◆アメリカで急性弛緩性麻痺が急増
2014年に、アメリカで肺炎などの感染症が流行した際、一部の患者で、手足に力が入らず動かせなくなるなどの「急性弛緩性麻痺」と呼ばれる症状が見られました。この症状はポリオ(小児麻痺)に似ていますが、ポリオが排除されているアメリカ大陸では非常に珍しいものです。
ここでは2012年から2015年に発症した、急性弛緩性麻痺が起こった59人の患者の特徴が報告されています。
◆9歳前後、発熱や筋肉痛も
患者の年齢や症状は次のようなものでした。
年齢の中央値は9歳だった(四分位間範囲4歳から14歳、症例のうち50人は21歳未満)。先行した、あるいは併存した症状には、呼吸器症状または胃腸症状(54人)、発熱(47人)、四肢の筋痛(41人)があった。
フォローアップのデータが得られた45人の患者のうち、38人に中央値9か月のフォロー時点まで(四分位間範囲3か月から12か月)持続する筋力低下があった。免疫抑制状態にあった成人患者2人が、症状の発生から60日以内に死亡した。
半数が9歳以下、59人中50人は20歳以下でした。肺や気管支の症状、胃腸の症状、発熱、手足の筋肉痛が多くの人に見られました。38人では、数か月以上の治療をしても筋力低下の症状が残っていました。成人の患者2人が死亡しました。
原因について、以下の情報がありました。
上咽頭スワブ検体、便検体、血清検体から最も頻繁に検出された病原体はエンテロウイルスだった(検査された45人のうち15人)。
報告された症例の発生率は、2014年8月から2015年1月にかけて起こった全国的なエンテロウイルスD68のアウトブレイクの期間で(10万人年あたり0.16症例)、ほかのモニター期間(10万人年あたり0.028症例、P<0.001)に比べて有意に高かった。
病原体を探す検査を受けた人のうち15人で、エンテロウイルスが見つかりました。また、2014年のエンテロウイルスD68の流行中は、発症する人が特に多くなっていました。
日本でもエンテロウイルスD68の感染によって急性弛緩性麻痺(急性弛緩性脊髄炎)が起こっていることが疑われ、日本小児科学会から会員に調査協力依頼が出されています。
エンテロウイルスD68の感染を予防するワクチンはなく、手洗いなどの一般的な対策が勧められています。急性弛緩性麻痺についてはエンテロウイルスD68だけで説明できるかどうかも未確定で、対策は今後にかかっています。この報告が役に立って、少しでも早く対策が進むことが待ち望まれます。
執筆者
Acute Flaccid Myelitis of Unknown Etiology in California, 2012-2015.
JAMA. 2015 Dec 22-29.
[PMID: 26720027]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。