じへいすぺとらむしょう(じへいしょう、あすぺるがーしょうこうぐん、こうはんせいはったつしょうがい)
自閉スペクトラム症(自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害)
社会性やコミュニケーションに関連する脳の働きに、発達段階で障害がでること
19人の医師がチェック 258回の改訂 最終更新: 2023.02.01

自閉スペクトラム症とはどのような病気か

自閉スペクトラム症の人には「社会的なコミュニケーションが苦手」、「こだわりが強く変化が苦手」、「興味の範囲が極端に狭い」、「行動に単調な繰り返しがある」などの特徴があります。知能や言葉の障害をともなうこともありますが、ないこともあります。近年では自閉症やアスペルガー症候群を明確に区別せずに、自閉スペクトラム症と呼ぶことが多いです。

1. 自閉スペクトラム症とは

「自閉スペクトラム症」は比較的新しい病気の概念です。「スペクトラム」とは少しずつ違いのあるものが互いに明確な境界なく連続的に位置付けられる様子を指す言葉です。自閉症やアスペルガー症候群などの類似した概念を連続的にとらえようとする立場から、近年では自閉スペクトラム症という呼び名が使われています。

一般に自閉スペクトラム症の特徴とされるのは次の2点です。

  • 社会的なコミュニケーションがうまくとれない
  • 行動や関心が狭い範囲に限定され、その中で繰り返しの多い様式がある

言語の障害がある場合とない場合、知能の障害がある場合とない場合がありますが、これらを明確に区別せず、多様な状態が「自閉スペクトラム症」に含まれます。

2. 自閉スペクトラム症の人はどれくらいいるのか

自閉スペクトラム症の割合は人口の1-2%程度だとされます。100人に1人くらいは当てはまると考えると、かなり身近だと感じられるかもしれません。ただし、日本人を統一的に対象とするような統計はないので、正確なところはわかりません。

3. 自閉スペクトラム症に原因はあるのか

自閉スペクトラム症の原因は完全には解明されていません。これまでにさまざまな仮説と研究があり、いくつか関連する要素が指摘されています。

  • 遺伝的要因
  • 神経生物学的要因
  • 環境要因

それぞれについて説明します。

遺伝的要因

自閉スペクトラム症に遺伝的な要因が関係していることを伺わせる事実が見つかっています。

  • 兄弟姉妹に自閉スペクトラム症が見つかっている人では、そうでない人よりも自閉スペクトラム症が多い
  • 一卵性双生児の一方に自閉スペクトラム症がある場合、他方には、そうでない人よりも自閉スペクトラム症があることが多い

しかし、自閉スペクトラム症の直接的な原因と言える遺伝子は特定されておらず、未解明な部分が多く残されています。

神経生物学的要因

脳に起こった何らかの異常が自閉スペクトラム症の発症と関係している可能性も考えられています。その根拠として、脳の画像検査による研究などで、自閉スペクトラム症を持つ人の特徴と考えられる点が見つかっています。しかし、明確に説明するには至っていません。

環境要因

出生前後の環境中に自閉スペクトラム症につながる要因があるのではないか、という観点で多くの研究が行われています。研究結果の中には出生時などの健康状態と自閉スペクトラム症に統計的な関連があったとする報告もありますが、現在のところ関係ははっきりしていません。

4. 自閉スペクトラム症の症状について

自閉スペクトラム症には多様な状態が含まれますが、冒頭にも出てきた次の2点がある場合に自閉スペクトラム症と診断されることが多いです。

【自閉スペクトラム症の特徴】

  • 社会的なコミュニケーションがうまくとれない
    • 視線、表情、身振りなどによる非言語的コミュニケーションを使いこなせない
    • 他人と興味や感情をうまく共有できない
    • 友達をうまく作れない
  • 行動や関心が狭い範囲に限定され、その中で繰り返しの多い様式がある
    • 身体の動き、物の扱い方、会話において単調な繰り返しがある
    • 日常生活において、手順や並び方などがいつも同じであることにこだわり、変化を嫌がる
    • 一般的ではないものに強い興味を持ったり、狭い範囲に強いこだわりを持ったりする
    • 特定の感覚刺激に対して過敏、または鈍感である

これらに加えて知能や言語の障害がある場合もあります。特に、「言外の意味を読み取れず、言葉を文字通りに解釈する」、「言われたことをオウム返しにする」といった特徴です。また、自閉スペクトラム症を持つ人では、身体の動きが不器用であることも多いとされます。これらの特徴によって社会的活動などに支障が現れる場合もあります。

