2015.11.19 | ニュース

アジア人のアトピー性皮膚炎は白人のアトピー性皮膚炎と何が違うのか?

約25例ずつのアトピー性皮膚炎患者の皮膚検体を用いた研究

from The Journal of allergy and clinical immunology

アジア人のアトピー性皮膚炎は白人のアトピー性皮膚炎と何が違うのか?の写真

アジア人では白人よりもアトピー性皮膚炎を発症する人が多いことが知られていました。今回の研究で、アジア人のアトピー性皮膚炎患者の皮膚では白人に比べて、IL-17Aという炎症を起こす因子がより多く生じていることがわかりました。

これはJournal of Allergy and Clinical Immunologyの11月号に載った、私自身がニューヨークのロックフェラー大学で行った研究です。

日本では街を歩いていてもアトピー性皮膚炎の方をよく見かけるほど患者さんが多いですが、白人ではその半分程度です(統計にもよりますが、アジア人では100人に7人、白人ではその半分ほど)。また、白人に比べてアジア人では、赤く、がさがさした発疹の一つ一つがより明瞭で、まわりの正常な皮膚との境界がはっきりしています。

今回の研究ではこの2つの人種のアトピー性皮膚炎でどのように特徴が違うのかを、顕微鏡や遺伝子のはたらきを見る方法で調べました。

 

◆顕微鏡を用いた検査

25人の白人アトピー性皮膚炎患者、27人のアジア人アトピー性皮膚炎患者、12人の白人健常人、15人のアジア人健常人の皮膚を用いて実験を行いました。

まず、ヒトの皮膚のサンプルを使って顕微鏡を用いた検査を行いました。アトピー性皮膚炎では表皮という皮膚の表面の部分が正常なときに比べて厚くなることが知られていますが、この表皮の厚さが白人よりもアジア人のアトピー性皮膚炎患者で厚くなっていることがわかりました。

 

◆遺伝子発現の解析

次に遺伝子のはたらきに注目して、DNAから情報を伝えるRNAという物質の量を調べる検査を行い、皮膚の中で起こっている現象にはアジア人と白人のアトピー性皮膚炎患者でどのような違いがあるのか調べました。すると、アジア人アトピー性皮膚炎患者の皮膚では、IL-17AやIL-22といった物質のRNAがより多く作られていることがわかりました。

これらは炎症を起こしたり、皮膚の表面の表皮を厚くする作用があるので、顕微鏡を用いた検査結果と合致する所見でした。

 

◆アトピーに対する今後の治療戦略

アトピー性皮膚炎には現在、ステロイドのぬり薬やプロトピック®(有効成分はタクロリムス)という炎症を抑えるぬり薬を用いて治療を行い、保湿剤で再発を予防する、というのが主流です。ただし、全体の10%ほどの重症のアトピー性皮膚炎患者では再発を繰り返し、従来のぬり薬では治療が難しい場合があります。

そのような患者さんに対して、現在はアトピー性皮膚炎の原因となるある特定の分子のはたらきを抑えることで治そうという治療が進んでいます。2015年からIL-17Aのはたらきを抑えるセクキヌマブ(商品名コセンティクス)という治療薬が乾癬に対して販売開始となっているほかにも研究中の薬があります。まだ治験といって、効果や安全性をテストする段階ですが、2-3年後には市場に出て治療として使われている可能性もある薬です。

今回の研究のデータに基づくと、IL-17AやIL-22をターゲットとした薬は白人よりもアジア人のアトピー性皮膚炎でよく効く可能性があります。

アトピー性皮膚炎と言っても、その中には年齢や人種、血液中のIgEという抗体の量によって、さまざまなタイプがあることがわかってきていますので、アトピー性皮膚炎の中でもそれぞれのグループでどのようにタイプが異なり、治療戦略を変えていく必要があるか(もしくは同じ治療戦略でいいのか)、今後検討していく必要があります。

いずれにせよ、アトピー性皮膚炎の新しい治療は多くが現在テスト段階にあり、5年後、10年後には大きく治療戦略が変わる可能性がある分野です。

執筆者

野田 真史

参考文献

The Asian atopic dermatitis phenotype combines features of atopic dermatitis and psoriasis with increased TH17 polarization.

J Allergy Clin Immunol. 2015 Nov

[PMID: 26428954]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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