分子標的薬とは?
がん治療で使われる分子標的薬は、がん細胞が持っている特定の分子を見分けて働きかけることで、正常な細胞に対する作用を最小限に抑えつつ治療することを図った薬です。
分子標的薬は抗がん剤の一種ですが、従来の抗がん剤と働くしくみが違うことから、特に区別して呼ばれます。
がん細胞が特定の遺伝子変異を持っている場合を選んで分子標的薬を使う治療法も知られています。たとえば「HER2陽性」と呼ばれる遺伝子変異のある乳がんに対して、トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)が使われます。
進行胃がんを治療する分子標的薬
進行胃がんに対してもいくつかの分子標的薬が使われています。
日本では、「治癒切除不能な進行・再発の胃癌」に対してラムシルマブ(商品名サイラムザ)、「HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌」に対してトラスツズマブが承認されています。
日本胃癌学会による『胃癌治療ガイドライン』(第4版、2014年)には、HER2陽性胃癌に対して「カペシタビン(または5-FU)+シスプラチン+トラスツズマブ療法が推奨される」と記載されています。ラムシルマブが発売されたのは、このガイドラインよりもあとの2015年です。
過去の研究結果を調査
進行胃がんに対する分子標的薬の効果を検討した研究を紹介します。
この研究では、これまでに行われた研究データを集める方法が使われました。研究班は、2015年12月までの範囲で文献データベースを検索し、進行胃がんに対して分子標的薬の効果を試した研究報告を集めました。胃食道接合部の食道がんも対象に含めました。
分子標的薬を加えても延命効果ははっきりしない
基準を満たす11件の研究が見つかりました。対象者数は合計で4,014人となりました。11件すべてで、分子標的薬を含まない化学療法と、それに分子標的薬を加えた治療が比較されていました。
結果のデータをまとめると次のようになりました。
従来の化学療法のみに比べて、分子標的薬は死亡率にわずかな効果を及ぼすかもしれないことの、質の低い証拠が得られた(ハザード比0.92、95%信頼区間0.80-1.05、10件の研究)。
分子標的薬を加えると、死亡率は平均してやや低くなるようでしたが、統計的に差があるとは言えない水準でした。
分子標的薬を追加すると副作用は増える
副作用について次の結果がありました。
分子標的治療を加えることは、化学療法のみに比べて、おそらく有害事象のリスクを増加させ(オッズ比2.23、95%信頼区間1.27-3.92、5件の研究、2,290人の参加者、中等度の質のエビデンス)、深刻な有害事象のリスクも増加させる(オッズ比1.19、95%信頼区間1.03-1.37、8件の研究、3,800人の参加者)。
ほかの抗がん剤による治療に分子標的薬を加えることで、副作用が全体として多く、深刻な副作用に限っても多くなると見られました。
まとめ
進行胃がんに対して、化学療法に分子標的薬を加えることで延命効果ははっきりしない一方、副作用はありそうだという結果でした。
進行胃がんに対して分子標的薬を使う治療は比較的最近になって登場した治療法です。今後の研究で新しい側面が明らかになる可能性もあります。将来は使い方が洗練されたり、新しい分子標的薬が導入されることで効果が上がることも想像できます。
ひとつの報告だけにとらわれることなく、引き続いて新しい情報に目を配ることが大切です。
執筆者
Molecular-targeted first-line therapy for advanced gastric cancer.
Cochrane Database Syst Rev. 2016 Jul.
[PMID: 27432490]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。