンニトール)という薬を静脈から入れることで浮腫を改善する方法も選択肢の一つとされています。

グリセロールとマンニトールはともに浸透圧利尿薬という名前でも知られる薬です。

浸透圧利尿薬は、体内の化学反応にはほぼ影響しません。しかし、血液の中に浸透圧利尿薬が入ることで、血液が濃くなります。血液が濃くなると、血管の周りの組織から水が血液に取り込まれます。もともと血管の中と外では常に水が出入りしているのですが、液体の濃さ(浸透圧)に差ができると、水は自然に浸透圧のバランスを元に戻す方向に移動します(浸透)。つまり、血液が濃くなったときは血液を薄くする方向に、すなわち血管の外から中に水が移動します。この現象を利用して血管に水分を回収する薬が浸透圧利尿薬です。浸透圧利尿薬の作用によって、脳の余分な水分が血管を通って全身に移動し、脳浮腫が改善することを狙って使われます。

浸透圧利尿薬は「利尿薬」という名前のとおり、尿を増やす作用もあります。浸透圧利尿薬は腎臓を通って尿の中に排泄されます。腎臓では尿を作る途中の段階(原尿)で水分を再吸収しています。浸透圧利尿薬が入っていると、原尿が濃くなるため、原尿から水分が再吸収されにくくなります。その結果、より多くの水分が尿として排泄されるようになります。

脳梗塞の急性期の手術:外減圧術

片方の脳に大きく広がる心原性脳塞栓症や小脳梗塞の場合、数日かけて脳浮腫が進行します。脳は頭蓋骨に囲まれた限られたスペースのため、腫れてしまうと逃げ場がなく、一気に内部の圧力が高くなります。すると脳ヘルニアと呼ばれる状態になり、生命の中枢である脳幹が圧迫されてしまうのです。

大きな脳梗塞が原因で脳が腫れている場合、年齢が18~60歳であることなど一定の条件を満たせば、命を助けるために「外減圧術」という手術が行われることがあります。この手術法は、脳が腫れても圧力が高くなり過ぎないように、手術で頭蓋骨の一部を外して、外したまま頭の皮膚を閉じる方法です。無事に脳梗塞の急性期を乗り切って、腫れも引いた場合、発症から数カ月後に手術で外していた頭蓋骨を戻します。

ただし、一点だけ注意しなければいけないことがあります。脳梗塞を起こして、一度死んでしまった脳の細胞は元には戻るわけではないこです。外減圧術は脳梗塞を治すための手術というよりは、「脳梗塞が重症でこのままだと命に危険が及ぶことが予想される場合に行われる手術」なのです。