2017.08.16 | ニュース

インフルエンザの「痛くないワクチン」は効かない?2015-16年の結果

6,879人の調査から

from The New England journal of medicine

インフルエンザの「痛くないワクチン」は効かない?2015-16年の結果の写真

インフルエンザの予防接種として、鼻からスプレーするタイプの生ワクチンが海外で使われていますが、効果を疑問視する声もあります。2015-16年冬の予防効果が検討されました。

アメリカの疾病管理予防センター(CDC)などの研究班が、2015年末から2016年初の冬の患者のデータをもとに、インフルエンザの生ワクチンの効果を推計し、医学誌『The New England Journal of Medicine』に報告しました。

インフルエンザの生ワクチンは、鼻からスプレーすることで予防接種とするワクチンです。針を刺さないという特徴があります。日本では標準的とはされていませんが、輸入して使っている施設もあります。

日本で広く使われているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンです。注射して使います。
CDCは、2016-17年冬のインフルエンザ予防接種については、生ワクチンを使わないことを勧めました。理由として、2013年から2016年までのデータで生ワクチンの効果が弱かったことが挙げられています。

ここでは2015-16年の結果が報告されています。

 

研究班は、アメリカの5州(ミシガン州、ペンシルバニア州、テキサス州、ワシントン州、ウィスコンシン州)にまたがって行われた調査のデータを解析しました。

調査場所となった医療機関を受診した人で、咳があるなどの条件に合い、生後6か月以上の患者が対象とされました。対象者はウイルスを検出する検査(RT-PCR法)でインフルエンザウイルス感染の有無を判定されました。また、ワクチンを使用していたか、使っていればどの種類のワクチンだったかが聞き取り調査されました。

インフルエンザワクチン全体として、またワクチンの種類ごとに、インフルエンザを予防する効果が出ていたかが推計されました。

 

次の結果が得られました。

6,879人の適格参加者のうち、1,309人(19%)がインフルエンザウイルス陽性であり、特にA(H1N1)pdm09(11%)、インフルエンザB型(7%)が多かった。何らかのインフルエンザ症状に対してインフルエンザワクチンの有効性は48%(95%信頼区間41-55、P<0.001)だった。2歳から17歳の子供の間で、インフルエンザ不活化ワクチンは有効性60%(95%信頼区間47-70、P<0.001)であり、弱毒化生ワクチンは効果が見られなかった(ワクチン有効性5%、95%信頼区間-47から39、P=0.80)。

6,879人のデータが使われました。インフルエンザウイルスが検出された人は1,309人でした。

何らかのワクチンを使用した人では、インフルエンザが予防された割合の近似値として、ワクチン有効性が48%と計算されました。

2歳から17歳の子供に対して、不活化ワクチンの有効性は60%生ワクチンの有効性は5%と計算されました。不活化ワクチンは有効と見られましたが、生ワクチンについては、偶然の可能性も考えると、5%という推計値が統計的に有効とは確かめられませんでした。

研究班は「インフルエンザワクチンは2015-2016年のシーズンにインフルエンザ症状のリスクを減らした。しかし、不活化ワクチンがかなりの有効性を示した年に、弱毒化生ワクチンは子供の間で効果がないと見られた」と結論しています。

 

2015-16年のシーズンにインフルエンザの生ワクチンが効果を示さなかったとする報告を紹介しました。2016-17年にCDCが生ワクチンを勧めないとした背景にはこうした状況があります。

2017-18年に向けた予防接種については、8月10日時点でCDCから同様の発表は出ていません。

インフルエンザの生ワクチンは過去に有効とした報告もあります。効果が確かめられないという結果をどう解釈しどう対処するかは今後に委ねられています。

日本で通常使用されているインフルエンザワクチンは注射するタイプの不活化ワクチンです。自分から探さない限り、知らずに生ワクチンを使ってしまうことはないでしょう。注射が嫌いな子供も多い中で、スプレーするだけで予防接種の効果が得られるなら助けになりそうですが、予防効果についての異論もあります。あえて生ワクチンを選ぶかどうかは、現時点でわかっている情報を十分に理解したうえで考えてください。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Influenza Vaccine Effectiveness in the United States during the 2015-2016 Season.

N Engl J Med. 2017 Aug 10.

[PMID: 28792867]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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