しかしそれは、全くの誤解であることがやがて分かりました。紹介状を書くのに、互いに知り合いである必要はありません。卒業して一ヶ月目の研修医でも、大学病院の有名な医師宛てで紹介状を書くことができるのです。
◆ 本来の用途は「患者さんの引き継ぎ資料」
紹介状の正式名称は、診療情報提供書と言います。新しい病院に移ったときに、一から全てがやり直しにならないためのもので、以下のような内容が書かれています。
- こういう経過で当院に受診されました
- 診察の結果はこうでした(心音、呼吸音、etc.)
- このような検査をして、結果がこうでしたので、診断は○○と考えています
- このような治療を過去に行っています。効果は△△でした
- そちらの病院でより詳しい検査を希望されていますので、この度は××さんを、ご紹介させていただきました
つまり紹介状とは、引き継ぎ、申し送り用の書類に過ぎないのです。その名の通り、診療情報の提供書です。正式名称は長いので、つい「紹介状」と呼ばれがちなのですが。
患者目線からすると、何となく偉いドクターを紹介してくれる依頼状のように思えてしまいますが、本来は医師ではなく患者さんを紹介するためのものになります。
◆ 紹介状の厚さは重要?
総合病院同士の間で移動する際には、それまでにも様々な検査が行われていることでしょうから、紹介状の分量は多くなります。パソコンでA4サイズに記入した文章が1-3枚程度、加えて過去に行った検査結果が数枚~数十枚、そしてレントゲンやCTの画像をCD-Rに焼いて添付するという形が一般的です。
一方で、町のクリニックから総合病院へ紹介される場合には、まだこれから詳しい検査を行うという段階ですから、紹介状は全部合わせても数枚以内でしょう。1枚で必要な情報が十分に収まる場合もあります。
過去に、ご高齢の先生から 「○○殿 狭心症の疑いです。よろしく頼みます」 といった便箋1枚、走り書きの紹介状が来て、仰天したことはありましたが、これはさすがに、今の時代にはそぐわないと思います。
◆ 特定の医師を指名しての紹介は可能?
冒頭に書いたように、個人指名で紹介状を書くことも確かにあります。
しかし多くの場合は、医師個人宛てではなく、「メドレー病院 循環器内科」のように、病院と科のみを指定して作成します。その科の中で、どの医師が診るかは、先方の都合次第ということです。
どうしてもその医師でなければならない理由がある時には、その医師宛てで書くこともありますが、その場合には、申し送り事項以外にも事情を詳細に記載するのが礼儀と考えられます。元々その医師のかかりつけであったり、その医師しか行っていない治療だったりするような場合が該当します。
「少しでも手術が上手な、有名な先生にお願いしたい」というのが人情ではありますが、世界的に有名な外科医に軽症の患者さんを紹介することは、その分、重症の患者さんの手術枠が一つなくなるということです。正当な理由のない医師の指名は行われるべきではありません。
また、特定の病院を指定したとしても、並んでいる列に横入りができるわけではありません。有名病院や有名医師の外来は一杯で待機期間が長くなることも多いので、病状とのバランスも考慮する必要があります。
基本的には自宅からの近さや、その病院が強い分野などを考慮して、医師と相談するのが良いでしょう。医師の指名はできなくても、病院の指定は可能です。
◆ さいごに
「紹介状をお願いすると、目の前の医師に失礼に当たるのではないかしら」という心配は、ごもっともだと思います。「そのようなシステムになっているから大丈夫ですよ」とお答えしてはいますが、そう言われても、言い出すのに勇気が必要という方もいるでしょう。
基本的には病状に応じて医師の側から紹介状作成を申し出るべきです。しかし患者都合での紹介希望も、病院としては慣れたことではありますから、心配する必要はありません。それでも不安が拭えない場合は、「以前父がずっと○○病院でお世話になっていたので」、「○○病院が今の職場から近いので」などと言えば、角も立たずに言いやすくなるのではないでしょうか。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。