自閉スペクトラム症であることが社会生活を営むうえで問題となるかどうかは、一人ひとりの状態や、生活環境によっても違います。上記の特徴があっても社会生活に特に影響が及んでいない場合には、気に留めることはないかもしれませんし、反対に社会生活に悪影響が及んでいるのであれば、周りのサポートや本人の適応が必要になります。

5. 自閉スペクトラム症の検査について

自閉スペクトラム症は一度の受診で簡単に診断がつくものではありません。個人差も大きく、何回かにわたり検査をすることもあります。問診では、普段の様子についての保護者からの情報が重要です。気になっていることを具体的に伝えるようにしてください。

問診の情報から追加の検査が必要と判断されれば、知能検査などを受けることになります。詳しくはこちらのページを参考にしてください。

6. 自閉スペクトラム症の治療について

自閉スペクトラム症を根本的に治す方法というのは現在のところありません。そのため、コミュニケーション獲得のための行動療法や周囲の人々のサポートによって、社会でよりよく生きられる状態を目指します。

また、自閉スペクトラム症には「スペクトラム(少しずつ違いのあるものが互いに明確な境界なく連続的に位置付けられる様子を指す)」という言葉が示すように幅広い特性が含まれます。そのため治療は画一的でなく、一人ひとりに合わせて柔軟に行うことが大切です。

自閉スペクトラム症の子どもを支援する目的で、「療育」が行われることがあります。療育は基本的なコミュニケーション能力を獲得することが目的です。基本的なコミュニケーション能力が獲得できている場合は、社会に適応していくことを支援する「ソーシャルスキルトレーニング」という方法もあります。詳しく知りたい方は、こちらのページを参考にしてください。

7. 子どもが自閉スペクトラム症かもしれないと思ったらどうしたらいいのか

一人で悩みを抱えず各自治体の発達相談センターや、かかりつけの小児科などに相談してみてください。自閉スペクトラム症の診断を得意とする診療科は精神科や小児精神科(児童精神科)ですので、ここに相談してもよいです。「発達障害専門外来」がある医療機関もあります。

自閉スペクトラム症の診断は1回では難しいことも多いので、診断のために複数の医療機関で診てもらうこともあります。 また「自閉スペクトラム症の疑いがある」と言われて戸惑いを覚え、どうやってこれから育てていけばいいのか心配になってしまう人もいると思います。大切なのは、自閉スペクトラム症という診断がつくことではなく、子どもが抱えている発達やコミュニケーションの課題に対して何ができるかを考えて、実行していくことなのです。

今のところ自閉スペクトラム症を完全に治せる治療薬はなく、症状と付き合っていくことになります。人によっては、苦手な部分のサポートを受けたり、学習したりしながら、得意な部分の能力を活かして成長する子どももいます。お医者さんや臨床心理士と一緒になって考えるようにしてみてください。

詳しくはこちらのページも参考にしてください。

受診するときのポイント

自閉スペクトラム症は1回の診察では分からず、診断がつかないこともあります。これは子どもにありがちな、調子の変動がその日によって大きいことが影響していると考えられています。診察でお医者さんが得られる情報は限られているので、普段の家での生活や周りの人との関わり方、保育園や幼稚園での様子、困りごとなどの保護者からの情報が重要です。

自閉スペクトラム症と関係あるかどうかわからないようなことでも、何かのヒントになるかもしれません。日頃気になっていることがあれば、遠慮なくお医者さんに伝えてください。

8. 自閉スペクトラム症、自閉症、アスペルガー症候群の違いとは

定義上、自閉症とアスペルガー症候群の違いは、全体的な言語の発達の遅れ・滞りがあるかないかで区別されます。自閉症は、言語の発達の遅れを伴いやすく、乳幼児のときに診断されることが多いです。一方で、アスペルガー症候群は言葉の遅れがないためか、成長してからも本人や家族が障害だと考えないような場合もあります。

しかし現在は、上記で説明したように、両者を含んだ概念である「自閉スペクトラム症」という言葉が自閉症やアスペルガー症候群のかわりとして使われることが多いです。

一方で、自閉スペクトラム症ではなく「広汎性発達障害」というグループの中にアスペルガー症候群などを位置づける考え方があり、この場合は自閉症とアスペルガー症候群は区別されます。

ここでみなさんに知って欲しいことは、使う用語や概念によって自閉症とアスペルガー症候群が同じグループだとみなされたり、みなされなかったりするということと、明確に自閉症とアスペルガー症候群を区別することが難しい場合もあるということです。