◆伊東市の土に、アベルメクチンを作る細菌が住んでいた
この研究の当時、寄生虫を駆除する薬が研究されていましたが、効果が見られた物質は限られていました。研究班は、静岡県伊東市の土から見つかった「ストレプトミセス・アベルミチリス」という放線菌の一種から作られる物質が、それまでに知られていた物質とは違ったメカニズムで、寄生虫を殺す作用を持っていることを発見しました。詳しい分析の結果、作用する物質群が特定され、アベルメクチンと名付けられました。
◆アベルメクチンの研究とその後
アベルメクチンは、実験的に線虫に感染させたヒツジやウシなどの動物に与えると、95%以上を駆除する効果を示しました。
この論文では、アベルメクチンの分子構造や、ストレプトミセス・アベルミチリスの顕微鏡像などの生物学的特徴、菌がアベルメクチンを作り出すのに適した培養条件などが報告されています。
この研究以後、アベルメクチンをもとにイベルメクチンが開発され、寄生虫の感染によって起こる糞線虫症、オンコセルカ症、リンパ系フィラリア症などの治療に使われるようになりました。ヒゼンダニの寄生によって起こる疥癬の治療にも使われます。
WHOによれば、「[...]公衆衛生の問題としてのオンコセルカ症を撲滅するために、流行のある地域に住む全人口の65%が毎年イベルメクチンを使用する必要がある」とされています。
(上記出典:http://www.who.int/apoc/cdti/ivermectin/en/)
ノーベル賞のニュースでイベルメクチンという言葉を初めて見た方も多いと思います。このきっかけに、いまも多くの人を苦しめている感染症と、それに立ち向かってきた医学の歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょう。
執筆者
Avermectins, New Family of Potent Anthelmintic Agents: Producing Organism and Fermentation.
Antimicrob. Agents Chemother. 1979 Mar
[PMID: 464561]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。