2017.06.30 | ニュース

乳がん・卵巣がんになりやすい遺伝子変異でどれぐらいがんになるのか

追跡データから推計

from JAMA

乳がん・卵巣がんになりやすい遺伝子変異でどれぐらいがんになるのかの写真

遺伝的に乳がんや卵巣がんになりやすい人がいます。BRCA1またはBRCA2遺伝子の変異は原因のひとつです。追跡調査によるデータをもとに、80歳までにがんが発生する割合などが推計されました。

BRCA1とBRCA2は遺伝子の名前です。BRCA1またはBRCA2に特定の変異がある場合、ほかの人に比べて乳がんや卵巣がんが発生する確率が高くなります。

ここではBRCA1/2の変異がある人を対象として、実際に追跡調査を行って乳がんや卵巣がんの発症を記録したデータをもとに、リスクを推計した研究を紹介します。
 

イギリスのケンブリッジ大学などの研究班が、過去に報告された追跡調査のデータを参照して、BRCA1の変異またはBRCA2の変異がある人で乳がんや卵巣がんが発生する割合などを調べました。

データをもとに年齢ごとのがんの発生率を推計し、さらに家族にがんの経験があった場合や、遺伝子変異の種類によって違いがあるかを検討しました。

情報源として、過去に報告されている研究データ(IBCCS、BCFR、kConFab)を使いました。

次の観点からデータを解析しました。

  • 乳がんが発生したかどうか
  • 卵巣がんが発生したかどうか
  • 乳がんを診断された人で、反対側の乳房に新しく乳がんが発生したかどうか

家族については、第一度近親者(両親、兄弟姉妹、子供)と第二度近親者(祖父母、孫、叔父・叔母、甥・姪、半血兄弟姉妹)をまとめて「家族」と扱い、がんとの関連を調べました。

 

乳がんについて、次のデータが得られました。

  • 人数:3,886人
  • 年齢:半数が38歳以上
  • 追跡期間:半数が5年以上
  • 乳がんの診断:426人

年齢ごとの発生率などをもとに推計した結果、80歳までに乳がんが発生するリスクはBRCA1に変異がある人で72%、BRCA2に変異がある人で69%と見積もられました。

 

卵巣がんについて次のデータが得られました。

  • 人数:5,066人
  • 年齢:半数が38歳以上
  • 追跡期間:半数が4年以上
  • 卵巣がんの診断:109人

80歳までに卵巣がんが発生するリスクの推定値は、BRCA1に変異がある人で44%、BRCA2に変異がある人で17%となりました。

 

反対側の乳がんについて次のデータが得られました。

  • 人数:2,213人
  • 年齢:半数が47歳以上
  • 追跡期間:半数が4年以上
  • 反対側の乳がんの診断:245人

最初の乳がんの診断から20年後までに反対側の乳がんが発生するリスクの推定値は、BRCA1に変異がある人で40%、BRCA2に変異がある人で26%となりました。

 

家族のがんの経験との関係について次の結果が得られました。

  • 自分にBRCA1の変異がある人のうち、家族に乳がんが発生していない人に比べて家族に1件以上乳がんの発生がある人では乳がんの発生率が高い
  • 自分にBRCA2の変異がある人のうち、家族に乳がんが発生していない人に比べて家族に2件以上乳がんの発生がある人では乳がんの発生率が高い
  • 卵巣がんについては、家族に卵巣がんがあるかどうかで発生率の違いが確かめられない

 

遺伝子変異の種類との関係について次の結果が得られました。

  • BRCA1の変異のうち、遺伝子の特定の範囲に変異がある場合、ほかの範囲の変異よりも乳がんの発生率が高い
  • BRCA2の変異のうち、遺伝子の特定の範囲に変異がある場合、ほかの範囲の変異よりも乳がんの発生率が高い
  • BRCA1/2の変異の位置と卵巣がんの発生率には関連が確かめられない

 

ここで参照されたデータは、ヨーロッパ・北米・オーストラリアなど白人が多い国のものです。乳がんは一般に白人でアジア人よりも多く発生します。

アメリカの統計に基づいた推計で、50歳の女性に以後30年間(80歳まで)に乳がんが発生する割合は8.75%とするものがあります。

BRCA1/2の変異があれば乳がん・卵巣がんのリスクはかなり高くなっていることがわかります。

紹介した研究によって、家族に乳がんの経験があるか、また遺伝子変異の種類を調べることでより詳しく予測できることが示唆されました。

 

BRCA1/2の変異がある人を対象に、乳がん予防のため正常な乳房をあらかじめ取り除いておく手術があります。卵巣がんに対しても予防のため卵巣を取り除く手術があります。

予防のため正常な臓器や組織を取り除くという考えは、日本ではまだ当然と言えるほど浸透していません。BRCA1/2の変異があっても一生乳がんにも卵巣がんにもならない人もいます。乳がんは発生しても治療によって長期生存できる見込みが比較的大きいがんです。また、卵巣を取り除くと妊娠できなくなるので、予防のための手術は出産の希望がなくなったあとで検討されます。

BRCA1/2の変異が見つかった場合に予防のための手術をするかどうかは個人の価値観によっても変わります。予防はしないという考えに立って、そもそもBRCA1/2の検査をしないという選択肢もあります。

また、遺伝子の情報は自分だけでなく親族にも関わります。遺伝について十分に理解したうえで検査することが望ましいと言えます。

 

病気と遺伝子の関係は最近の研究でもより明らかになりつつあります。遺伝子の情報をどのように受け止めるかは価値観の関わる部分ですが、前提として影響が「どの程度なのか」を事実に基づいて把握することが必要です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers.

JAMA. 2017 June 20.

[PMID: 28632866]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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