2015.05.27 | ニュース

ウイルスがクラゲのタンパク質で大腸がんの細胞を光らせた

岡山大学で開発

from Gut

ウイルスがクラゲのタンパク質で大腸がんの細胞を光らせたの写真

がん細胞にはさまざまな遺伝子変異が起こっています。同じ臓器にできるがんでも、遺伝子変異のパターンによって、特定の抗がん剤の効きやすさなど性質の違いがあると考えられています。岡山大学などの研究班が、遺伝子組み換えしたウイルスに感染させることで血液の中を流れる微量のがん細胞が光って見える検査を開発しました。この検査によって、血液検査でがんの遺伝子診断ができる可能性があるとされています。

◆血液に流れているがん細胞を見分けたい

がんの遺伝子変異を調べるには、がん細胞を検査のために取り出すことが必要です。しかし多くの場合、がん細胞を取り出すには手術でがんを切り取ったり、がんに針を刺したりする必要があり、がんが体の深い部分にある場合などは簡単に検査できないことがあります。

研究班は、血液の中に微量に流れている、がんができた場所から分かれてきたがん細胞(循環腫瘍細胞)に注目しました。循環腫瘍細胞を効率的に取り出すことができれば、手術などの方法よりも体に負担をかけないで、がんの遺伝子診断ができます。

 

◆クラゲの蛍光タンパク質の遺伝子を組み込んだウイルスが、がん細胞を光らせる

研究班は、循環腫瘍細胞を見分けるため、がん細胞の中でだけ増殖するウイルスを遺伝子組み換えによって作成しました。さらにこのウイルスに、クラゲから発見された「GFP」という蛍光物質を作る遺伝子も組み込むことで、循環腫瘍細胞を含む血液にウイルスを加えたときに、循環腫瘍細胞だけが光って見分けられるようにしました。

細胞を光学的に見分けて選別する装置(フローサイトメーター)を使えば、光っている循環腫瘍細胞だけを取り出して、遺伝子解析にかけることができます。

※GFPとは:オワンクラゲから発見された、緑色に光るタンパク質。幅広い研究で利用されている。この物質を発見した下村脩は2008年にノーベル賞を受賞した。

開発された技術によって、実際の大腸がんの患者の血液から、循環腫瘍細胞を取り出し、特定の遺伝子変異があるかどうかを正しく判別できました。また、これまでの技術では見つけ出すことが難しかった「間葉系循環腫瘍細胞」も遺伝子解析することができました。

 

研究班はこの技術が「組織生検や外科的切除に代わりうる非侵襲的な選択肢となる」と述べています。がんの遺伝子の情報をもとに効きやすい薬などを選ぶ効率的な治療戦略を目指して、実際の診断への応用に期待がかかります。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Fluorescence virus-guided capturing system of human colorectal circulating tumour cells for non-invasive companion diagnostics.

Gut. 2015 Apr

[PMID: 24870621]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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