◆免疫のもとになる物質だけを合成
研究班は、MERSの病原体であるMERSコロナウイルスに含まれる物質のうち、感染した動物の体内で免疫システムに発見され、抗体を作らせる性質(免疫原性)のある物質を特定しました。その「スパイク糖タンパク」と呼ばれる物質を遺伝子組み換え技術によって必要量だけ合成し、ワクチンとして、マウスの実験で効果を試しました。
◆マウスの感染を予防
研究班は、ワクチンを筋肉注射または皮下注射によってマウスに与えました。するとすべてのマウスで、白血球の中にMERSコロナウイルスを選んで攻撃する細胞が現れ、またMERSコロナウイルスを攻撃する抗体が作られました。
次に、ワクチンを接種したマウスがMERSコロナウイルスに感染しにくくなっているかを確かめる実験が行われました。MERSコロナウイルスは普通のマウスには感染しにくいと考えられますが、マウスの遺伝子組み換えによって、人間由来の「ジペプチジルペプチダーゼ4受容体」という物質を作らせることで、人間と近い程度に感染するようになると考えられます。こうして用意したマウスにワクチンを接種したうえ、MERSコロナウイルスに触れさせたところ、感染を抑える効果が認められました。
研究班はこのマウスの実験によって「この候補ワクチンの安全性と有効性が示されている」と述べています。実際に使えるようになるためには、人間にも安全に使えるかどうか、また実際に感染症を予防する効果があるかどうかが確かめられなければなりません。ワクチンがMERS対策を変える日は来るのでしょうか?
執筆者
Protective efficacy of recombinant Modified Vaccinia virus Ankara (MVA) delivering Middle East Respiratory Syndrome coronavirus spike glycoprotein.
J Virol. 2015 May 27
[PMID: 26018172]
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