◆ケトアシドーシスとは
炭水化物が不足したとき、体に必要なエネルギーを作るため、脂肪を分解する働きが強くなります。
脂肪を分解する過程で「ケトン体」という種類の物質ができます。ケトン体は酸性であり、ケトン体の量が極端に多くなると、血液が酸性に偏って、腹痛や意識が遠くなるなどの症状を起こします。
このケトアシドーシスという状態は、治療されなければ脳や心臓に影響して死に至ることもある、危険な状態です。重症の糖尿病で炭水化物を正常に利用できなくなったときに起こることがありますが(糖尿病ケトアシドーシス)、糖尿病がない人にはまれと言われています。
◆授乳中の32歳女性
この報告は、糖尿病のない授乳中の32歳の女性にケトアシドーシスが起こった例です。この女性は嘔吐、動悸、手足のけいれんなどの症状があり受診しました。その10日前から、極端な低炭水化物・高脂肪の食事をし、体重が急に減っていました。
糖尿病を含め、明らかな病気はなく、似た症状を起こしうる甲状腺機能低下症などを疑わせる病歴もありませんでした。血液検査の結果、ケトン体が7.1mmol/lと極端に多いことなどから(正常範囲は0.5mmol/l以下)、ケトアシドーシスの状態と見られました。
◆ブドウ糖とインスリンで回復
ブドウ糖とインスリンの注射などによる治療が行われ、翌日にはケトアシドーシスの状態は解消され、3日後に退院となりました。
詳しい検査の結果、薬物中毒やホルモンの異常を起こす病気も否定され、低炭水化物・高脂肪の食事が原因の飢餓によるケトアシドーシスと最終的に診断されました。
研究班は「低炭水化物・高脂肪食のようにケトン体を生成する食事は、ケトアシドーシスを誘発しうる。授乳は状態をさらに悪化させ、ケトアシドーシスの引き金にさえなりうるのかもしれない」と結論しています。
低炭水化物・高脂肪の食事は糖尿病などの治療としても研究されていますが、極端に偏ることにはリスクもある一例と言えるかもしれません。
執筆者
Ketoacidosis associated with low-carbohydrate diet in a non-diabetic lactating woman: a case report.
J Med Case Rep. 2015 Oct 1
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。